第26話現実逃避はいつでも自分の味方となる

ガチャッ

部屋の扉が開かれる音が聞こえる。


「?」


私はそのままの体制で、耳を傾ける。

すると中に入ってきたと思われる人が、こんな事を口にした。


「なんだい、帰ってたのかい」


帰ってた?

タクヤ達の知り合いじゃろうか。

私は目をつぶったまま声の主に耳を傾ける。


「…なんだ?この子は」


そう言って私が寝ているベットに近づいてくる謎の人。

私はいざと言う時の為に無詠唱でも発動出来る簡易魔法を構え、準備する。

ふと、瞼の内側が暗くなった。


「!」


まずい。

顔を覗かれている。

私は精一杯狸寝入りを決め込むが、その努力も謎の人の一声によって砕かれる。


「起きてるだろ」


「?!」


なんで気づかれたんじゃ…っ!

私は起きていると気づかれているのにも関わらず、狸寝入りを続ける。


「別に寝たフリしなくても大丈夫だよ!ワハハハ!」


謎の人は、そう言った後、なんだか喉が乾きそうな笑い方で笑った。

私は恐る恐る目を開ける。

するとそこには、私の顔を覗き込む体格のいいおばさんが居た。

私はその姿に一瞬怯んでしまう。


「で、あんたは誰だい?」


おばさんが身体によらず優しい声で聞いてきた。


ーー「なるほど、タクヤ達を助けてくれたのか!そりゃありがとうな!ワハハハ!」


私の説明を聞いたフィスばぁは、また喉が乾きそうな笑い方で笑った。

そして私も、タクヤとネルの師匠である事、このおばさんがフィスと言う名前の事などを聞いた。

話を聞くと、どうやらこの2人も出会ったのは昨日らしい。


意外と浅いんじゃな。


私がそう思っていると、フィスばぁが語りかけてきた。


「で、あんたはこれからどうするんだい?」


「これから…どうすればいいんじゃろうか。私には分からないんじゃ」


私は、心の底からの本心を伝えた。

なんだかこのおばさんになら、話しても良い気がした。


「…まぁ気楽に考えれば良いわ!ワハハ!」


気軽に…か…。

そうじゃな。

気軽に行きたいな…。


「そうじゃな…」


私は声のトーンを落として言った。

するとフィスばぁは数秒間私を見つめて、こう言っ

た。


「なぁ、あんたは孤児なんだろ?」


「えっ」


私は意表を突かれた様に反応する。

なんでフィスばぁは私が孤児である事が分かったのじゃろうか?


「なんで分かったのじゃ?」


「長年の勘とでも言うのかな!ワハハハ!」


「…」


「…良かったら聞かせて貰えんか。あんたの事を」

そう真面目なトーンでフィスばぁが言った。


私は、これまで自分の過去など、話した事は無かった。

めんどうだった。


だが、もう…疲れた………。


もしかしたら私は、人に過去を聞いて欲しかったのかも知れない。

そう思い、フィスばぁには私の過去を話すことにした。


ーー3年前

目の前は業火に包まれ、そこらじゅうから悲鳴が聞こえる。

地面には身体が焼け焦げた人や、熱で頭蓋骨が熔け、脳みそが出ている人などがそこらじゅうに転がっていた。

そして、私の住んでいる村は終わりを遂げた。

今この世界は3つの派閥とも言えるものに分かれている。

それは、魔王を従え、魔物を操る悪魔。エルフを従え、精霊術と言う特殊な魔法を使い、悪魔と拮抗する天使。

そして、魔法と言う力を使い、2つの勢力の間に立つ人間である。

だが最近、人間の活動領域の拡大は凄まじく、悪魔と天使、両陣営でもむやみには手出しできない程となっていた。

そしてこの村が焼かれる1ヶ月前、事件は起った。

人間が龍の掟に背いたのである。

龍の掟とは、この2つの勢力をまとめるものである。

この掟によって、悪魔と天使の両陣営は、お互いに並行的な強さ維持してきた。

だが、人間が新しい【兵器】を作り、その均衡を壊してしまったのである。

その行動に激昂した両陣営は、悪魔と天使、お互いに手を取り合い、人間の領域に攻め込んだ。

そしてそれは、森の中で平和に暮らしていた一介の村にも及んだ。

「村はもうダメだ…っ!早く逃げろ!!」

「助けて!!私の赤ちゃんだけでも助けてあげて!!お願いします誰か…っ!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うぐっ止めてくれ!こいつなら殺してもいいから!俺は…俺だけは……っっ!」

「来るな…っ!来るな…っっ!!」

そこらじゅうから悲鳴や、命乞いをする声が聞こえる。

その様子を見て私は、呆然としていた。

何も出来ない。

絶大な力に対抗出来る能力は、私には無かった。

「そうだ…お母さん…」

私はそう言いながら燃えている村へと入っていく。

目の前の火に突っ込もうとした時、私のお父さんが私を抱き抱えた。

そして近くの森へと逃げ込む。

「待って…っお母さんが…っっ!」

私の言葉に父は反応しなかった。

私はその意味を、一瞬で理解した。

あぁ、もうお母さんとは会えないんだ。

もう…………………………………………。

その無言の意思を理解した瞬間、無理やり私を連れて逃げようとする父に抵抗していた私の腕は、力を無くした。

もう助けられないなら戻っても仕方がない。

助けられないなら抵抗しても仕方がない。

そう…考えるしか無かった………。

かろうじて逃げられた私と村の人達数人は、近くの襲撃を受けていない村に逃げ込んだ。

「ねぇお父さんこれからどうなるの?」

「私たち前みたいに暮らせるの?」

私はその村で、父に沢山質問したが、父がまともに答えてくれることは無かった…。

2年後。

ある日の事、「1人で遊んでくる」と言って近くの森の中に居た。

私にもっと力があれば。

助けられた。

絶対に助けられた!!

私は、怒りと憤り、悲しみが混雑した感情が渦巻き、自分を責める様になっていた。

お母さんが死んだのは自分が悪い。

私を連れ去って逃げようとする父を止める力も無かった自分が悪い。

そう思った瞬間、私は村から逃げていた。

現実逃避である。

そして村から逃げて1週間、四大宝玉を見つけた。

宝玉ははそれぞれ緑、青、赤、黄色の4つで、緑は風

赤は炎

青は水

黄色は大地

と言う属性を持っており、その能力を組み合わせて様々な魔法が使えた。

元々潜在魔力が強いと言われてきた私には適任だったらしい。

その宝玉は私に強くなれる道を示してくれ

た。

そして旅を続けた。

目的は無い。

ただの現実逃避だ。

そしてある日、タクヤに出会った。

それでこうなった。


ーー「とまぁこんな感じじゃな」


私が説明すると、フィスばぁが号泣しなながら「大変だったなーー!!」と言っていた。

その姿を見て私は「な、何なんじゃ?!」とうろたえていたが、実はちょっと嬉しかった。

とそこで、どこからともなくあくびをする声が聞こえた。

どうやらタクヤが起きたらしい。


「起きたな…」


フィスばぁは涙で赤くなった顔を拭いながら、タクヤの元へと行く。

その様子を見て私は、またベットに横たわった。

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