第20話フィスばぁ

ワハハハ!

遠くで、フィスばぁの笑い声が聞こえる。


ーー火で肺が焼けて苦しいはずなのに、全然痛みなどの感情を感じない。

俺は真っ暗な世界に居た。


そこは何も無かった。


俺の声も響かない。


俺の意思も届かない。


俺の涙も流れない。

(俺、死んだのかな……………真っ暗だ。死んだら前世の記憶も…ネルの記憶も無くなっちゃうのかな…悲しいな……。これが死ぬって事なのかな……………………………)

ポロッ


ふと、涙が流れた。


(あれ?なんで俺、泣いてるんだろう。)


そう思うと、次々に涙が流れてくる。

ポロポロポロ…

その時、真っ暗な世界の片隅に、一筋の光が刺した。

俺はその光に引き付けられる様に手を伸ばす。


(そうだ、こんな所で終われない。ネルを…ネルを守らないと…っ!)


(ネル、ネル、ネル、「ネル!」)


パァァァァ!!

目の前が光に満ちる様に明るくなる。


「うぇ〜んタクヤ〜〜!」


気がつくと、そこは広間の地面だった。

ネルが俺の体に乗りかかって俺を抱きしめている。


「良くやった良くやった!ワハハハ!」


その時、あの喉が渇く笑い声が聞こえた。

ばっ!

俺は勢いよく起き上がる。


「うっ」


バタっ

が、まだ体が本調子では無いので、直ぐに身体から力が抜ける。


「タクヤ!まだ無理しないで!血が少ないから無理

に動くと気絶しちゃう!」


ネルがそんな怖いことを言ってくる。


「ワハハハ!安心しな。ちゃんと説明するよ!ワハハハ!」


説明?

あんな事しておいて説明だと?

ネルをあんな傷だらけにしたこのクソババアが説明?

はっ、ふざけんじゃねぇ。調子乗ってんじゃねぇぞ。

お前は俺が絶対に殺す…っっ!!

そんな事を思うが、その意思に身体が着いてこない。

そこでフィスばぁが喋り出し始めた。

俺は殺気で満ちた顔でフィスばぁを睨む。


「お前達と戦ったのは本気の実力を測るためだ。その為に二人を怒らせて本気を出させた。ちなみにネルとお前さんの傷は私のヒールで治している。血は足りていない様だかまぁそれは仕方ないだろ、お前さんがあそこまでやるとは思っておらんかったもんでな、そこはすまんかった。まぁ許してくれやワハハハ!」


そう言って笑い出した。


「……」


俺は言葉が出なかった。

実力を測るためにネルに怪我をさせた?

頼んでも無いのに?

なんのために?

ふざけんじゃねぇ。

全然理由になってねぇ説明になってねぇ。

第一そのせいでネルは死ぬとこだったんだぞ?!

俺は怒りで歯をギリギリときしませる。

フワッ


その時、ネルが俺の頭を抱きとめた。


「…っ」

ネルは、泣いていた。

なぜ泣いているのだろう?

フィスばぁに酷い事をさせられたから?

死にそうになったから?

違う。

その泣き顔はそんな物では無かった。

その泣き顔は、俺を憎しみの檻から解き放っている様な、俺を怒りの世界から救い出している様な、過去の自分の過ちを繰り返さない様にする様な、そんな顔だった。


「タクヤ…大丈夫だよ」


大丈夫。

その言葉で、俺の中にあった罪悪感や、怒り、憎しみの感情がスっと抜けていく気がした。

そしてそのまま、俺は深い眠りに着いた。

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