第19話タクヤ

俺は今、ネルと手をつなぎながら、フィスばぁに連れられて路地裏を歩いていた。

とその時、フィスばぁが立ち止まった。


ここが目的地か。


そこは、路地裏の広間のような場所だった。

広間は、四方を建物に囲まれているため薄暗く、ちょっと不気味だっだ。

フィスばぁはそこの広間を一回り見渡して、俺達の方にクルッと向き直り、こっちへ寄ってくる。

俺は真正面から来る巨体に、少し身構えてしまう。

そしてフィスばぁが「よしこの辺でいいかな」と変な事を口走った後、もっと変な事を言ってきた。


「お前ら武器を構えな!」


「えっ?」

ブォンッ!


「うおっ」


フィスばぁの言葉にうろたえていた俺に、蹴りを喰らわそうとしてくるフィスばぁ。

俺はギリギリでそれをかわす。

というか運良く足が滑っただけだけど。


おいおいなんだよあのパワー!

足を蹴りあげただけなのにやべー音したぞ?!


俺がフィスばぁの常人離れした蹴りの音におののいていると、ザッとネルが前に出た。

ゴゴゴゴ


「タクヤを傷つける人は誰であろうと許さない」


ネルが今まで聞いた事が無いくらいの圧がある声で言う。

俺は突然の事過ぎてその場に尻もちを着く。


「ほぉあんたが最初かい?」


「……」


ネルは無言で闘気を高める。

しばらくの沈黙が流れた後、2人同時に動き出す。

サッ

一瞬で2人の姿が消える。

バゴッ ダンッ ドンッ ボンッ!


目にみえぬ速度で拳と拳が合わさる音が広間のそこらじゅうから聞こえる。

凄い。


ネルってこんなに強かったのか。


バゴッ ドンッ ダンッ グゴッ!

ドサッ

その時、傷だらけになったネルが、広間中央の空間から落ちてきた。


「ね、ネル!!!!」


俺は叫びながら駆け寄る。


「おい!大丈夫か?!」


息はしている。

生きてる、生きてる!

大丈夫だ。

俺は何度も自分に言い聞かせる様にネルの状態を確認する。


「……タクヤ」


「ネル!大丈夫だ。俺が助けてやるからな!」


「タクヤ…逃げて」


そう言ってネルの体から力が抜ける。


「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ザッ


「どうだ少しはお前もやる気が出たかい?」

フィスばぁが俺の後ろから喋りかけてくる。


「………」


「なんだい、男のくせにだんまりかい?恥ずかしいねぇ」


「………」


「そんなんだからその【商品】が死んだんだよ」


「…っっ!!」


「おや?ようやくヤル気になったかい?」

俺はゆっくりと立ち上がる。


「殺す」

そう言いながら剣を抜き、全速力でフィスばぁに襲いかかる。


「単純だねぇ」

フィスばぁは俺の剣を片手で受け止め、ポキッ、ーー折った。


「くっ……っ!」

俺は素早く後ろへ下がる。


「そんなんだからその商品を守れなかったんだよ」


「…っ!」

俺は折れた刀を捨て、素手でフィスばぁに飛びかかる。


「来い!魔剣グランデュエル」

ウォン

俺がそう願うと、右手に先程まで握られていた剣が蘇った。


「うぉぉぉ!」

ガキンッ

フィスばぁが俺の剣を素手で受け止める。


「メタン1リットル!」


「?!」

俺はフィスばぁに剣を押し付けながら願う。

するとブワッと右手から気体が出ると共に、ガス特有の臭いがする。

その匂いを嗅いだ俺は、間髪入れずこう願う。


「火を! ネルの居ない世界で、生きていく価値なんてないんだよ!」


ボーーーン!!!!


大爆発が起きた。

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