Google Earthに変な家が写っている
@aikawa_kennosuke
Google Earthに変な家が写っている
私、埼玉の西の方に住んでいるんです。
埼玉といってもかなり田舎でして。山や田畑が多く、のんびりとした空気があります。
暮らしやすいからか、ずっと地元で生活し根付いている住民が多くいました。
子どももほとんどが地元の学校に通うため、高校生になっても小学生から付き合いのある同級生が多くいるほどでした。
私は現在、東京の女子大に埼玉の実家から通っているのですが、高校までの友人達と交友が続いているため、休日はよく地元で遊んでいました。
私も含め、友人たちのほとんどが車持ちで、ドライブをして県内を巡ることが多かったんです。
特に仲間内で盛り上がっていたのが、心霊スポットに行くことでした。
埼玉の心霊スポットって結構多いんですよ。
秩父湖吊り橋。
飯能病院。
秋ヶ瀬公園。
中村精神病院。
などなど、いろいろあるんです。
季節に関わらず、毎週のように心霊スポットに行っていた時期もありました。
ただ、多いとは言え、数には限りがありますから、そのうち残り弾が無くなってくるんですね。
もうね、メディアに取り上げられたり、ネットで話題になっていた心霊スポットにはほとんど全部行ったと思います。
女友達のA子と男友達のBと一緒に3人で行くことが多かったのですが、ここまで行き尽くしてくるとマンネリ化してしまうんですよ。
ある日、ファミレスでいつもの3人でランチをしていたんです。
Bがこんなことを言いました。
「昨日さ、Google Earthで変な所を見つけちゃってさ。」
Bは旅行や遠出が好きなのですが、夜寝る前はよくスマートフォンでGoogle Earthで世界中の観光地を見ていることが多いらしいんですね。
ただ、最近は逆に地元を見ていたらしく、Bが変な場所を見つけたのは、地元のすぐ近くだと言っていました。
「ここだよ。俺らが通ってた高校からさらに西に行った山の中。ぽつんとさ、変な建物があるだろ?」
Bにスマートフォンの画面を見せられると、たしかに山の中に何かの建物が見えました。
「何これ? 家なのかな。けど家にしちゃ大きいよね。屋敷?」
その建物は普通の家の3倍ほどの大きさの長方形で、薄い紫色の屋根でした。
「分からない。調べても何もヒットしないんだよ。おそらく民家だと思うけど、こんなところにあるなんて聞いたこともないし、不自然じゃないか?」
たしかに、Bの言うとおり不自然でした。
大きい建物で、特に何かを営んでいるようでもなく、変わった外装でこんな山の中に一軒だけ建っているのは明らかに奇妙です。
「いいじゃん、ここ。行ってみようよ。結構近いしさ。Bもそのつもりで今言ったんでしょ?」
A子が嬉々とした表情でそう言いました。
「お、さすが察しがいいな。面白そうだろ? 今日これから行ってみないか?」
唐突な流れでしたが、私もその日は特に予定もなく、心霊スポット以上に冒険に行くようなわくわく感があったので2人と行くことにしたんです。
ファミレスをあとにして、車でその建物に向かうことにしました。
しかし、山の中に車が通ることができる道など無く、山の麓の駐車場に車を止めて、そこから山道を歩いていくことになりました。
私とA子は、生い茂った木々や虫さされに対して文句を垂れながら、Bの後に続きました。
9月のまだ夏暑さが居残っている時期でしたが、山の中の空気はどこかひんやりとしていました。
山道を10分ほど歩いたころでしょうか。
Bが足を止めました。
「そろそろだと思うんだがな。」
そう言って、スマートフォンの画面を凝視しています。
「ねえねえ! あれじゃない?」
A子が進行方向より少し斜め右を指さしました。
ポスト?のような赤いものが見えます。
それがある方へ進むと、それは円柱状の柱であることが分かりました。
そして、その柱の後ろに、私たちがGoogle Earthで見つけた屋敷がありました。
その屋敷は鉄の柵で囲まれていて、入り口の門が2本の赤い柱で挟まれていました。
屋敷自体は1階建てのようで、上空から見たよりは大きく感じませんでしたが、薄紫の屋根に白い外装の屋敷が、柵に囲まれて建っている様はなんとも奇妙な雰囲気がありました。
柵の内側の庭には雑草が生い茂り、屋敷の外装にも汚れが目立っていたので、3人はここが廃墟であることで合点しました。
不釣り合いな色合いの赤い柱を抜けて、Bを先頭に屋敷の玄関に手をかけました。
玄関には鍵などかかっておらず、すんなりと屋敷の中に入ることができました。
中は、一言で言うと集会場のような内装になっていました。
広く畳が敷かれていて、その奥には旅館によくある感じで掛け軸がかかけられ、その下に壺のようなものが置かれていました。
家具等はほとんどありませんでしたが、想像していたよりはるかに清潔に保たれていました。
どちらかというと洋風な外装の建物の中で、充満した畳の匂いを嗅ぐことになるとは思っていなかったので、より一層異様な感じがしました。
3人で手分けをして、部屋の中を物色していると、
「ちょっと! こっちに別の部屋があるみたい。」
と声をあげました。
部屋はその集会場のような部屋の一部屋だけかと思っていましたが、掛け軸がかけられている壁の左側に大きな板が立てかけられていたようです。
その板を3人がかりで外すと、A子が言っていたとおり、もう一つ別の部屋が現れました。
その部屋は広間の部屋より小さく、3分の1ほどの広さしかありませんでした。
しかし、内装は洋風寄りで、全く雰囲気が異なっていました。
まず、壁には額縁に入れられた絵画や写真がいくつも掛けられていました。
人の顔の絵、海外の建造物の写真等が並ぶその部屋の中央には、一つの机が置かれていました。
そして、その机の上には、一冊の本が置かれていました。
その本は何も書かれていない真っ白な表紙で、それだけでも異様なのですが、その本は黄色い敷物の上に置かれていたんですね。誰がどう見ても重要な宝物のような感じでした。
「おっと、面白そうなもんがあるじゃんよ。」
そう言ってBがその本を手に取りました。
「何やってんのよ。誰か戻ってきたらどうすんの。」
私がいさめようとすると、
「あのな、こういう現場に落ちてるものをしっかりと鑑定するのも心霊スポット巡りの醍醐味だろ。」
とBは言って、話を聞きません。
「やめときなよ。明らかに大事そうなものだし、まだ誰か住んでるかもしれないよ。あたしら泥棒しに入ったんじゃないんだからさ。」
A子も乗り気じゃありませんでした。
しかしBはその白い本を開いて読み始めました。
「なんだ? これ。」
Bはそう言って、まじまじと本の中に目を這わせていました。
私とA子は他に部屋が無いか探していましたが、これ以上は部屋は無いようでした。
改めて部屋の中を見返すと、より異様に見えました。
部屋中の絵や写真に自分たちが監視されているような、そんな嫌な感じがしました。
部屋の窓はすりガラスで、外の様子はよく見えませんでしたが、だんだんと暗くなってきていることは分かりました。
Bはというと、まだあの本に視線を注いでいました。
「ねえ、なんもないみたいだしさ、そろそろ帰ろうよ。」
しかし、私がそう声をかけても、Bの反応はありません。
一心不乱に本を読み続けています。
「ねえってば! 聞いてる?」
大きな声で言ってみても反応してくれません。
「いい加減にしな。もう帰るよ。」
A子はBの持っている本に手をかけて、読むのをやめさせようとしました。
その時でした。
「ククククク」
という変な音が聞こえたんですね。
人の笑い声って感じじゃないんですよ。
大型の動物が喉を鳴らすような音でした。
そして私は反射的に上を見上げたんです。
天井は梁が剝き出しの造りになっていましたが、その梁にしがみつくようにして“それ”はいました。
異様に首の長い人間のようでした。
茶色いぼろ布をまとっていて、痩せこけた喉を「ククククク」と鳴らしながら、大きな目で下にいる私たちを見つめていました。
怖気が走り、全身が硬直してすぐには動けませんでした。
「ぎゃあああああああ!!」
とA子が叫びました。
私はそれを合図にしたように、一気に部屋の出入り口に駆けました。
A子も躓きそうになりながら駆けだしていましたが、Bはまだ本を持ったまま微動だにしていません。
「B! 早くこっちに来て! 上に、上に変なのがいるから!」
私が叫んでもBは動いてくれません。
その時、
「カアーーー!!」
という奇妙なカラスのような野太い鳴き声が部屋中に響きました。
そして次の瞬間、天井にいた生き物がものすごいスピードでBに飛び掛かりました。
Bはそのまま倒れ、生き物は長い手足をBに巻き付かせるようにしていました。
「B!!」
私はBを助けるため、動こうとしました。
しかし、その声に反応したあの生き物に睨まれ、動くことができませんでした。
その生き物の目は血走って、大きな口からは乱杭歯が覗いていました。
長い首をもたげて、こちらにも飛び掛かってきそうでした。
私はどうすることもできないと悟りました。
そして、A子の手をとり走りました。
ギシギシ、ミシミシと鳴る畳の部屋を抜け、屋敷の外へ駆け出しました。
それからは、ただ走りました。
幾度もつまづき、草木で傷を作りながら。
2人の激しい呼吸の音と、風で木々が擦れる音に混じって、“あれ”が追いかけてくる音が聞こえる気がして、速度を緩めることなく走り続けました。
なんとか山を下りた私たちは明かりと他人を求めてコンビニに駆け込み、警察に通報しました。
そして、Bの捜索が行われました。
しばらくは頭がぼうっとして、あの不気味な生き物がフラッシュバックして、吐き気に襲われました。
Bに巻き付くようにしていたあの手足や、長い首、恐ろしい顔を思い出すと、鳥肌が立ち、胸が苦しくなりました。
Bは大丈夫だろうか。
最後に見た、Bの焦点の定まらないような目が脳裏をよぎると、形容し難い不安を感じました。
結局、三日三晩の捜索も虚しくBは発見されませんでした。
Bは現在も行方不明のままです。
あの生き物に捕まった時点で、Bはもう助からない、そんな予感がありました。
Bがどうなったのかは分かりませんが、内心諦めていた自分がいました。
けど、どうしても腑に落ちないことがあります。
それは、Bだけではなく、あの屋敷すら見つからなかったということです。
私たちは確かに、あの屋敷を見つけ、足を踏み入れました。
しかし、その屋敷があったという場所にも、それらしきものは跡形もなかったそうなんです。
私はGoogle Earthで何度かあの屋敷を探そうとしました。
けど、どこまでくまなくあの山を探しても見つからないんです。
まるで最初から存在していなかったかのように。
あのうす気味の悪い作りの屋敷は一体なんだったんでしょうか。
そして、Bが読んでいたあの白い本は…。
ときどき、想像するんです。
あの奇妙な屋敷がまだどこかの山奥にあるのを。
そしてあの生き物が「ククククク」という不気味な音を立てながら、誰かが来るのを待っているのを。
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