あきらかに動きのおかしいデスゲーム参加者

ちびまるフォイ

もっと苦労してください……

「こ、ここは……」


目が覚めると密室に男女数人が囚われていた。

首や腕にはめられている器具からすぐに男は察した。


「やった! ここはデスゲームだ!!」


もはや実家の天井よりも見慣れた血染みの床。

意味なく高圧的な鉄の扉などは見ていて安心感もある。


なにを隠そうこの男はデスゲームで生計を立てていた。


「ふっふっふ。これでまた美味しいものが食べられる……!」


近年、社会問題にもなっているデスゲームでは

連れ去られた人への心の救済のためにたくさんのお金を渡している。


逆に言えば、働かなくてもデスゲームから生還すればお金をもらえるという構図ができあがっていた。


「この日のために、キャラかぶりしないように生活していたかいがあった。

 参加者とキャラがかぶったらデスゲームに連れてきてもらえないからな」


ぶつぶつとつぶやいていると、最後に寝ていた女も目を覚ました。


起きてから慌てる様子もなく周りを見渡すと、ニヤリとほくそ笑んだ。


「……デスゲームね! やった! デスゲームに参加できたわ!!」


女のリアクションをうけて男は固まった。


「え、もしかしてお前もデスゲーム生還金ねらいの人?」


「え?」

「ん?」


さっきまでデスゲームに参加できたことを喜んでいた二人の目は、

一気にライバルを敵視する鋭い目に切り替わった。


「このデスゲーム……」

「最大のライバルは……」


(( こいつか……!! ))


二人の視線の間にバチバチと火花が飛び散る。

もうデスゲームの内容などそっちのけである。


部屋に備え付けてあったモニターがつくとデスゲーム開催者のマスクが映った。


『やあ、参加者のみなさん。それではデスゲームのルールを説明しよう』


通過儀礼となったルール説明には目も耳もくれないデスゲーム生還金の二人。

部屋の装置や参加者の性格など、今のうちに得られる情報を吸収していく。


複数人で巻き込まれる系のデスゲームの場合、

協力や裏切りが必須となるためにルールの理解よりも参加者をどう動かすかが重要になる。


モニターを食い入るように見るのは素人そのもの動きだった。


(この女、モニターには目もくれず、こちらをじっと観察してやがる……!)


(この男……デスゲーム攻略のセオリーがわかっている人の動きをしている……!)


(( やはり、ただものじゃない……!! ))


お互いの経験値の高さを、その様々な所作から汲み取った二人。

ついにデスゲームがはじまった。


「時間内に脱出しろったって、どうすりゃいいんだよ!」

「黙ってよ! 騒いでもなんにもならないでしょう!?」

「ああ、どうしてこんなことに!!」


デスゲーム童貞のみなさんは思い思いのパニック症状を起こしていた。

そんな中、一組の男女だけはさながらあうんの呼吸でデスゲームを着々と攻略していた。


「うおおおお!!」

「はああああ!!」


次々に部屋に隠されいていた要素を解き明かしていく。

これには、毎日夜なべして装置を作ったデスゲーム主催者も涙目である。


「こいつに負けるわけにはいかない……!」

「最後のひとりにならないと、デスゲーム生還金がもらえない!!」


設計者側からすれば人間の本質をあぶりだすはずの

やたらギミック感あふるるデスゲーム用拷問装置もあっという間に解除。

さながらタイムアタックでもしているかのような様相。


「す、すげぇ……」


本来は自分たちもデスゲーム当事者であるはずの他の参加者は、

テレビでSASUKEでも見ているかのような状態になっていた。


「「 あった! 脱出ボタン!! 」」


本来は数時間かかってやっと到達するはずの脱出ボタンを二人は発見。

デスゲームの構造上、これを押したただ一人が生き残る。


「押させてたまるかーー!!」

「生還するのは私よーー!!」


二人はボタンに向かって飛び込んだ。

写真判定が必須になるほどの同時タッチを決め、モニターにはあまりの攻略の速さにカンペが間に合ってないデスゲーム開催者が映った。


『お、おめでとう。こんなに早く攻略されるとは思わなかった……』


「今のは俺のほうが早かった! そうだろ!」

「いいえ! 私のほうが先にボタンに触れていたわ!!」


『判定の結果……ボタンはふたりとも同時だった』


「やった! それじゃふたりとも脱出できるんだな!」

「うれしい! これでデスゲーム生還金がもらえるわ!」


プロデスゲーマーのふたりは初めて手を取り合って喜んだ。

そして、主催者は追加でアナウンスした。


『それじゃ、ボタンを押さなかった皆さんはデスゲーム本戦へ進んでください』


密室には記憶喪失ガスが噴射されて、ボタンを押せなかった人たちがバタバタと倒れていく。


「本戦ってどういうことだ!」

「これはデスゲームじゃなかったの!?」


詰め寄る二人にデスゲーム主催者は困ったように答えた。



『だってお前らみたいなのがいるとゲームつまらなくなるんだもん……』


その後、予選落ちしたふたりはデスゲーム本戦から省かれて無事生還した。

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