盾を持ち死にゆく者
焚帰び
プロローグ
その少年は、まるで自分自身を燃やしているかの様だった。
少年を守っていた物は全て剥がれ落ち、周囲に転がっている。
傷だらけの体から血を流しながらも、少年は叫び、自分よりも大きく強大な存在である魔物の拳を受ける。禍々しい一角を頭部から生やした魔物の肉体は分厚く、咆哮を上げながら拳を振り下ろす姿は、数多の冒険者を屠ってきた魔物の中でも凶悪な存在である事を知らしめていた。
理性なんてものは存在しない。本能に従う以外の術は持たない、まさに、怪物。
魔物が打ち込む度に響く音が、その脅威を物語る。
少年はいつ倒れてもおかしくないというのに、幾度も繰り返し、それを受けた。一発、生身で受け止めるだけで死に至ってもおかしくはない。だが、その足は一歩も後ろには下がらなかった。
「な、なんで……」
言葉が零れた。それが自分から漏れた言葉だという事に、少女は後から遅れて気が付く。何故彼がこんな事をしているのか、何故倒れずに耐えているのか、そんな事は分かっているのに。そんな言葉しか出す事ができない少女は、少年から目を外せなくなっていた。
この光景は少女の常識と、これまでの少年に対する印象からは想像もできない様な光景だった。信じる事ができない。おそらく、冒険者を生業とするものであるのであれば誰もがそう思うだろう。
冒険者の常識として、魔物に対し一人で挑むと言うのは本来は自殺行為だ。たった一人で魔物に挑み、生き残る。そんな事を成し遂げた存在など、冒険者として名を残した存在だけだという事を、少女は知っていた。
自分の息が震えている。もうやめろと口にしようとする度に、その少年の後ろ姿に黙らせられる。自分の勝利を確信している様な少年の姿は、少女に絶望を捻じ伏せる希望を見せつけているかのようだった。
少年は理性が剥がれている様に叫んでいたが、少女の声に一瞬、反応する。
「黙って見てろ」
今まで少女が知っている少年とは、明らかに違う声。少女が知っている少年は、もっと弱弱しい。
こんな人は知らない。こんな男は知らない。いや、知ろうとしていなかったのか。見ようとしていなかったのか。この少年の、本当の姿を。
一歩、少年は踏み込む。
少女はただの一瞬もその瞬間から目を逸らさなかった。意識が飛びそうになりながら、全身を走る痛みに耐えながら、それでも言われた通り、目を見開いてその瞬間を焼き付ける。
ダンジョンに、魔物と少年の咆哮が響いた。最後に残ったのは……
「──ハイド・ゴーゴル」
地面に倒れ伏す魔物。勝利に声を上げる傷だらけの少年。その姿は、少女が今まで見てきたどの男達よりも、泥臭い輝きを放っていた。
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初めまして、焚帰びです。初投稿作品なので、沢山の方に読んでもらえれば嬉しい限りです。
本編は次から始まります。もし面白そうだと思っていただけたら、フォロー応援、☆、レビュー、コメント等お待ちしています。よろしくお願いします。
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