第168話 姉の代わりにVTuber 168
◇ ◇ ◇ ◇
穂高は昼休みになると、あらかじめ、登校時にコンビニに寄って買ったパンを持ち、屋上へと訪れていた。
穂高の学園は、昼休みには屋上を開放しており、高い柵と反しがある為、屋上から容易に飛び降りたり、事故が起きたりしない構造になっていた。
当然、お昼休みには人気のスポットになっており、早めに教室を出たはずの穂高よりも、すでに何名か先約がいる状況だった。
朝から考え事をしていた穂高は、もう少し人が少ない方が、静かで都合がいい環境であったが、折角来た事もあり、引き返すことはなく、景色を見ながら食事をとれそうな場所へと腰掛ける。
(今いる屋上の人数が倍近くなったら、流石に教室に戻るか……)
穂高は屋上で、それぞれ昼食を楽しむ生徒を見渡し、そんな事を考えつつ、パンの袋を破いた。
(才能の証明かぁ~……。
悲しくなる程に何したらいいか、まるで思い浮かばないな……)
パンをかじりながら、茫然と景色を見つめ、流れてくする風を感じながら、美絆(みき)との喧嘩で啖呵を切った事ついて考える。
朝から考え、何も思い浮かばな過ぎて、完全に途方に暮れた状況だったが、考えないわけにはいかなかった。
(第一に、あの変人、変態の母鬼に何したら認めてくれるんだ?
からっきし才能は無いけど、親父みたいに絵でも描いてみるか??
がむしゃらにやってみれば、一回や二回、母親の想像を超えるような作品が生まれるかも…………)
穂高は、今は海外で活躍している画家の父親を真似し、既に昔に才能なしと、母親から烙印を押された美術で対策しようと考えた。
しかし、すぐにその案は無いなと自己完結する。
「親父の凄さを日頃から感じえる母親にそれはないよな……。
流石に相手が悪すぎる」
考えが出なさ過ぎて、もう半分ヤケクソみたいな、そんな案しか思い浮かばない自分に呆れ、穂高は思わず独り言が漏れた。
そして、そんな穂高の独り言に、反応する声が上がる。
「え? 彰(あきら)??
珍しいな、お前がこんな途に来るなんて」
思わず零した穂高の独り言に、反応したのは、楠木 彰(くすのき あきら)だった。
驚いた表情を浮かべる穂高に、彰はまるで最初から予定していたかの様に、自然に穂高の隣に腰を下ろした。
「穂高がいち早く、教室から出てくのが見えたから……。
どうせ一人で、屋上で飯でも食べるんだろうっても思ってさ、なら、久しぶりに二人で食おうかなって」
「一人で静かに飯食うつもりなのを分かってて付いてくるなよ……」
「つれないなぁ~、穂高……。
瀬川(せがわ)と武志(たけし)も寂しそうにしてたぞ??」
穂高の返事を聞きつつも、本格的に彰は隣で昼食を取り始め、そんな彰を見て、穂高は一人で昼食をとることを諦めた。
「なんで、今日は一人なんだ??
なんか悩みでもできたか?」
「悩み……、そうだな、大きな難題があんだよなぁ」
「穂高は、いつも難しい顔してるよなぁ~?
偶には武志みたいに楽観的に生きたらどう??」
「無理だな……。
脳がしぼんでそのうち様滅する」
穂高は、この場にいない相手を盛大にディスりながら、悪びれる様子もなくパンをかじり、穂高の言葉に、彰は「酷いな」と言いながら、笑みを浮かべ、穂高に続き、弁当をつまむ。
そして、一度会話が途切れたことで、彰は他の話題を穂高に振り始める。
「――最近、春奈(はるな)に放課後に練習してるんだって?」
「ん? 杉崎(すぎさき)に聞いたのか??」
「いや、春奈じゃなくて、瑠衣(るい)から聞いた。
なんでそんな事になってるんだ?」
二人は淡々と食事をとりつつ、景色を見ながら会話を続ける。
「なんでそんな事って……、単純に頼まれたんだよ、杉崎に」
「ふ~~ん。
でも、穂高が人の頼みを聞くなんて、珍しいね?
昔はどちらかと言えば事なかれ主義で、めんどくさがりな所もあったのに……」
「最近は頼まれ事ばかりで、感覚がマヒしてるんだろうな。
何でも引き受けてるような気が、自分でもするよ」
彰は穂高の言葉を聞き、一度、弁当を食べるのを止め、穂高の方へと視線を向けた。
穂高は会話の最中、まるで抑揚なく、ただ事実を淡々と述べているようで、穂高の考えを知りたいと思っていた彰は、今の質問では何も情報が得られていなかった。
「穂高、春奈の事……、好き??」
彰は穂高の機微を捉える為に、穂高を観察しながら、その質問を投げかけた。
「――好きか嫌いかで言われれば、好きだろうな」
「それは、恋愛対象として?」
一度目の質問では、穂高の様子がまるで変わらず、飄々とした様子だった事から、彰は続けて質問を投げかけた。
しかし、彰の思うような反応は、穂高は見せず、穂高もパンをかじるのを止め、彰に視線を向けた。
「考えたこともないから分からん!
――とゆうか、まだそんな色恋沙汰で、うだうだ探り合ってんのか??」
穂高の言い返しに、彰は一瞬驚いた表情を浮かべるも、直ぐに真面目な表情へと戻る。
「――当然、俺にとっては死活問題だからね?」
「大貫(おおぬき)がさっさと告白すれば良い話だろ?
いつまで外堀埋めてんだ? あのバカは」
「告白なんて、今させられる状況なわけないだろ!?
告白したら、間違いなく振られる」
「別に振られてもいいだろ? お前が振られるわけじゃないし」
穂高は、彰の事しか考えておらず、大貫が振られた事による、他の危険性はまるで考えなかった。
「いいわけないだろ! 今まで仲良くしてきたグループに亀裂が入りかねない。
確実に二人はぎくしゃくするし、周りも気を遣う。
――それに、春奈が好き相手は…….
はぁ~~~~、ややこしい事になったなぁ」
「大変そうだな、男女仲良しグループは」
廻りからは羨まれる、言わば男女のの一軍グループと呼ばれるものに、所属する彰だったが、人気者には人気者なりの悩みがあるんだと、穂高は他人事様に呟きながらそう思った。
「他人事みたいに……。
智和(ともかず)は、この文化祭で多分、春奈に告白する」
「やっとか……。
どうなるかは分からんけど、結果だけは気にあるな」
「結果なんて分かり切ってるだろ……。
――――多分、春奈が好きなのは……」
彰は、春奈の意中の相手を言うつもりはまるでなかったが、彰の言葉を遮るようにして、会話の当事者であった者に声を掛けられる。
「あッ! こんなとこに居た!
彰……と、ほ、穂高君ッ!?」
声を掛けてきたのは春奈であり、彰を探していた様子の春奈は、彰の隣にいた穂高を見て、驚いた表情を浮かべた。
「――ん? あぁ、彰といるの珍しいか??」
「あ、い、いやッ、友達だもんね?
普通だよ、普通……」
穂高の存在は想定外だったのか、彰に用があったであろう春奈は、少しだけばつの悪そうに見え、穂高はそんな春奈の気持ちを察するように、彰に声をかけた。
「――ほら、お前にお客さんだよ、行ってこい。
俺に気を使わなくてもいいからな? 杉崎。
元々、一人で昼飯を食べてたところに、彰が乱入してきただけだから」
穂高は、彰に軽く肘を当て、春奈の元に行くように促す。
彰はため息を付いた後、春奈に向き直る。
「どうしたの? 春奈」
「あ……、みんなで昼食食べようって。
智和達も彰を探してるよ?」
「――分かった」
春奈の言葉を聞き、彰は食べかけの弁当をしまい、立ち上がった。
そして、穂高へと視線を向けると、少しだけ悲しそうな表情を浮かべ、声を上げる。
「穂高も一緒に行くか??」
彰の提案に、春奈は一瞬、ビクりと体を跳ねらせ、少しだけ、穂高の同席を期待した。
「嫌味か? お前……。
お前のキラキラグループに、俺が入れるか。 気まずすぎて、食事も喉に通らないよ」
「そっか」
不機嫌に答える穂高に、彰は軽く笑いながら、春奈と共に、教室へと戻っていった。
「ほ、穂高君が、一人で屋上で食べるなんて、珍しいね?」
「え? あ、あぁ、まぁ確かに、最近は武志達と食べてたし、珍しいか……。
高一の頃はよく、穂高と二人で屋上で飯食べてたよ? いや、武志もいたか……」
楽しそうに話す彰に対して、穂高と屋上でお昼というワードに惹かれたのか、春奈は小さく「羨ましい」と呟く。
春奈のそんな様子に、彰は再びモヤ付いた感情が芽生える。
(――はぁ……、俺も諦めたのにな……)
少しだけ顔を赤らめ、穂高の事を考えているのか、そんな春奈に、彰は心の中で、ポツリと呟いた。
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