第156話 姉の代わりにVTuber 156


何故やめてしまったのか。


『てっちん』のかつてのリスナーであった春奈(はるな)から、当然の質問が穂高(ほだか)に投げかけられた。


「――そ、そんなに大層な理由は無いぞ?」


「聞かせて」


配信を見てくれていたリスナーに対して、穂高はそのワケを言いずらく、ごまかす様に話したが、真実が知りたい春奈はそれを許さなかった。


「杉崎は知ってるかどうか分からないけど、俺が配信を始めたのって、とある夢を叶えたかったからなんだ」


「――知ってるよ? ラジオパーソナリティみたいなものに憧れてたんだよね?」


少しだけボカしながら話す穂高だったが、春奈は穂高のかつての夢を知っており、そこまで詳しい事情を知っている春奈に、穂高は少しだけ驚いた。


少しだけ面を食らった穂高だったが、続けて話始める。


「そ、そうだな。 ラジオDJになりたかった。

そのために、真似事をZoutubeでやったりして……、まぁ、結局、自分の才能の無さに、気づいて諦めたんだけど……。

夢を諦めた事もあって、配信をする意味も失って、それで……って感じだな」


自分で言っていて、すごい自己中心的だなと感じながらも、その決断に後悔はなかった。


「今でも、あの時配信を見てくれた視聴者には、申し訳ないなとは思ってる。

――だけど、夢を諦めた以上、配信したいという気持ちも、意味も見いだせなくって……。

もし、そのまま続けてたとしても、満足させられるような配信は続けられなかったと思う」


穂高は、素直な今の気持ちを春奈にぶつけた。


せっかく配信を見てくれた相手に対して、応援をしてくれた相手に対して失礼だと、春奈に軽蔑されるかもしれないと、穂高の中でそんな考えも過ったが、嘘偽りなく、配信をやめ、今なお変わらない気持ちを伝えた。


「そ、そうだったんだ……」


「杉崎だけに言ってもしょうがないと思うけど、悪かったな。

何にも言わず、急に配信辞めちゃって……」


穂高は気まずさから、春奈の顔は見れず、少しの間二人に沈黙が流れる。


顔を見れないことから、春奈の気持ちは読み取れず、おそらく怒っているんだろうなと、そんな事を考えていた穂高に、春奈は沈黙を破り、言葉を発した。


「――――そっか……、でも、仕方ないね? やりたくなくなっちゃったのなら……」


「――え?」


罵倒まではいかないが、それでも非難はされると思ってた穂高は、春奈の意外な反応に、思わず間抜けな声を出し、春奈に視線を向ける。


そして、そこで見た春奈の瞳は、再び涙を蓄えていた。


「――でもね? 一言……、なんでもいいから一言は言ってほしかったな……?

寂しいよ……、数年配信を見てきた人にとっては」


春奈は微笑みかけるような表情だったが、春奈の感じる感情をすべて読み取ることはできなかった。


「ほんと悪かった……。

――今度さ、アイツ……、ハチの配信に呼ばれることになったんだ。

その時に、杉崎にした話、必ずするよ。

杉崎みたいにここまで心配してくれた人は、いないだろうけどな??」


「うん! 楽しみにしてる!!1」


穂高は元気のいい春奈の返事を聞くと、照れくさそうに笑みを浮かべた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


天ケ瀬家。


春奈と別れ、自宅に帰ると、穂高は簡単にリムで配信活動を行った。


体力消費のそこまでない、ゲーム実況での活動をし、配信を終えるとすでに、外は真っ暗になっていた。


明日の配信の準備、夕食や風呂を済ませ、ようやくゆったりとできる時間が取れた穂高は、ある人に連絡を取った。


「わッ!? ホントに電話掛けてきた!」


電話がつながると、穂高からの着信を取ったにも関わらず、驚いた様子で声が買ってきた。


「夜に電話するって言ったろ?

それよか、今は大丈夫か? ハチの配信とか……」


「配信あったら出るわけないでしょ?

でぇ~~? なに~? 穂高から電話とかすごく珍しいじゃん??」


穂高が電話した相手は、浜崎 唯(はまさき ゆい)であり、唯は電話先で楽し気に、穂高に要件を訪ねた。


「いやまぁ、今日のオーディションについてな……?」


「春奈(はるな)ちゃん?? 出来どうだったとか??」


少しだけ口ごもりながら訪ねた穂高に、唯はおちょくるように話の腰を折った。


「ちげーよ! いや、それも気になるけど……。

ハチにそれ聞いてもしょうがねぇだろ?」


「確かにッ」


ケタケタと電話越しで笑う唯に、穂高はイラっと感じつつも。それ以上挑発には乗らず、本題を切り出した。


「――ハチ、今回、お前はどういった立ち位置で、オーディションを受けたんだ??」


できる限り真面目なトーンで話題を振る穂高だったが、唯は抽象的な穂高の質問では、意図が伝わらなかった。


「えぇ~~? 立ち位置って……、普通に新人オーディションを受けただけなんだけど……」


「いや、そうじゃなくてだなッ!? う~~ん、まぁ単刀直入に言えば、今回のオーディションって、お前は既に、合格者枠として選ばれてなんじゃないか??

そんな感じのこと、言われたり、聞いたりしなかったか??」


穂高は尋ねたい事を単刀直入に尋ね、唯は穂高からそんな言葉が出てくるとは思わなかった為、一瞬押し黙った。


「誰から聞いたの? その話……」


唯の口調に今までのおちゃらけた雰囲気はなく、穂高の話を知ってか知らずが、真面目な雰囲気で穂高に聞き返した。

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