第76話 姉の代わりにVTuber 76
◇ ◇ ◇ ◇
「ね、ねぇ……、瑠衣(るい)はどう思う?」
ズポッチャの帰り道。
集まったメンバーとも解散をし、春奈(はるな)と瑠衣(るい)は、家も近所の為、一緒に帰宅をしていた。
地元の駅から見慣れた住宅街に入ると、春奈は昼間に起こった出来事を改めて瑠衣に尋ねていた。
「どうも何も……、怪しいよね?
凄い親しげだったというか……」
「や、やっぱり……。
仲良さそうだったし……、休日に天ケ瀬(あまがせ)君が、異性といるのってすごい珍しいらしいし……」
春奈は瑠衣が自分と同じ感想を思っていた事で、自分の感じた違和感が正常であると再認識でき、穂高の友人である瀬川(せがわ)から聞いた話も踏まえ、呟いた。
「――お昼、私に嘘ついた事を盾に、瀬川君に問い詰めたかいあったね……。
いろいろ、推測もできるし」
瑠衣は穂高と出会った後、自分たちのグループがいるとこに戻った際、瀬川が嘘をついていた事を指摘し、詰め寄ることで、穂高の事と今日の昼食の時の事を聞いていた。
瀬川は瑠衣に問い詰められると、自分の身を守るためにも、簡単に友人である穂高(ほだか)を売り、聞かれた事を素直に答えていた。
「最近は瀬川君達の誘いも断るくらい休日忙しいらしいしね……。
今日あった事は瀬川君も驚いたらしいし…………」
「――まぁ、その話は後日、改めて瀬川君に尋ねよう?
今度、事情説明をしてもらう事になってるみたいだしね……」
瑠衣は七割方、興味本位で動いていたが、三割ほどは気になっている春奈に、協力したいという気持ちもあり、来週聞けるであろう話を、楽しみにしている様子で呟いた。
「ハル的には、どっちの方が怪しく見える~~?
ライバルになりそうなのはどっちよ?」
瑠衣はニヤニヤと笑みを浮かべながら、春奈の反応を伺いつつ尋ねた。
「――え? い、いや……、私は別にそんなんじゃ……。
普通に、天ケ瀬君とは友達として、気になったというか、興味があるというか……」
「え!? 天ケ瀬君に興味がッ!?1?」
「ち、違うッ!! そうじゃなくてッ!
その……、珍しい交友関係についてだよ。
天ケ瀬君とは仲良くはさせて貰ってるけど、イマイチ掴みどころが無いというか……、謎な部分が多いし……」
春奈をからかう瑠衣に対し、春奈は恋愛感情に関して、キッパリと否定しながら、穂高の気になっている事を正直に話した。
「気になってる理由はホントかな~~?
まぁ、確かにぃ? 天ケ瀬君はあんまり自分の事を話すようなタイプじゃないし、私もそこまで交友があるわけじゃ無いから、気にならないって事は無いけど……」
「好奇心だよ……好奇心……」
瑠衣に指摘され、春奈は明らかに動揺しており、瑠衣の言葉に同意し、自分に言い聞かせるように、平常心を取り戻す様に呟いた。
そんな、春奈を楽し気に見つめていた瑠衣は、ちょっかいもほどほどに、本題に入るように、真面目に切り出し始める。
「――天ケ瀬君とあの女性陣の誰かが、付き合ってたりするのかな~~?」
「――――え……?」
既に日は落ち、暗くなった夜空を見上げながら、瑠衣はポツリと言葉を零し、瑠衣の言葉に春奈は思わず声を漏らした。
「まぁ、あの様子だとそこまでいってるようには、見えなかったけど……、天ケ瀬君と一緒にお店にいた女性も、その後店外で天ケ瀬君に声を掛けてきた女性も、どっちもそれなりに交流はありそうだったしなぁ~~。
二人とも下の名前で、呼んでたし……」
「そ、そうだね……」
瑠衣の言葉に春奈は相槌を打つばかりで、声のトーンも段々と暗くなり、そんな春奈に、瑠衣は一息吐くと、その場で立ち止まり、ポツリと真剣な声色で話し始める。
「――春奈。
私は春奈の謙虚さや、遠慮しがちなところ好きだけど、もし、好きな人が出来たのだとしたら、その春奈の良さは捨てた方が良いよ」
立ち止まった瑠衣に気付いた春奈は、瑠衣と同じようにその場に立ち止まり、瑠衣へと視線を向けると、今まで夜空を眺めていたはずの瑠衣は、真剣な眼差しで春奈を一点に見つめていた。
瑠衣の言葉に、春奈はすぐに言葉を返す事ができず、二人の間に一瞬だけ、会話の無い時間が流れた。
「――だ、だから、そうゆうのじゃ無いって……。
確かに、天ケ瀬君には色々助けられた事もあるけど、そういうのじゃ無いから」
真剣な眼差しの瑠衣の瞳を春奈は見続けることが出来ず、視線を外しながら、取繕う様に答えた。
そんな、春奈の返答に、瑠衣は深くため息を付いた後、優しく微笑みながら言葉を返す。
「はぁ~~……。
――まぁ、いいよ! 今はそれでも……。
色々な感情が邪魔してだったり、そもそも、気持ちに気付いていなかったり、ハルの言う通り、本当にそうなのかもしれないしね?
でも、本当の気持ちに気付けたとして、それに抗うような事だけは、しちゃダメだからね?」
「分かってるよ」
「ホントかな~~??」
瑠衣は心の底から親友である春奈を心配しており、その心配は春奈にも伝わり、春奈は笑顔で答えた。
そんな春奈を見て、瑠衣は再びニヤニヤとした笑みを浮かべ、挑発するように言葉を返した。
「私は、後から天ケ瀬君に話しかけてきた、親しげな紫髪の女性も気になるけど、そもそも一緒に居たあの美人な女性の方が気になるんだよねぇ~~。
親戚って言ってたけど……」
「まだ、その話続けるの?」
「えぇ~~ッ、この話振ってきたのはハルでしょ?
それに、まだまだ話したりないし!」
瑠衣と春奈は楽し気に会話を繰り広げながら、再び歩き出した。
そんな、楽し気に話す二人だったが、メールの着信を告げるバイブレーションが、春奈の携帯に起こった。
普段の春奈であれば、瑠衣との会話の途中という事もあり、携帯を確認するなどという行為は取らなかったが、携帯の着信が気になる状況にあった春奈は、すぐに携帯を取り出した。
「――――え……? 嘘…………」
携帯を取り出し、メールを確認した春奈は、驚いた様子で細々とした声を出した。
「ん? どうかした??」
急にそんな声を出した春奈を、気にならないはずがない瑠衣は、不思議そうに春奈に尋ねた。
瑠衣の言葉を聞き、春奈は驚いた表情そのままに、ゆっくりと顔を上げ、瑠衣の質問に答えは始める。
「――審査……、通ったかも…………」
「審査??」
春奈の言葉にピンと来ていない瑠衣は、言われた言葉を繰り返し、首を傾げた。
◇ ◇ ◇ ◇
同刻。
オフ会を無事に終えた穂高(ほだか)と翼(つばさ)は、混んではいないが、席がすべて埋まるくらいの、程々に混雑した列車に乗っていた。
翼はオフ会を終え、自宅へ戻るつもりであり、穂高は姉である美絆(みき)が、入院している病院が近くにあった為、病院に向かうつもりでいた。
「――はぁ~~~、色々と疲れました」
普段人関りを持つ事のない翼は、オフ会ですっかり疲れ切り、ため息交じりに呟いた。
「後半は随分楽しそうでしたし、俺いる必要ありましたかね?」
「見知った顔がいるのと、いないのとじゃ、心持がまるで違います。
――――そういえば、穂高さんは意外にも、色んな方と交流があるんですね?
昼間のあの女性陣とか……」
「――え? いや、あいつらはただの学校のクラスメートですよ?
後から話しかけてきた、紫の奴は違いますけど……」
穂高は嫌事を思い出したと心の中で思いながら、事情を知る翼には真実を話した。
「そういえば、あの紫の女性、佐伯(さえき)さんと一緒にいましたよね?
知り合いなんでしょうか」
「あぁ、俺もビックリしました……。
知り合いだとは思わなかったんで」
「はぁ……、そうなんですか……」
穂高の言葉を聞くと、翼は静かに考えこみ始めた。
(そういえば、『チューンコネクト』の新しい依頼が来てましたね……。
まだ、オーディションの途中みたいですけど、あの様子だと決まったんでしょうか…………)
翼は、数日前に『チューンコネクトプロダクション』から新しい依頼、七期生のアバター作成の依頼が来ていた。
(――この業界、元々どこかのプラットフォームで、配信活動をしていた人とかが、Vtuberとしてデビューすることが多いけれど、あの人もそうなんでしょうか……。
――とゆうか、あの声……、どこかで聞いた覚えが…………)
翼はモヤモヤとした思いを抱きながら、どこかで聞いたと感じる、その声の持ち主を導き出せずにいた。
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