第五章 修羅(1)
第67話 姉の代わりにVTuber 67
◇ ◇ ◇ ◇
桜木高校 3年生 教室。
穂高(ほだか)は、もはや恒例ともなっていたが、リムの事に関して、再び頭を悩ませていた。
(どうすっかなぁ~~……案件…………)
リムを引き受けてから、毎日が忙しく、まだその日まで期間があると思っていた企業案件の配信が、もうすぐそこまで来ていた。
6期生としては初めての企業案件であり、穂高は変にプレッシャーも感じており、正直どうやって配信していいのかイメージが付かなかった。
(先輩の配信とか見てても、スムーズだからな……。
ゲーム紹介とかの台本は、佐伯(さえき)さんが用意してくれるんだろうけど、にしてもムズそうだよな……。
――はぁ~~、やっと軌道に乗ってきた、配信の内容も安定し始めたと思ったらコレだからなぁ~。
ホント忙しない……)
一限を終え、まだまだ授業が残っている憂鬱とした環境の中、企業の案件を考えると、穂高は増々気分が落ちていった。
「天ケ瀬(あまがせ)……、相変わらず、元気ないな。
そんなに毎日、学校が憂鬱か?」
考えれば考える程に、考えることが多い現状に穂高が頭を悩ませていると、友人である瀬川(せがわ)が声を掛けてきた。
「憂鬱だね……、毎日こうして拘束され、つまらない授業を受けて…………。
プライベートですら……、はあぁぁ~~~~~~……」
穂高は声で誰が話しかけて来たか分かり、声を掛けてきた瀬川を一瞥すらもすることなく、淡々と答え、大きなため息と共に項垂れた。
「なんかあったのか?
二年の時も基本的にはダルそうにしてたけど、ここ最近特に顕著にダルそうじゃないか??
俺に答えられる範囲であれば、相談乗るぞ?」
「――優しいな、瀬川は……。
その優しさが少しでも、異性に向けられれば、増々モテるだろうに」
「おい、人が親切に聞いてやってるのに、茶化すなよ……」
瀬川の話を聞いた穂高だったが、元よりプライベートで抱える、リムの問題を話すつもりはさらさらなく、上手く回っていない頭で、適当に返事を返し、質問を茶化された上に、まともな返答をするつもりの無い穂高に、瀬川は呆れた様に呟いた。
そんな、気心知れた二人のたわいない会話に、もう一人、二人の知り合いが声を掛ける。
「瀬川~、無駄だぞ~?
穂高のそれは、かまってちゃんアピールみたいなもんだから。
真剣に心配するこっちの方が損するぞ?」
声と話し方から、穂高は誰が声を掛けて来たか分かってはいたが、項垂れた顔を上げ、声の主へと視線を向けた。
「武志(たけし)…………、お前には落ち込んでいる友人を、心配するような言葉はかけられないのか?」
「瀬川の親切を無為にして何言ってんだ?
大体、昔っからそうだろお前は……。
一人で抱え込んで、何とかしようとする。
――――てか、へこんでるお前の事を話に来たんじゃないんだ、今日の俺はッ!」
穂高の事など知った事かと言わんばかりに、高らかに楽し気に武志は言い放ち、武志の様子を見て、穂高は既に嫌な予感を感じていた。
「なんだ? なんか良い事でもあったのか??」
武志の様子には瀬川も気付いており、自然と武志に瀬川は質問をし、穂高は嫌な予感から、内心では「聞くなッ」と一瞬思いつつも、一ミリでも興味が無いという事は無かった為、言葉に出して止めるというような事はしなかった。
「――――よく聞いてくれたなぁ~~~、瀬川。
実はな、朗報があるんだ。
我々の頑張りが認められた成果といっても過言では無いな!!」
瀬川に聞かれた事で、武志は増々上機嫌になり、中々本題をいう事は無く、勿体ぶるように話した。
「――どうせ、ろくでもない事だろ?
お前の嬉々として語る話は、大体くだらないからな」
「黙れ、モテない灰色人生、学園カースト底辺が!」
(お前もだろ…………)
武志は完全に調子付いており、普段であれば、穂高は一言や二言言い返していた状況でもあったが、グッとそれを堪え、武志の話に渋々耳を傾けた。
「よく聞けよ? お前ら……。
今週末…………、なんと、再び遊びのお誘いが入ったぞッ!!」
「「はぁ??」」
宣言するように、言い放った武志に対して、瀬川と穂高はまるで話の内容にピンと来ておらず、意図せず揃って聞き返す。
「鈍い奴らだなぁ~~、また、俺たちが姫たちの遊戯に抜擢されたって事だよ!!」
「なんだよ、姫たちの遊戯って」
テンションの格差と、武志の言い回しに、穂高はドン引きの状況だったが、未だ話の全容は見えない為、続けて尋ねる他無く、不機嫌そうに言葉を返す。
「だから、四天王に再び招待されたって事だよ!!
まぁ~~、自分で言うのもあれだが? 結構、俺ら、好感度高いんじゃねッ!?」
「――ゲッ……」
「マジかよ……」
有頂天な武志を尻目に、瀬川と穂高は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、明らかに嫌悪感が漂っていた。
「――でよ? どうするよ!? お前ら!
勿論行くんだろッ!?」
武志は目を輝かせながら穂高達に尋ねるが、穂高達の表情に生気は無く、行きたくないムード全開だった。
「――い、いつなんだよ……、その招集って……」
「招集って……、何か嫌な言い方だなぁ……。
まぁ、集まるのは今週末だなッ!
やっぱり遊ぶなら休日でしょ!?」
行きたくないあまりに出た穂高の言い回しに、有頂天な武志も、一瞬違和感を感じてはいたが、それよりも今の気分の良さが勝り、細かい事を気にせず、すぐに調子を戻しながら答えた。
そして、そんな楽し気な武志を見つめながら、瀬川と穂高は何とか断る理由を探していると、不意に携帯の通知が三人に届いた。
携帯の通知に気付き、一番初めにその内容を確認したのは武志でだった。
「――おッ! Pain(パイン)の通知!!
数か月振りの稼働じゃないか!? このグループチャット!」
「――うわ……、どうするよ天ケ瀬……。
もう断れないだろ、コレ……」
武志に少し遅れ、瀬川と穂高はPainの内容を確認すると、増々状況は悪くなり、瀬川は顔を青く染めながら穂高に話しかけた。
梨沙(りさ) 久しぶりにグループチャットを動かしてみた!笑笑
――っという事で!
松本(まつもと)君に聞いているとも思うけど、
週末遊びたいと思いますッ!
松本君からは、瀬川君も天ケ瀬君も来れるって聞いてるけど、
大丈夫かな~~??
四天王一の明るさを持つ梨沙は、前回のズポッチャの時と同様に、輪の中心となって遊ぶために皆を先導し、この梨沙からのメッセージを見て、穂高と瀬川は断りずらくなっていた。
(理由があれば、断れるんだろうけど、中々なぁ~~。
とゆうか、理由も無く断ってバレたりしたら、角立ちまくりだしな……。
武志がいる以上、口が軽いからポロっと変な事話して、嘘もバレそう……。
――――はぁ~~、また行くしかないのか?)
穂高は、ただ自分が行きたくないという理由の他にも、リムの活動もある為、なるべく休日は遊びに出かけたくはなかった。
(前の様子だと、また帰りも遅くなるだろうし、何より俺が学生だからな。
大きく大胆に行動、活動できる休日が無くなるのは痛すぎる……)
穂高は意識せずとも、リム中心、配信中心の生活、考え方になっており、何をするにもまず、配信や活動に影響が出ないかを一番に考えていた。
「――――行くしか選択肢は無いよな……」
瀬川の質問に、穂高は遅れて返事を返し、ため息と共に覚悟を決めた、そんな時だった。
武志に返事をしようと口を開きかけた時、再び携帯に通知が入る。
(――? ジスコード?? 平日のこの時間に?)
着信がpainのメッセージ受信では無かった為、穂高は瀬川や武志に配慮しながら、送られてきたメッセージを確認しようとした。
すると、そこには意外な人物からのメッセージが届いていた。
(――――lucky(ラッキー)??)
仕事関係でしか見受けられないその宛名に、穂高は少し違和感を感じながらも、メッセージを開いた。
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