第20話 姉の代わりにVTuber 20


「新人かぁ~~……」


穂高(ほだか)の出した新しい話題に、興味深そうに春奈(はるな)は呟く。


春奈は穂高の問いに少し間を置き、穂高はいろいろな意味で緊張が走る。


「『チューンコネクト』は、六期生まで増えて配信者も増えたから、そこまで私も新人を追えてないんだけど、六期生も個性的な娘ばかりで面白いよね!!」


少し抽象的な春奈の答えに、リムの成り代わりをしている穂高は、その答えを、六期生として微妙に感じたが、Vtuberファンとしては、話題を上手く続けられている事にホッとした。


「そ、そうだね!

流石に応募総数も凄い数字だし、デビューする娘はキャラが濃い娘が多いよね!

実は俺、六期生はデビュー配信から追ってたりするんだよね……。

ほら、今年デビューで最初から配信を追いやすいし」


穂高は、ファンの生の声が聞けるいい機会だとも思っており、更に踏み込んで春奈に六期生の話題を振る。


「確かに、今年初めて『チューンコネクト』を知ったよ!っていうファンには追いやすいよね!!

もちろん、今までファンも追いやすいし……。

でも、私は好きな配信者多いからなぁ~~。 正直、結構大変」


春奈は穂高の意見に同意しながらも、新人が増えることによって必然的に発生する苦労に、少し苦笑いを浮かべた。


「確かに……、見たい配信が増えてちょっと大変かもね…………」


「天ヶ瀬君は結構六期生に注目してるみたいだけど……、気になる子とかいるの??」


「え…………?」


遠回しに六期生の込み入った話を聞きたかった穂高だったが、逆に今、穂高が一番春奈にぶつけたい質問を思いがけない形でぶつけれた。


まさか、自分が六期生の中で、気になる配信者を聞かれるとは思わなかった穂高は、思わず声を漏らし、一瞬思考が停止した。


(お、俺が気になる同期……?

参考になると考えたら全員なんだが…………)


穂高は少しの間を置き、真剣に考えた後、春奈の質問に答え始める。


「エルフィオの配信とかは独特で、今までにない感じの配信で面白いなって思う。

元々、テンションはそんなに高くない感じで、静かに淡々と、冷静に話していくのに、

自分の興味のある事や、好きな事、出来事が起きると凄いテンションが高くなって、明るくなって……。

設定を度返しに自分を出してるっていうか……、良い意味で裏表が無いというか、素直というか……」


穂高は一番、同期の中で配信を見ているであろうメンバーのエルフィオの名を上げ、その理由も述べた。


「あぁ~~、エルフィオちゃんねッ!

私も結構エルフィオちゃんの配信は見るよ!! 

エルフィオちゃんはコラボももちろん面白いんだけど、やっぱりソロの配信が良いよね!

ソロの配信の切り抜きも多いし」


穂高の意見には春奈も心から同意し、楽しそうに話した。


春奈の言葉にもあったように、エルフィオの配信は、ファンによって、面白い場面を切り抜かれ、動画を出されていたが、その切り抜きのほとんどは、一人で配信していた際に起こった出来事が多かった。


エルフィオもそれを知ってか知らずか、一人での配信は六期生の中でも多く、淡々と一人で配信しながらも、時には大いに自分をさらけ出し、視聴者を楽しませた。


(エルフィオの配信は凄い勉強になるし、面白い。

仮にも同じ立場の配信者となった今、とても憧れる配信をしてる……。

とても憧れ、今のリムにとって最も遠い配信…………)


エルフィオは、普段のテンションがそこまで高い方では無いにしろ、六期生の中で一番素を出せている配信者でもあった。


そして、それは姉の成り代わりをしている、現在のリムから最も遠いスタイルでもあった。


 リムに囚われるのをやめな!


穂高は不意に、姉から送られてきたメッセージを思い出した。


(ほんと、無責任な……。

こっちは、ボロを出さないように、姉貴の代役を務める事に必死なのに…………)


不意に思い出した美絆(みき)のメッセージに穂高は苛立ちながらも、リムにとって現状が良い状況では無い事は明白だった。


「六期生で気になるといったら、他にリムちゃんも気になるよね!」


「え…………?」


穂高は意図せず、リムへの話題に移り、思わず声を漏らす。


「デビューした時から凄い破天荒っていうかさッ!

『チューンコネクト』の先輩にもどんどん絡んでいくし、それでいて面白いしッ!

最近の復帰配信も見たよ!!

相変わらず元気そうでよかったよね!」


穂高は自身が成り代わってからの配信も見ていることを知り、心臓が跳ね上がる。


「そ、そう……」


「――え? 天ヶ瀬君はそう見えなかったの??」


「え……? あ、あぁッ! いやいや、相変わらずリスナーを振り回してて、らしかったよ」


穂高は自分で言っていて、恥ずかしい思いとよく分からない状況に困惑しながらも、春奈に不審がられないよう、精一杯答えた。


「そうだね! 振り回してたね!!

でも、最近のリムの配信って、なんか前よりも親しみやすい感じがするんだよね」


「え…………? それって、どうゆう……」


「ん? えぇ~~と、上手く言葉では言い表せないんだけど、最近はソロでの配信が増えたじゃない??

前までの活発に各方面に絡んでいって、盛大に盛り上がる配信も見てて楽しいんだけどさ、

なんか、今の配信は落ち着くっていうか……。

同じリムなんだけど、前よりも親近感を感じるんだよね」


穂高は配信しているときも、似たようなコメントがちらほら流れていたのを思い出す。


(生の声は凄い貴重だし、重要だ……。

もう少し……、もう少しだけ…………)


穂高は自分の中で何かつかみかけているそれを、具体的に知りたかった。


そして、リスクももちろんあったが、穂高は続けて春奈に尋ねる。


「ま、まぁ、ソロの配信が増えて親近感を感じやすくなったていうのは、分かるけどそんなに変わるかな?

ほら、リムって復帰前もソロでの配信は好きでよくやってたわけで……。

メンバー限定とかさ! 雑談をメインに配信してたよね?」


「う、うん……、確かに言われてみればね??

メンバー限定の配信ってなっちゃうと、私はそこまでは追えてないから分からないけどさ。

う~~ん、なんて言えばいいのかな?

復帰前までは、なんかやっぱり雲の上の存在??というか、やっぱり自分たちとは違う世界の人間なような感覚があったんだよね?

リムって、本当に復帰前は勢いが凄かったじゃん?

いきなり大先輩と絡んでも、緊張せず自分を出して、結果、自分のファンも先輩のファンもみんなが喜ぶような配信をしてた。

ホント抜け目のない、完璧…………。

顔や素性も分からないけど、凄い人なんだなっていうのはヒシヒシと伝わってくるわけでさ……」


春奈の話に、どんどんと穂高は神妙な顔つきに変わっていき、難しい表情を浮かべながら、考え込んだ。


「――――その変化って良い変化だと思う??

一リスナーとして……」


穂高は考え込んだ様子のまま、視線を落とし、呟くように春奈に続けて問いかける。


「うん!

メンバー限定で今までやっていた配信なんだろうけど、

メンバーになっていない人もリムっていう人が、どういう人なんだろうかって分かるし。

今までの配信を知っていれば知っているほど、そのギャップが好きになれると思うよ!

現に、私も今のリムは前より好きだしね!!」


穂高の様子を少し、不思議に思う春奈だったが、穂高の質問にしっかりと堂々と答え、春奈のその答えに、穂高は今後の配信で、自分が何をすべきなのか、また姉すらも見せていなかったリムの可能性を見出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る