第7話 姉の代わりにVTuber 7


「すごくね?? ニッチなジャンルなのかもしれないけど、メンバーの中には100万ものチャンネル登録者を持つ配信者もいるんだぞ?

そんな『チューンコネクト』のメンバーがいるなんてさッ!!」


武志(たけし)の続けて話す言葉に、穂高(ほだか)はただ茫然とし、食事も喉を通らないほどの衝撃を受けた。


反応の鈍い穂高に、一緒に昼を過ごす瀬川(せがわ)も不思議そうに穂高を見つめていたが、特にそれについて追及する事は無く、反応の無い穂高に代わり、武志の話に答え始めた。


「え~~と、俺はあんまりその『チューンコネクト』?っていうのはあんまり詳しくないんだ……、そんなにすごいことなのか?」


「あったりまえだろッ!? 超有名人だぞ??

俺は芸能人に会えるよか嬉しいねッ!」


「そうなのか?

そんなに嬉しいなら本人に聞いてみたのか??」


瀬川は最もな質問を武志に投げかけた。


「--え? あ、まぁ……、それはな? ほら俺らと杉崎(すぎさき)さんは住む世界が違うから…………」


「証拠なしでそんなに騒いでるのか?」


瀬川の質問で途端に武志の覇気はなくなり、先ほどのまでの勢いと歯切れの良さを失い、しどろもどろに答えはじめ、そんな武志に瀬川は疑るような視線を向けた。


「だ、だってッ! 声がそっくりだしッ!! 

それに俺以外だってそう言ってるしさッ!!」


「----なんだよ、ソースはねぇのか…………」


慌てふためく武志に、ようやく穂高は口を開き、安堵と同時に武志の話を全く信じていないような様子で呟いた。


確証が無いのであれば、杉崎 春奈(はるな)が『チューンコネクト』のメンバーではない事は穂高の中で確信していた、春奈がもしメンバーのうちの一人であるならば、同じ学校に通う穂高に佐伯(さえき)から連絡が入るはずだった。


穂高の状況が状況の為、連絡が遅れた可能性も無きにしも非ずではあったが、その可能性はまめな佐伯ではあまり考えられず、姉である美絆(みき)からもそんなことを聞いたことはなかった。


「な、なんだよ……、穂高だって少し気になってたじゃんかよ……。

いいよッ! 今度聞いてもらうよ、彰(あきら)にさぁ」


「自分で聞けよ…………」


穂高はそれ以上この話題に関心がなくなり、春奈に直接聞くことはできない武志を情けなく思いながら、呟いた。


そして、ワイワイと楽し気に談笑する一つのグループへ視線を送った。


そのグループには武志の話にあった春奈や、親友である彰など、クラスの陽キャラと呼ばれる生徒たちが多く集まっていた。


(--まぁ、まず有り得ないと思うけど、一応聞いてい見るか…………)


春奈に呆然と視線を送りながらそんな事考えた。


すると、不意に春奈と視線がぶつかる。


「----ッ!!」


春奈と視線が合うとは思っていなかった穂高は、驚きすぐさま視線をそらした。


(ヤバいヤバい……、変に見つめてたら、気持ち悪がられる…………。

配信で忙しくなる分ただでさえ余裕は無いんだ……。

平穏に……、穏便に…………)


スクールカースト上位の女子には頭の上がらない穂高は、余計な面倒ごとに巻き込まれないよう、小さく目立たないよう努めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


昼休み。


談笑をしながら昼食を取っている中で、不意に視線を教室の端へと向けると、穂高を目が合った春奈は、驚いた表情を浮かべ、硬直していた。


「どうしたの? 春奈」


「--え? あ、あぁッ! な、何でもないよ!」


春奈に声をかけた菊池 梨沙(きくち りさ)は不思議そうに春奈を見つめていたが、春奈の返事を聞くと特に追及する事は無かった。


「ふ~~ん、そう……。

あッ! そういえば、春奈は週末どっちがいい??」


「え、え~~と、な、なんだっけ?」


「もぉ~~、聞いててよぉ~~。

カラオケとボーリングどっがいいかって話~~。

春奈はどっちがいい??」


「う、う~~んと、そうだなぁ~~。

私は運動好きだしボーリングかな?」


不満そうな梨沙だったが、素直に会話の流れを春奈に伝え、春奈は少し間を開けて真剣に考え答えた。


「えぇ~~、ボーリングゥゥ??

梨沙下手だからなぁ~~。

春奈は歌も上手いんだし、カラオケでいいじゃ~~ん!

このままじゃ、多数決でカラオケがが負けちゃうよ~~」


「へへッ、だぁ~~めッ!

こないだもカラオケだったでしょ? 前回、最後に行ったボーリングのリベンジを果たさなくっちゃッ!!」


嘆く梨沙をからかいながら、楽し気に春奈は意見を変える事はしなかった。


「リベンジって、彰君に負けたやつの~~??

また、みんなガチになる流れじゃ~~ん!!」


梨沙は前回のボーリングで、自分の不甲斐なさがトラウマになっている様子で、完全に乗り気では無かった。


そして、春奈が意見を変えそうにも無い事が分かると、他のメンバーへ意見を取りに行った。


(梨沙は相変わらず、運動嫌いだな~~。

よく、運動嫌いであそこまでのプロモーションを維持できるよ、まったく…………。

本人はこれ言うと、陰で努力してるんだよ! 太りやすい体質なんだよッ!!って怒るけど…………)


明るく活発で人懐っこい梨沙を見ながら、春奈はそんな事をふと思った。


梨沙はこの学校の中で、かなりレベルの高い美人だった。


小さい身長と可愛いらしい顔つきは、守りたくなるような存在であり、活発で人懐っこい彼女は愛らしい小動物の様で、同性である春奈ですら彼女を可愛らしいと感じる程だった。


そして、そんな梨沙はあまりの人気から、桜木高校四天王とも呼ばれていた。


春奈や梨沙の他にも二人、同じように四天王の一人として、そう陰で呼ばれていたが、もちろんこの名称には4人とも不信感を抱いており、あまり言われたい言葉では無かった。


もちろん、仲の良い友人以外からは、あまり面と向かって言われることは無いが、よくこのことで、からかわれたりする一面もあった。


(四天王ね…………。

全員女なんだけどなぁ~~)


春奈はふと、自分たちがそんな風に陰で言われている事を思い出し、不服そうに眉をしかめた。


4人が4人とも、他にはない魅力をそれぞれ持っており、モテる対象であったが、その中で春奈は少し、自分がこの括りの中にいる事を、疑問に思っているところもあった。


(私別に、男子からそんなに告白される事ないしな~~。

むしろ、女子から告白されることの方が多いような……。

友達にはからかわれるし、良い事ないよなぁ~、この名称…………)


春奈はため息を付きながら、この呼び名が卒業まで変わらない事を嘆いた。


杉崎 春奈(すぎさき はるな)は、同性に異様にモテた。


身長は女子の中では高い方であり、髪もショートであり、ボーイッシュな見た目から、可愛いや美しいよりは、カッコいいとの称賛の声が多かった。


スポーツも得意で、体育の際には目立ち、カッコいいと言われる事は、まんざらでもないのも事実ではあったが、それでも根は女の子でもあり、可愛いと言われたい気持ちももちろん持っていた。


最近では親衛隊なる、同性のグループもでき、後輩の取り巻きが増えた事で、余計に神格化され、高嶺の花状態になっていた。


「ハル? ちょっと、気になる事があるんだけど、いいかな??」


春奈が再び物思いに耽っていると、今度は同じ四天王の一括りにされている、四条 瑠衣(しじょう るい)から声を掛けられた。


「ん? どしたの? 瑠衣」


春奈は自分の周りのグループを確認し、瑠衣以外の他の男子や女子は梨沙を中心にワイワイと盛り上がっており、近くにいたが瑠衣と春奈だけ違う雰囲気で孤立していた。


瑠衣は二人っきりの雰囲気になったのを見計らって春奈に話しかけたのか、少し神妙な面持ちであり、春奈はそれに気付きながらも、普段通りに言葉を返した。


「えっとぉ……、もちろん違うと思うんだけどさ…………。

ハルってなんか、動画とか投稿してる……?」


「え…………?」


瑠衣の言葉に驚いたのと、心当たりのない話題に、春奈は呆然と言葉を漏らした。


「ど、動画ッ!?

私が??」


少しの間を置き、我に返ったように春奈は声を上げた。


動画を投稿しているかの質問だったが、それだけで春奈は、人気動画配信サイトYouTubeに自分が動画を投稿しているかどうかの質問だと理解し、思わず瑠衣るいへ聞き返した。


「うん……。 ちょっと小耳に挟んでね?

噂になってるよ?」


このグループの中で唯一付き合いの長い、幼稚園からの付き合いである瑠衣は、お互いにお互いの事を良く知っており、そんなお互いをよく知る瑠衣から、心当たりが全くない質問を、投げかけられるとは春奈も思っていなかった。


「えぇ~~ッ!?

瑠衣は私がそんな活動してないって知ってるでしょ??」


「だよね…………。

うん、いや、私もね? そんなまさかとは思ってたんだけど……。

その噂されてる動画を見てみたら、ホントにハルの声にそっくりだったんだよね…………。

ほら、ハルの地声って少し特徴的じゃない?

それにそっくりで…………」


「そうなんだ……。

まぁ、まだ私は直接聞かれたりとかは無いけど、瑠衣からも違うよって言ってもらってもいい?」


春奈はこれが信じられ広まると、少し面倒になるかとも思った。


まだまだ実害は無いにしろ、有名なストリーマーであるならば、変なトラブルにも巻き込まれかねない為、念のためのリスクケアだった。


「あぁ、うん。 それはもちろん!

でも、ハルはさぁ、一時期ハマってたストリーマーがいたじゃん?

あんまり有名じゃない、あの~~、誰だっけ??」


「てっちんねッ!」


「あぁ~~、そうそう、その人その人! 流石ファン。

熱心に動画やライブ配信見てたよね~~。

視聴者もそこまで多くは無かったけど……」


「てっちんはそういうのじゃないからいいの!!

ラジオ感覚でまったり話す感じでいいんだから」


瑠衣に有名じゃないと言われ、春奈は思わず熱く反論してしまう。


瑠衣の言う通り、あまり有名ではないそのストリーマーは、幅広く認知されることは無かったが、春奈にとっては好きなストリーマーであり、活動当時から今も彼のファンでもあった。


ただ、そんなほぼ毎日、三年間ほど活動していた彼は、突如として急に配信や動画を上げることは無くなった。


「今頃なにしてるんだろうね~~。てっちんさんは……」


瑠衣のその何気ない言葉に、当時彼の配信を追いかけていた春奈の心に大きく突き刺さった。


「じゅ、受験勉強してたし、今頃高校生してるとおもうよ……」


「あぁ~~ッ! あの配信ねッ!!

受験勉強をしながら、分からない問題をひたすらリスナーに聞いてたね!?

当時、私も受験生だったから見てたけど、振り回されてて面白かったな~~。

勉強にもなったしねッ!!」


「――う……、うん。 そうだね…………」


彼の配信から沢山の笑顔と元気を貰えた春奈だったが、いま彼の事を思い出しても、寂しい思いや悲しい思いしか浮かばず、自然と気持ちも落ち込んでいき、言葉に破棄も無くなっていった。


彼が突如として動画を上げなくなった理由は、春奈には知る由も無かったが、別れも告げれずに、突如として消えてしまった事が、何よりも寂しく、せめてお別れだけ、言いたい気持ちを未だに持っていた。


気持ちが沈んでいく春奈に瑠衣は、気づいたが、こんな彼女を見るのも慣れていた為、特に慰めるといった事はせず、淡々といつもの調子で会話を続ける。


「てっちんさんも四天王にこんなにも思ってもらえてるなんて、幸せ者だよな~~。

いつかさ……復帰ッ、してくれるといいね!」


「そうだね……」


瑠衣の最後の言葉に春奈は心から同意し、返事を返した。

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