第3話 姉の代わりにVTuber 3

◇ ◇ ◇ ◇


「うおぉぉぉぉおお~~~ッ! なに引き受けてんだ俺はッ!?」


天ケ瀬姉弟 住居 マンション一室


穂高は姉である美絆(みき)の願いを引き受けた事を激しく後悔していた。


美絆が配信者になる事で、全室防音処置を終えたマンションである為、近隣への騒音は心配なく、そんな中、穂高は存分に叫んだ。


叫ばずにはいられなかった。


(まず、親には連絡しないとな……。

姉貴が入院するんで、親父はすげぇ心配してたし……)


穂高はまだ大きな懸念を残しながらも、段々と冷静になってきた頭で、やるべき事を行った。


穂高の親、天ケ瀬 大輝(あまがせ だいき)は仕事の為、数年前からアメリカへと旅立っており、母の蘭(らん)も親父の世話、そして海外でも出来る仕事であった為、海外へと渡っていた。


美絆が大学生になり、穂高が高校生に上がり、手のかかる事が減ったのも、アメリカに旅立つ一つの要因になった。


割と放任的な家だったが、裕福ではあった。


穂高も美絆も、何不自由なくいろんなことをやらせてくれた親であり、もちろん感謝もしていた。


そんな家庭だからこそ、美絆も穂高もスリーマーとして活動出来ていた。


「と、とりあえずこれでいいか……」


穂高はパソコンを起動し、親へ姉の現状をメールで送り、しばらくは心配が無い事を伝えた。


(流石に自殺するどうこうは言えねぇな……)


穂高はとにかく余計な心配をかけるような事は、記載するのを避けた。


パソコンでメールを送り終えると、今度は穂高宛に送られてきたであろうメールを開く。


メールの送り主は佐伯 恵美(さえき えみ)さんだった。


穂高君へ


先程の配信する条件をメールでまとめました。

下の条件をこなし、社員の同意が得られれば配信しても問題ないわ。

私の個人的な意見としては、反対です。

リスクの方がデカすぎる気しかしてないです。

ですが、美絆はデビュー前からの私のパートナーです。

美絆の願いは出来るだけ叶えたい。

ですから、この条件をこなすまでは全力で協力します。

分からない事があれば、気軽に聞いてください。


佐伯のメールはここで一度途切れ、下には病室で話した条件と注意事項が事細かく丁寧に記載してあった。


そして、穂高はメールの本文全てに目を通した。


「まぁ、やるしかないよな……」


穂高はそう呟くと条件をもう一度確認した。


まず第一に、この一週間強制的に休養されている中で美絆のキャラに扮し動画を撮影。

この動画が三本。


二つ目に3日間のライブ配信。

『チューンコネクト』の社員のみを視聴者に、三度のライブ配信を行う。


動画、配信にどちらにおいても、企画、内容については一切問われない。


(これだけやって、合格を貰えたとしてもまだ『チューンコネクト』の人や佐伯さんは不安なんだろうな……)


穂高はこれだけの課題を貸され、これをクリアできたとしても、姉に成替わりになって、一般の人の前でキャラクターを演じる事の方が、よっぽど恐ろしかった。


そんな先の不安を感じながらも、怯えて立ち尽くす時間も無いため、美絆のキャラクターの設定、そして少ないが姉がデビューしてからの動画を見ることにした。


堕血宮(おちみや) リム。


天ケ瀬 美絆が演じるキャラクターであり、4人いる『チューンコネクト』六期生の一人だった。


キャラクターの設定として、元は天使であり、罪を犯し堕天使へと落ちた結果、悪魔として人々に恐れられているといった、公式の設定があり、公式のホームページにも記載されていた。


配信中は主に、中の演者の本質が前面に出てくるものだが、皆設定を守り、リスナーもその与えられた設定を面白く認識していた為、演じる、また視聴者を楽しませるには必要不可欠であり、確実に覚えておかなければならない物の一つだった。


また、リムのチャームポイントとして、女性だが声がハスキーで、可愛いというよりはキレイ系、カッコいい系としてその声が特徴的だった。


容姿も短髪の黒髪であり、キリりとした綺麗な顔立ちのキャラクターの為、その声にも合っており、見た目も相まって落ち着いた大人の女性の雰囲気を醸し出していた。


(設定はこんなもんか……、小悪魔チックでボーイッシュ、それでいて大人びたとか設定鬼盛りだよな……。

こなせてる姉貴は凄いの一言だろ…………)


穂高は改めて美絆のストリーマーとしての仕事を尊敬しながら、次は美絆の過去の配信を見ていった。


「ゲーム、ゲーム、ゲーム、雑談、ゲーム……。

流石にゲーム割合が多いな……、まぁ、しゃべりながらで雑談も兼ねられるからなぁ~~。

――問題は…………」


ぽつぽつと独り言を言いながら、美絆の配信の詳細に目を落とした。


美絆の長所として、フットワークの軽さと人当たりの良さがあった。


その長所を美絆は最大限に生かし、デビューしたばかりだというのにも関わらず、どんどんと上の世代の、この業界での先輩へ絡んでいき、6期生の中で一番のコラボ率を誇っていた。


相手の懐に入りやすく、美絆の性格が初対面でも、そこまで相手に負担を掛けない為か、コラボ相手も快く引き受けてくれていた。


「まぁ、この辺はまだまだ考える必要はないけど、もし配信の許可が下りたとしても、今までのようにコラボしていくスタイルは無理だな」


距離が近い『チェーンコネクト』の同期や先輩との接触は、バレる危険も余計に高くなる為、配信できたとしても極力コラボの誘いはせず、また受けない事を誓い、美絆がソロで配信しているゲームへと意識を絞った。


穂高はその動画を確認していく中で、思わず声を漏らした。


「すげぇ……」


美絆が活動していた期間はわずか二週間程。


その中で、姉は欠かさず毎日動画を投稿することはもちろん、一日に三度もライブ配信をしている日もあった。


「時間にしたら、一日18時間だぞ……?

ほぼ配信してんじゃねぇか……」


美絆が頑張っている事は知っていたが、ここまで鬼気迫るほどの配信をしているとは思ってもいなかった。


そして、美絆だけでは無く、姉の同期である6期生もそれぞれ、様々な形で、配信をし視聴数を稼いでいた。


(人生掛けるわけだな……)


穂高は美絆の活動から、姉のVチューバーに対する思いを再認識し、より気合が入った。


「よしッ!! まずは使えるゲームからだなッ!!」


穂高はそう声を発すると、意気込むようにして姉の配信を辿った。


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