第46話:管財人
ハコミとクライブは迫る天井を気にしながらも、その2人組の居る格子のところまで走る。クライブは慌ててその金属製の格子をガチャガチャと揺するが、びくともしない。その様子を見ながら痩せぎすの男は本当に面白いものを見るようにニヤニヤと笑みを浮かべる。
(……なんだか、ここの世界の服装っぽくないな。こいつ、トレンチコートなんて着てるし。このぐらいの金属格子ならすぐに食いちぎられるし、従順なフリをしてこいつらのことを探るか)
「お、おいっ! これは、なんの冗談だ!? 早く僕たちをここから出してくれ!」
慌てるクライブに対して、ハコミは目の前の2人組をじっくりと見る。痩せぎすの男はつばの広い中折れ帽子に、足元まである黒のトレンチコートを羽織っていた。女のほうといえば胸が大きく肌けたショッキングピンクのドレスを身に纏い、ドレスのかかったウェーブの青髪がドレスの色で余計に映えていた。両者ともに今までこの世界で会ってきた町人のように中世ヨーロッパのような素朴な服装とはかけ離れていた。
「まあまあ、"ごゆっくり"な」
「ふざけるなっ、早く出せっ! 天井がっ、天井がっ」
「そうねー、天井が落ちてきてるわねー。大変ねー」
クライブの必死の声に、青髪の女は棒読みで答える。トレンチコートの男と言えば、足元の埃を手で払うと座り込んで手巻きタバコに火をつけて吹かす。そして男は紫煙をクライブへと吹きかける。クライブはそのせいで涙目になりながらむせる。その合間にも天井はさらに落ちてくる。
「ごほっ、ごほっ……」
「まあまあ、ゆっくりしようや。ああ、自己紹介を忘れてたな。このナイスガイはエドガー、こっちの乳だしはロナだ。まあ、俺たちは言うなれば"管財人"さ」
「はぁ〜い、よろしく♡」
「ないす……がい?」
「……なんで、あの赤い石を集めてるんですか? それに賢者の石ってなんですか? (とりあえず何も知らないフリしとこ)」
ハコミもまた、わざとらしくクライブの足元で震えるふりをし、声まで震わせる。エドガーは紫煙を吐き出しながら、少しばかり間を置くと口を開く。
「んー、お嬢ちゃん。
「いや、でも……」
「まあ、いいか。あの赤い宝石は"賢者の石"って呼ばれててな、持ってりゃ持主の才覚を覚醒させるのさ。俺たち"管財人"の手持ちは3つ、8個ある賢者の石を揃えた暁には「ちょっと! エドガー!」」
エドガーの演説を、隣のロナが慌てて止める。
そして優しくエドガーの唇を人差し指を押し付けると、天井がかなり下がってもはや真っ直ぐ立つことも出来なくなっていたクライブに向きながら喋りかける。
「……そこまで話す必要ある? ほら、早く。命が惜しければ出しなよ?」
「じゃ、じゃあ、これを渡すので、は、早くこの仕掛けを止めて…」
ハコミは背負った荷物から布に包んだ手のひら大の物を手を伸ばすロナへと手渡す。その瞬間、ロナは中身も見ずにハコミの手から奪い取ると、エドガーの肩を叩く。そしてエドガーは面倒臭そうに立ち上がると火のついたタバコを格子の投げ捨ててから背を向けて歩き出す。
「ご協力どーもね♡ 頑張ってねー、ふふふっ」
「じゃあなー、お嬢ちゃん。あと坊主。まあ、俺の吸いかけのタバコをやるから落ち着いてくれ。ははっ!」
ロナとエドガーは意気揚々と立ち去る。
一方で天井はさらに下がり、クライブは中腰にならなければいけないほどであった。クライブはなんとか脱出しようと格子を叩きまくるが、びくともしない。一方でハコミはなにごともないかのようにクライブへ話しかける。
「あー、やっぱりか。そんなことだろうと思った。そら、口封じするよねー」
「ちょっ! ハコミ、なんでそんなに落ち着いてるの!? それにあの2人に何を渡したのさ!?」
「まあまあ、落ち着けって。よっ、と」
ハコミは格子に牙を当てると、まるで金属の格子がチーズのようにどろりと溶け出す。そしてすぐさま通り抜けられる程度の広さを格子に開けると、すぐさま天井が下がる部屋から逃げ出す。そしてハコミはすぐさま体勢を立て直すと、息も絶え絶えなクライブをなんとか叩き起こす。
「さて、あの2人組にお仕置きしなきゃな」
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