第44話:魔女の討伐

 光る木―――大地の知識に向かってハコミは飛びかかる。そして木の幹へ食らいつこうとしたハコミの両肩を黒い手ががしりと掴む。ハコミはチラリと肩を見やると、そこには枯れ木のような手がハコミの肩を掴んでいた。



「死体がまた動いたかっ!」



 ハコミを掴むのは光る木に根で繋がれた女の―――魔女の死体であった。長い黒髪の奥には窪んだ眼孔が2つ見え、ハコミを掴むミイラ化した腕には溶けたタールがへばりついていた。死体が動きだすのは、前回のゴブリンときと同じであったが、ゴブリンのときと比べて活動的であった。



「この干物がぁ!」



 ハコミは右肩の掴んだ手を噛みちぎり蒸発させる。だが残った左手がさらにハコミの左肩に爪を立てて食い込んでいき、肩の骨がミシミシと悲鳴を上げていく。そしてハコミを引き剥がそうと、一気に投げ飛ばそうとする。ハコミは左肩に食い込む手も蒸発させようとするが、間に合わない。



「ケイト姉さんの脚を潰した仇だ!」




 ハコミが投げ飛ばされかけたその瞬間、クライブが魔女へと剣を持って斬りかかる。それはハコミが罠を避けるために上階に居た死体から拝借したもの、剣は錆びて刃こぼれも起こしていたが、切れ味はなくても鈍器としては十分な武器であった。クライブの剣はハコミの肩を掴む魔女の腕へと振り下ろされ、ほぼ骨に乾いた肉がへばりついただけの左手は叩き折れて宙を舞う。



「クライブ、ナイス!」



 ハコミの体は自由となる。そしてハコミは大きく口を開く。ハコミの大きく開いた口内は溶岩に満たされた火口のように爛々としており、その口から漏れる吐息だけで光る木の皮を焦がした。そして次の瞬間には木の幹の目前へと迫った"それ"は、木の幹の半分を食いちぎる―――正確に言えば"蒸発"させた。




「しぃい"い"い"っ!!!」



 死体の魔女が二の腕から先が消えた両手を天へと掲げながら断末魔の叫び声をあげる。だが、幹の半分がハコミによってえぐられても倒れることはない。




「うるせぇな、黙って伐採されろ」




 そして次の瞬間には、残る半分もハコミによって喰い千切られていた。轟音を立てて倒れる大地の知識光る木、だが光る木の根に繋がっていた魔女は叫び声をあげるのをピタリとやめて倒れた木の横に立ったままハコミと、そしてクライブを見つめるのだった。

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