第41話:クライブの決意
目の前には黒曜石のように艶のある石材で出来た円柱の大きな柱のような建物に広間が広がっていた。まだ日が落ちるギリギリであったために、地下へ降りる階段が薄らと見える。
「うーん、アグナの角と似たような感じだけど、こんな黒曜石みたいな材質じゃなかったね」
髪は邪魔にならないように後ろに1つにまとめ、明るい薄緑の上着にズボン、そして背には
「なあ、クライブ。今からそんな怖い顔してたら、疲れちゃうよ」
ハコミは眉間に皺を寄せて怖い表情を浮かべたクライブを
「…僕がケイト姉さんの食事にちゃんと行ってれば。いや、せめてすぐに約束をすっぽかしたことを謝りに行ってれば
クライブは今朝のことを思い出しながら呟く。
ハコミとクライブは宿屋にて起床すると朝食を摂るために、また昨晩の食事の約束をすっぽかしたことをケイトへと謝るために街へと繰り出したが、早朝だと言うのに紅い制服を着た衛士たちが慌ただしく騒いでいた。その尋常でない様子に昨晩なにがあったのか、また同じ衛士のケイトがどこに居るのかをクライブは尋ねた。
『あの、すみません。何があったんですか? あと衛士のケイト・クルーガーをどこかで見てませんか?』
『ああっ!? テメェ、何言ってんだ!? そのケイトが黒犬に襲われたから今こうしてるんだろうが!』
『え、え…』
『すみません、クライブ兄さんは混乱しているみたいで。それでー、そのぉ、ケイトさんは大丈夫なんですか?』
ショックを受けて固まるクライブを押しのけて、ハコミは質問を衛士に投げつける。流石にイラついている衛士とはいえ、小さな女の子相手に怒鳴り散らすわけにもいかないために怒りを抑えながら問いに答える。
『う、うむ、まあ、近くの病院に担ぎ込まれてるよ。 …だが、もう衛士は無理だな、右足が丸ごと食い千切られちまった。まったく、普段
『普段行かない場所、ですか?』
『ああ、誰かとの約束を破られたから気晴らしに遠くを見てくるとかなんだとか。そんで黒犬に遭遇したらしいな。いや、ケイトはまだ生きてるだけマシか。近くに居た親子なんてパズルピースみたいにバラバラにされて近くに転がってたしな。 …お嬢ちゃん、もしつばの広い三角帽子に黒いローブを着た女を見たら逃げろよ?』
そう言い残すと、慌ただしく衛士は駆けていく。
ハコミはクライブへ『病院へ行こう』と声を掛けようと視線を向けると、怒りと悲しみの入り混じった表情を浮かべたクライブが居た。その見たことのない表情にハコミはギョッとする。
『僕のせいだ、僕の…』
そう言うとクライブは踵を返す。
ハコミはクライブの尋常でない様子に声を掛けられないまま、その背についていく。黙ってクライブの背について行ったハコミであったが、クライブは病院に向かうのではなく一軒の雑貨屋で立ち止まると店内へ入っていく。流石のハコミも慌てて雑貨屋に入ったクライブの腰のベルトを掴んで止める。
『お、おいっ、クライブ! こんな店で買い物するよかケイトさんのお見舞いに行くのが先だろ!?』
『どんな顔で僕にケイトさんに会えって言うの?』
『いや、でも』
『ハコミ、君は昨日言ったよね。魔女を退治できる可能性がアグナの心臓にあるかもって』
『ああ、うん。だけど、あくまでも可能性だよ?』
『なら行く価値は十分ある。僕が責任を取って魔女を抹殺しにいくよ』
そう言うとクライブは
『…はぁ。俺の分の必要物資も買ってくれよ?』
『一緒に行ってくれるの? 昨日行かないって言ってたのに』
『まあ、1人ならもっと調べてから行くけどさ。"友達"が危ない場所に行くなら流石について行くさ』
そして必要な荷物を買い込み、泊まっていた宿へと戻ると元から持っていた荷物をまとめてからすぐにアグナの心臓へ向けて出発したのだった。そして森を抜け、川を渡り、道なき道を進んでアグナの心臓へ着く頃には日が傾き、落ち掛けていたのだった。
「…よし、行こう」
クライブが
「クライブ、ここから先は慎重に行ったほうがいい」
「え? どうしたの、急に」
ハコミはクライブの腰を掴んで引き止め、そして拾っていたぼろぼろの靴を階下へと投げる。その靴が地下の床へとぶつかって転がった瞬間、床下から鋭い棘が勢いよく飛び出してきた。靴は棘に貫かれて真っ二つとなって床へと転がり落ちる。すぐに死ぬほどの程度ではないものの、足などは容易に貫通する罠。ハコミはクライブの腰を数回叩くと、自身の口に指を当てて"喋るな"と指示を出す。
「ヨールさんが言ってたでしょ? 昔、罠とかがあったって。それにほら、よく見てよ。地上のフロアはこんなに人が入り込んだ形跡があるのに、地下はゴミが落ちてるぐらいで人が寝床にした形跡がないんだよ、おかしいよね? 地下の方が過ごしやすいのにさ。罠が何に反応するかわからない、もしかしたら声に反応する罠もあるから、出来るだけ喋らないか喋る時は小声にしよう」
クライブはごくりと生唾を飲むと、あらためて地下への階段を降りるのであった。
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