第28話:罪の告白
「ビンベさん、そもそも今回のゴブリン襲撃から生贄の流れ、おかしいと思いませんか?」
「え?」
「このガキっ、何を言ってっ!?」
「町長さん、少しだけ聞いてください。 …普段街を襲わないゴブリンが、急に街を襲ってきた。そしてその対策はこの街に古くから居る人間―――ビンベさんが知らない"生贄"と。まず、そこがおかしいんですよ。先祖が書いた日記、この辺りの"風習"と書き続いてあったんですよね? なぜ、すぐにそれを信じたんです? その本が書かれた時は状況が違うはず。ビンベさんの言う通り、街の人間が一致団結してゴブリンに対抗する手段もあったはずです。あるいは、別の街から応援を呼んだりとか。ですが、町長さん。あなたは"生贄"に固執した、その根拠があったのでは?」
「…っ」
町長はここで押し黙る。
黙って、顔色が白くなっていたが今にも噛み付かん目でハコミを見やる。
「…ビンベさん。お聞きしますが、この街で犯罪とかしたらどうなるんです?」
「えっ、あっ、ああ。犯罪を犯した人間は町長が責任を持って町長の家の隣にある地下室に閉じ込めたり、人殺しとかしたやつは、別の街の監獄に送られたり…あっ」
そこまで話してビンベはハコミが何を言いたいのか理解する。一方で町長のほうといえば、ぶるぶると肩を震わせて額には脂汗が浮かぶ。
「ビンベさんのその様子だと、他の街に犯罪者を送っていたのは町長1人でやられていた、とかですかね。まあ、単刀直入に言いましょうか、町長さん。あなたは"風習"を続けられたのでは? しかもお一人で、継ぐ人間もいない状況だったのでは?」
「…何故わかった」
町長はぽつりと肯定する。
ビンベは町長が肯定したことに嫌悪の表情で町長を見つめる。
「恐らく、あなたの年齢では1人で"風習"を続けることが出来なくなっていた。かといってこんな風習を誰かに引き継がせることも出来なかった。だからこそ、風習が途切れたことでゴブリンたちが街を襲い掛かった。そんなところだったんでしょう」
「おい、町長…アンタ」
「ただ、私は…いや、
町長の額には滝のように脂汗が流れ続けていたが、一方で先程まで紙のように真っ白だった顔色には血色が戻りつつあった。町長は近くの椅子にふらふらと向かうと深く座る。
「ああ。ああ。そうだよ、ずっと、ずっとだ。ワシの親父、じいさん、その前のじいさん、ずっと前のじいさん。みんな、ずっと続けて来たんだ。『あいつは人殺しだから、生贄にされて当然だ』、そう、前の町長だった親父は言っていたよ。 …だが、もうワシは疲れたよ、だからこそ、息子にはこのことは言わなかった。こんなこと、ワシの代で終わりだと。意味のないことだと、そう、思ってた。だが、ゴブリンどもが街を襲ってきてな、ワシは、ワシは。 …ワシは嬉しかった。『ああ、ワシは、ワシたちは間違ったことはしていなかった』と。この"風習"を誰かに引き継げると」
町長の告白を聞いて、先程まで怒気を孕んだ目でビンベの視線は侮蔑が混じっていた。だが、ビンベが口を開く前にハコミがビンベを戒める口調で話しかける。
「ビンベさんも言いたいことがあるでしょうが、町長さんもそれが街のためだと自分に言い聞かせて続けて追い詰められていたんでしょうから。 …それに聞きたいのは"光る木"についてです。あれはなんですか?」
「…あれは、あいつは"アグナの化身"。ワシはそう聞いておる」
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