第19話:行き着いた場所

 風も感じることが出来ない暗い暗い一室。一部の壁は崩れて土が露出している。

真っ暗でカビ臭い部屋の一角に泥に塗れた白っぽい木箱と木樽が3つ。風が通らない淀んだ空気の部屋、そこに4匹のゴブリンが現れる。手には松明を持ち、部屋に置かれた木樽と木箱に気がつくと近寄っていく。



「ギギッ?」



 ゴブリンは木箱と木樽に松明を近づけると、その様子を見やる。ゴブリンたちはお互いに顔を見合わせてから、それぞれがくぐもった声で笑う。そして木樽に手をかけ、そして1番部屋の奥に置かれた木箱にゴブリンの1匹が手をかけたとき、木箱がゴブリンの目の前で振動する。



「ギギィ?」

 


 ゴブリンが手を伸ばした状態で目の前の状態に首を傾げる。そして木箱に触れようとしたその瞬間、差し出した右手が"消滅"する。



「ギッギッギギッ!?」



「うるさい」



 木箱はいつの間にか泥で汚れたウエディングドレスを着た幼女―――ハコミになっていた。松明の明かりを受けて真っ赤に爛々と光る目と溶岩の火口のように燃え盛る大きく開いた口が、ゴブリンの首から上を飲み込むと同時に蒸発させる。



「ギッ?」



 他のゴブリンが仲間の異変に気がつく。それと同時に首をなくして骸となったゴブリンが床に崩れ落ちる。同時に、ゴブリンの影に隠れていたハコミは重たい木樽を持って身動きの取れないゴブリンたちに襲いかかった。




 それから、僅かな時間で辺りは静まり返る。

ゴブリンが手にしていた松明を拾いあげて、ハコミは辺りの様子を窺いながら1人呟く。



「ふぅー、危なかった…。伝承検証って命懸けの研究職だなぁ、まさか"聖域"の花園が底無し沼に変わって、こんな遺跡っぽい場所に続いてるとはなぁ。こういうのをちゃんと研究日誌にまとめたいんだけど」



 ハコミは焼け爛れたり、首や胸に大穴が空いたゴブリンたちの死体を避けながら木樽の1つに近寄ると、小さくノックする。




 コンッココッコン、ココッ。



 リズミカルに木樽の蓋をノックすると、一泊置いて中から同じようにノックが返される。ハコミは辺りの様子を伺いながら木樽の蓋を開けると、中には短剣を構えたクライブが身をかがめていた。



「おっ、大丈夫? とりあえず辺りは安全に



「…ここ、まさか」



 クライブは短剣を仕舞うと、木樽から顔だけ出して呟く。


「…ここ、”アグナの角”だ」

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