金儲け

エリー.ファー

金儲け

「先輩、先輩、何でここで飯食ってるんすか」

「あんたが、私をここに呼んだんでしょ」

「えっ。あたしがっすか。そうでしたっけ」

「じゃあ、なんであんたはここにいるのよ」

「えぇと、先輩を呼んだからっす」

「そう、あんたが私のことを呼んだのよ。で、何の話よ」

「あ、そうだ。えぇと、なんでしたっけ」

「帰るわよ」

「いやいや、待って欲しいっす。思い出しました、思い出しました」

「ただでさえ、ここの料理全然美味しくないから不愉快なのに、あんたが来て欲しいって言うから来てるのよ。それ、分かってるわよね」

「分かってるっす、分かってるっす。すみません。すみません」

「で、何」

「良い金の儲け話があるんすけど。どうっすか」

「どうでもいい」

「なんでそんなこと言うんすか」

「あんたはっ、私にその儲け話とかいうのを毎回するけど、私が乗ったことあるわけ」

「な、ないっすね」

「なんで乗らないと思う」

「もも、も、儲け話になってないからっすか」

「そう。私はいつもそう言ってるよね。あんたのは儲け話どうしようもないって。絵空事のクソだって、私はずっと言ってるよね。何度も何度も言ってるよね。それ、分かってるよね。理解してるよね」

「してるっす、してるっす」

「じゃあ、なんでここに呼んだわけ」

「えぇと、今度こそ凄い儲け話だからっす」

「帰る」

「先輩っ、待って欲しいっす、待って欲しいっす」

「待たない」

「先輩は優しい人だから、話しを聞いてくれるはずっす」

「聞かない」

「聞く聞く。先輩のこと大好きっす」

「私はあんたのこと嫌い」

「そんなことないっす」

「ある」

「ない」

「ある」

「ない」

「じゃあ、一万」

「え」

「一万払って。そしたら聞いてあげる」

「いや、でも」

「あんたもその儲け話に乗るんでしょ」

「乗るっす」

「じゃあ、一万なんてはした金になるでしょ。ほら、一万払って」

「うう、前回もこうなったっす」

「私と会話するための必要経費よ。ほら、払って」

「でも」

「早く」

「はい、一万っす」

「きったない一万ね」

「す、すいません」

「で、儲け話の内容はどんな感じなの」

「まず、河童を捕まえます」

「はい、帰るね」

「ちょっ、ちょっ、ちょっと待って欲しいっす」

「待たない」

「河童の捕まえ方だってちゃんと考えてるんす」

「仮に捕まえてどうするわけ」

「え」

「どうすんのか言ってみなさいよ」

「乾燥させて粉にして売ります」

「その儲け話、乾燥させて粉にするよりも、捕まえた段階で儲け話として成立してるから」

「じゃあ、捕まえます」

「そもそもいないんだから、それが大変なんだよ馬鹿がっ」

「ひえっ」

「帰るっ」

「先輩っ、ちょっと一万」

「こっちは損ばっかりなんだから返すわけないでしょっ、馬鹿がっ」

「先輩の家、金持ちなんすからいいじゃないっすか」

「時間を無駄に過ごすことになったんだからっ、一万くらい貰わないとわりに合わないっ」

「あぁ、一万円。愛しの一万円」




 もしもし、依頼主さんお疲れ様っす。

 あぁ、大丈夫っすよ。ちゃんとあのお店のランチの時間帯に窓際の席で先輩を座らせておいたんで。はい、嘘じゃないっすよ。ちゃんと隠しカメラで座っているところは撮影したんで、いつも通りデータ送るっす。確認してください。

 報酬の二万円っすけど、いつもの口座に振り込んでおいてください。お願いするっすよ。

 いやあ、先輩美人っすからね。ああやって外から見えるところに座らせとけば、男の客とかどんどん入りますもんね。お店のランチセットはすぐに売り切れるし、あたしは経費で一万飛ぶけど、二万入ってくるから一万円もらえるし、完璧っすよ。

 本当に何の文句もないっす。

 有難いっす。

 えへへ。

 でもっすよ。依頼主さんって、こうやってボイスチェンジャーで声を変えた上で、あたしに電話してくるじゃないっすか。まぁ、自分が誰なのかばれないようにするためだとは思うんすけど。

 なんでなんすか。

 だって依頼内容で考えたら、ランチを早く売り切りたいお店の店長さんで確定じゃないっすか。そんなの分かり切ってるはずなのに、なんで顔も声も出さないんすか。

 ねぇ。

 本当は依頼主さんって先輩なんじゃないっすか。

 先輩、あたしみたいな馬鹿な後輩が、一万欲しさに必死に考えてきた儲け話で足止めするのを、その会話相手っていう特等席から定期的に見て、腹の底で馬鹿にして笑いたいんじゃないっすか。

 ほら先輩の家、金持ちだし。自分を騙せてると思ってる後輩をより高い所から見下ろすのって、一万払う価値あると思うんすよ。今の時代、ストレス発散なんてどんだけ金を積んでも難しいのに、一万でここまで馬鹿にできるのってお得だと思うんすよね。

 まぁ、あたしは毎回、一万もらえるし別にいいんすけど。

 で。結局これってどうなんすかね。

 あたしは一万手に入れて、先輩はストレスを発散できて。

 どっちの方が金銭的にも気持ち的にも儲けてるんすかね。

 また、あのお店で話しましょうよ。先輩。

 だから、先輩を足止めする依頼、またあたしにしてくださいね。

 待ってるっす。

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