第二部プロローグ『ミレン』


 ――自分の意識が、深く沈み出していることは直ぐに分かった。


 暗い。黒の空間。

 思考の海の中を必死に藻掻くが、空を切るようにまるで手ごたえがない。

 足掻けども、足掻けども、意識は混濁していく一方で、浮上する気配などは微塵も感じられなかった。


 ああ、そういうことね……

 どうやら、私はついに死に絶えるらしい。


 まあ、いつかこんな時が来るとは思っていた。――デスゲーム。こんなことを続けていれば、真っ当な死に方はしないだろう、と。


 にしても、呆気ないものね。

 人間、死ぬときはあっさりぽっくり逝くらしい。


 もっと、こう…… 天使がお迎えに来てくれるとか、死んだおばあちゃんが手を振っているとか、死んだおじいちゃんが三途の川でマグロの一本釣りしてるとか……、いや、マグロは川じゃなくて海か。三途の海ね。混濁している意識の中で、これほどまでに思考が働くなんて、さすが私。


 と、まあとにかく、ゲームのように派手な演出なども無く、ただひっそりと命の燈火は消え逝くらしい。


 もう直ぐ、私は死ぬ。間違いなく。

 でも、いいわ。覚悟は出来ていたから。もう現世に思い残すことなんて何も無……、無いわけじゃないけど……

 よく考えたら、まだやりたいことはいっぱいあるわね。

 めっちゃ未練だらけよ。


 でも、死は私の可愛いワガママを聞いてくれるほど、慈悲深いわけでは無いらしい。

 無情にも、私の意識はどんどん奪われていく。

 こんな人生、死んでも死にきれないわよ……!

 そんな私の恨み言なんて虚空に消えて、死が目の前まで迫って来ていた。


 ふんっ、上等よ。

 そっちがその気なら、私は最後まで文字通り必死に抗ってやるわ……!

 鎌を持った死神だろうと何だろうと、この私が最後のデスゲームで遊んであげるわよ!


 そんな風に、私は死という概念を相手に奮闘した。たとえ無意味であろうとも。

 それでも、やはり記憶と思考は徐々に擦り減って薄れ行く。

 自分を構成している“魂”が、少しずつ削られているようだった。


 こうして、私――四居美恋よついみれんの人生は終わりを迎えたのだった。



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