四章『ゾンビ&ガンズ』4-3


「ルールはこんなところですね。ハンドガンで撃たれたかどうかなどの判定は、校内の監視カメラで判定します。ですので、もちろんカメラを壊すことや隠すことは禁止です」

「なあ、“死者”ってのは、ゲーム終了まで何も出来ないのか? ハンドガンにロックが掛かるって書いてあるけど」


 今度は、前方の席に座る小太りのオッサンが質問を投げた。


「さあ? 実際に死ぬわけじゃないんですから、やれることはあるんじゃないですか? その辺は自分で考えてください」

「教えてくれてもいいじゃないか。冷たいなぁ……」


 しょんぼりするオッサン。まあ、ハンドガンが撃てなくても、身体が動くんだから出来ることは何かしらあるだろう。それに、もしかしたら……


「あまりルールに関係ないかもですが、賞金の一億五〇〇〇万円というのは……?」


 次は、丸眼鏡をかけた女子生徒らしき人物が質問した。


「ああ、これですね。皆様から集めた参加費が合計で一億円ですが、それに加えて出資者の方から五〇〇〇万円を頂いています。要するにスポンサーですね。まあ、そっちの事情はあまり気にしないでください」

「ふーん。そっかそっか」


 丸眼鏡の女子に代わり、さっきのオッサンが大きく頷いたのだった。


【ねえ、一斗くん。ルールが多くてよく分からなかったんだけど……】


 そんな、加子かこの情けない言葉が聞こえてきた。仕方ない、要点だけまとめてやるか。


 要するに、“人間陣営”なら、“ゾンビ”全員を撃って根絶やしにする。

 逆に“ゾンビ陣営”なら、“人間”に正体を知られないようにしながら生き残る。あと、必要に応じて仲間を増やす。


 んで、どちらにせよ生存人数に応じた賞金が手に入る、と。

 今は簡単にそれだけ覚えておけばいいだろう。……たぶん。


「他に質問が無ければ、ゲームを開始しますが?」


 バニーガールが全体に問うた。

 しかし、質問らしいものが上がる気配はない。

 俺は横目でチラリと白華はっかに視線を移す。白華もまた、俺を見て小さく頷きを返してきた。



「では、ゲームを開始致します! “ゾンビ&ガンズ”スタートですっ!」



 バニーガールが言うと、キーンコーンカーンコーンという学校のチャイムが鳴り響いた。

 俺は立ち上がり、白華を背にして教室全体を見やる。

 即座に銃撃戦となっても、何らおかしくはない状況だからだ。


 あとそれに、ゴム銃とはいえ、白華に当たって怪我でもされると困るしな。

 俺はけん制の為にハンドガンを構えたが、それは周りのプレイヤーも同じらしい。

 一触即発だった。いつの間にかバニーガールの姿も無くなってるし。


「ちょっと、ちょっと!? 皆、何してるの? ま、待ちなよ!?」


 しかし、場に似つかわしくない情けないような声が上がる。

 例のオッサンだった。

 両手を上げて降参の合図を送っている。

 なんつーか、いきなり毒気を抜かれた気分だった。うーむ……


「皆、待つんだ。俺の話を聞いてくれ!」


 オッサンがそんな風に周囲へ訴える。

 何か考えがあってのことなんだろうが……、なんか胡散臭いな。


【そうですね。私も同感です】

「一斗、どうする?」


 くいくい俺の服を引っ張り、真後ろの白華が問うた。どうすると言われてもなぁ……


「まあ、話くらいは聞いてやるか?」


 この一触即発の雰囲気が消えたのはオッサンのお陰でもあるし。

 妙な動きがあっても、俺が盾になり白華だけでも無事ならいくらでも挽回は出来る。

 まさに、ゾンビの特権だな。

 周囲もいつの間にか銃を降ろすプレイヤーが現れていた。いきなり発砲なんていう展開にはならなそうだ。


「話を聞いてくれるみたいだね。ありがとう。じゃあ、早速本題だけど、全員で協力して賞金を得ないか?」


 オッサンはそんなことを言った。


「……あなた、何を言っているんですか?」


 と、クソネズミが言葉を返したのだった。そして、オッサンが続ける。


「だって、考えてもみなよ。参加費が一人一〇〇〇万円でしょ? で、賞金は一億五〇〇〇万円だ。一切争わず“ゾンビ”に勝たせてあげて、あとでその賞金を全員に当分して配れば、一人一五〇〇万円。差し引き五〇〇万円がノーリスクで手に入るんだよ。これって凄いことじゃないか? 五〇〇万円だよ? 五〇〇万円!」


 オッサンはテンションを上げながら自分の作戦の有用性を説いた。

 やれやれ。分かってないなぁこのオッサンは。これには俺もやれやれ系主人公だ。


 ――バンッ!!!!


 不意打ちで、そんな破裂音が教室の空気を震わせた。ふぇえええ。


「そんなはした金で、僕が満足するわけ無いでしょう。ましてや、わざわざ高レートデスゲームに挑むようなプレイヤーたちだ。同意するはずも無い」


 拒否の意思表示を発砲で行う系男子のクソネズミだった。

 そして、小太りのオッサンの身体が床に崩れ落ちる。

 もちろん死んではいないだろうが、当たったら痛いのは間違いなさそうだな。普通の人間だったら。


「たとえ同じ“人間陣営”だったとしても、数を減らせば手に入る賞金も増える。もし、“ゾンビ”に当たればラッキー。そう思いませんか?」


 ――バンッ!!!!


 二度目の発砲音が響き渡った。まあ、クソネズミのことは気に入らないが、実は俺も同意見だった。こうして序盤で数を減らすのは、大きなアドバンテージに――


【一斗くん! 撃たれてます! 撃たれてますからぁっ!】


 え? なに、どういうこと? どうしたの急に?


【一斗くんが撃たれてるんですって!】


 ……え、マジ?

 痛みを感じなかったので、気づかなかったが俺は撃たれていたらしい。

 胸のあたりを見ると、ぐしゃりと身体にめり込むゴム弾があった。あ、マジやんけ。


「く、クソネズミぃぃぃいいいいいいい!!!! てめぇ一度ならず二度までも!!!!」


 や、やりやがったな、こいつ!

 やられたらやり返す! 等倍返しだ!

 俺もハンドガンを構えてクソネズミを狙い、その引き金を引いた。ははは! 死ねぇ!


 ――カチッ。


 ……引き金は引けなかった。

 そうだった。撃たれたプレイヤーは“死者”状態になって、ハンドガンにロックが掛かるんだったな。ははは……


「ね、ねえ、一斗。早速ピンチみたいだけど、どうしよっか……?」


 俺の後ろで白華が問うた。これには白華も苦笑いである。

 ったく、やれやれ。どうするかなんて、そんなの決まってるだろうに。


「て、撤退だ! 一時撤退!」


 白華を連れて安全な場所へ逃げる。やっぱ、これだよね!


【えー…… 一斗くん、カッコ悪いです……】


 う、うるせえ! 不意打ちじゃなかったら何とかなってたんだよ! たぶんな!


「む、無痛症なのか、ワン公くんは……! でも、そっちの彼女は違うでしょ」


 バンバンッと発砲音が続く。


「きゃっ!?」


 しかし、それは俺が盾になることでガード。何でもかんでも思い通りになると思うなよ?


「白華! 大丈夫か!?」

「うん。あ、ありがと……、えへへ」


 そして、俺の手を握る白華。そのまま、俺たちは教室を後にして逃げ出した。

 途中、クソネズミの暴走によって、複数のプレイヤーが身を守るべく廊下に飛び出してきたが、俺たちと同じ方向へ逃げてきたプレイヤーは居なかった。

 よし、これなら……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る