四章『ゾンビ&ガンズ』4-2


「ねえ、一斗。あれ」


 後ろに居る白華はっかが、俺の袖をくいくい引っ張る。いちいち仕草が可愛いな。

 教室の中を見やると、そこには……、えーっと、全部で七人のプレイヤーらしき人物がいた。


 制服姿の女子生徒から、小汚い格好のオッサンまで様々なタイプの人間がいる。それぞれが、教室に並べられた席に座っていた。


 そして、白華の示す先――黒板には『指定の席に座り、ネームプレートを付けてください』という丸文字が。

 再度、空いた席を見やると、そこには見覚えのあるネームプレートが置かれていた。

 なるほど、そこが指定の席なわけか。白華とは後ろの席で隣り同士である。


「とりあえず。指示通りにするか」

「う、うん……!」


 空いた三つの席の内、自分のネームプレートがある場所に着席する。

 そして、ネームプレートを胸に付けた。白華も同じようにする。


「こんにちは。意外と落ち着いてますね。デスゲームは二回目くらいですか?」


 不意に、白華とは逆サイドの席に座る青年に話しかけられた。


「まあ、そんなところ――って、お前クソネズミじゃねぇかッ!?」

「おや?」


 その青年――クソネズミが俺の顔を覗き込む。そして、思い出したように感嘆の声を上げた。

 間違いない。このイケメン風を吹かせた憎らしい爽やかクズ。あの船の鬼ごっこで俺を嵌めやがったクソネズミだ。よくもまぁ、ぬけぬけと……!


「て、てめぇ、ここで会ったが一〇〇回目だ! あの時の借り、ここで返させてもらうぞ!」

「会ったのは二回目ですよ。にしても、生きてたんですね」

「こちとら、とっくに死んどるわ!」

「? どういうことです?」

「ちょ、一斗! しー! 余計なこと言わないの!」


 白華が俺の服の袖を引っ張る。おっと、取り乱したな。ふーっ。一旦、冷静になろう。


「ちっ。ぜってぇ、ぶっ殺す……!」

【全然、冷静じゃないですよ?】


 うっせ。こっちは一度、こいつのせいで危機に陥ってんだ。やり返さないと気が済まねぇんだよ。


【はいはい。それはいいですけど、白華ちゃんを困らせないで下さいね】


 ん…… まあ、それもそうか。

 改めて椅子に座り直す俺。ゲーム中、機会があれば復讐してやろう。


「はいはーい! 元気なのは結構ですが、ホームルームを始めますよー!」


 教室の扉が開き、二人の人物が入ってきた。

 片方は背の低いパーカー姿の人物。フードを目深に被っており、その顔を見ることは出来なかった。そいつは無言で最後の空いた席に座る。

 プレイヤー側だったのか。にしても、最後に入ってくるのは強キャラ感があってカッコいいな。俺もやりたかった。


 そして、もう片方の人物。ホームルームを始めると言い出した女性だ。こいつもまた奇妙な格好をしていた。

 彼女が教壇の上に立ち、堂々と声を上げた。


「初めまして! 本ゲームでディーラー兼ジャッジ兼このクラスの担任を務めます、運営のバニーちゃんですっ!」


 元気いっぱいに明るく自己紹介をした運営サイドらしい人物。

 その彼女は、バニーガールのコスプレをしていた。なぜ、バニーガール? でも、可愛いから問題はない。


「『迷宮』は元々、カジノをイメージしたデスゲーム組織なのです。その名残で、バニーガールがディーラーをすることになっていますっ」


 聞いてもいない解説が入った。まあ、誰もが同じ疑問を抱いていただろうし、恒例行事なのかもしれない。どーでもいいが。


【むー、どうでもいいと言いながらも、色んなところをガン見しているようですが?】


 それは仕方のないことだ。深く考えるな。


「ではでは、さっそくゲームのルールについて解説します! まず、この一〇人の中に一人、怖ーい“ゾンビ”が居ます。他の人は普通の“人間”です」


 ドキリ、と動かないはずの心臓が跳ねる。

 え? ぞ、ゾンビ……? そんなの居るわけ無いじゃないですか……、あはは……


【一斗くん、動揺し過ぎですよぅ。ゲームの話っぽいですよ?】


 やれやれといった加子かこのツッコミが入る。なんだ、ゲームの設定か。驚かせやがって。


「本ゲームでは、“ゾンビ陣営”、および“人間陣営”での戦いとなります。どういう戦いなのかは……、袋の中身を確認して頂いた方が早いかもしれませんね。どうぞ、ご確認ください!」


 バニーガールが言うと、プレイヤーたちは揃って自分の袋を開けた。

 それを見て、俺と白華も同じように確認したのだが――


「こ、これって……、銃……?」


 白華が小さく呟いた。顔は驚きに満ちている。

 俺の袋の中にも、白華の持つ銃と同じハンドガンが入っていた。意外と重いんだな。


「もうお察しかと思いますが、今回のゲームはシューティングゲームですっ! とはいえ、そのハンドガンは本物ではなくゴム弾の入った偽物ですのでご安心を! まあ、弾が当たったらクソ痛いですけどね」


 ゾンビのシューティングゲームか……

 昨日のゲーセンでの出来事を思い出す。タイムリーというかベタというか。ちょっとした予行演習だな。


「弾倉も袋の中に十分に入っているので、弾切れの心配は暫く無いかと思います。あとは、一枚のカードが入っていると思うので、それを各々が確認してください」


 弾倉が入った袋の中をガサゴソ漁ると、バニーガールの言う通りカードが入っていた。

 袋の中でこっそり確認する。『あなたは人間です』という文字が刻まれていた。いいえ、私はゾンビです。


【皮肉ですね。私たちは腐肉ですけど】


 誰が上手いこと言えと? んなことより、これが陣営なんだろうな。俺は“人間陣営”か。


「では、本格的なルール説明に入らせてもらいます。先ほども言いましたが、プレイヤーには“ゾンビ”と“人間”の二種類が居ます。“人間陣営”の皆さんの目的は、タイムリミットまでに“ゾンビ”を全滅させること。“ゾンビ陣営”はタイムリミットまで生き残ることが目的となります」

「でも、そのルールだと“ゾンビ陣営”が不利なんじゃないですか? 一人しかいないわけですし」


 と、隣に座るクソネズミが質問を投げかける。


「そんなこともありません。“ゾンビ”には特殊な能力が備わっているからです。なんと、“ゾンビ”は噛みついた相手を“ゾンビ陣営”にしてしまう恐ろしい能力があるのです」


 がおー、とあまり怖くないゾンビの真似をするバニーガール。

 ふーん。噛みついた相手を“ゾンビ”に、か……


【定番な設定ですけど、私たちにはありませんよね? そんな能力】


 そうだな。所詮はフィクションの産物か。

 まあ、デスゲームでの“ゾンビ”は、“人間”に噛みついて陣営を増やすのが目的ってことなのだろう。


「ちなみに“ゾンビ”の能力はそれだけです。もちろん、“人間”は無能力です。あと、シューティングゲームですので、当然撃たれた場合は“死者”として扱われます。“死者”は賞金を受け取れません。ルールを一覧にすると、こんな感じですね」


 バニーガールは、チョークを持つと、黒板にルール一覧を書き記していった。

 そのルール一覧がコレだ。



『“ゾンビ&ガンズ”のルール♡』

・初期“ゾンビ陣営”は一人。初期“人間陣営”は九人。

・タイムリミットは六時間。

・フィールドは校内のみ。外に出ちゃダメ。(出られないけどね)

・“人間陣営”は、タイムリミットまでにハンドガンで撃って“ゾンビ”プレイヤー全員を“死者”にすることが目的。

 目的を達成すると、“人間”は賞金をゲット。一億五〇〇〇万円を“人間”の数で割った額の賞金が手に入る。

・“ゾンビ陣営”は、タイムリミットまで生き残ることが目的。

 目的を達成すると、“ゾンビ”は賞金をゲット。一億五〇〇〇万円を“ゾンビ”の数で割った額の賞金が手に入る。

・ハンドガンで撃たれたプレイヤーは皆一様に“死者”状態となる。“死者”は賞金を得られない。また、“死者”は自分のハンドガンにロックが掛かり、発砲が出来なくなる。

・“ゾンビ”は噛みついた相手を“ゾンビ”状態にすることが出来る。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る