魔物相談所へようこそ

水嶋川千遊

第1話 魔物相談所

魔物とはいつの世も人々に忌み嫌われる存在であった。

村を襲い、町を襲い、都市を襲い、ときには国をも襲い多くの人々を殺す存在であった。

だが、人間はそのような存在におびえるだけではなかった。

ときには兵士が、ときには騎士が度々魔物の討伐を行い、人々を守った。

特に冒険者と呼ばれる存在は町の雑用や商人や貴族などの護衛などを行う一方で、魔物に立ち向かうスペシャリストとしての側面を持ち合わせる職業であった。


ところで、魔物の中には高い知性を持つ者たちも存在し、その中のごく一部は人間との共存を度々望んだ。しかし、その望みは未だかつてかなうことはなかった。なぜなら、そのような魔物は人々を襲う魔物と同一視され多くの人間に殺されてしまうからだった。その結果、人々を襲う魔物のみが力を伸ばし人々に危害を加えると言うことが繰り返されてきた。

そして、互いに忌み嫌い合う物同士が争いを繰り返すそのような歴史が繰り返されてきた。






「所長~さ~ん、話を聞いてよ!」


深い霧で覆われた森にぽつんと建てられた小屋に仮面を被った少年のような存在が駆け込んできた。


「また人間に襲われたんだよ。おとなしくしていただけなのにさ~」


「ようこそ。少し落ち着いたらどうなんだ。今度はどのランクの冒険者に襲われたんだよ」


小屋の中にいた人物は駆け込んできた存在に驚くことはなく、日常の一幕であったかのように対応した。


「たしか、Bランク冒険者が4人だったかな」


「それはまたそこそこ実力のあるメンツだな。お前が戦うつもりだったら良くて相打ちってところだったかな」


仮面をかぶった存在は特に驚くことはなく、想像の範囲内の強さであったことにつまらなさを感じながら話を聞いていた。


「人間の基準はわからないけれど、僕はBランクくらいの強さに分類されるんだっけ?」


「それは今まで人間側にたいした被害を出してないからこその分類だろ。まともに戦闘せずに逃げることが多いから実際の強さはわからないんだろ。実際のお前の実力はもっと上、それこそ最低でもAランクの実力はあるぞ」


自分が投げたかけた質問であったにもかかわらず、仮面を被った存在はそれがどれくらいの強さを示しているのかを理解できずに首をかしげていた。


「わかりやすくいえば、都市1つをお前だけで崩壊させることができるくらいの強さだよ」


「都市1つか~。あんまり強くなさそうだね」


「人間からしたら十分強い部類に入ると思うんだけどね」


「それは人間が弱いからでしょ?」


自らの強さに自信がある人間が聞けば怒りそうな言葉を当たり前でどうでも良いことのように発言した仮面を被った存在はつまらなそうに目の前の人間を眺める。


「そんなつまらなそうにするなよ。この話を始めたのは君だろ?何より、君はその弱い人間と共存したいのだろう?」


「まあね。まあ、人間が弱いって言っても俺たちの種族もかなり弱いからあんまり強くは言えないんだけれどね。ところでさ、所長~さ~ん、どうやったら人間と仲良くなれると思う?」


それまでのつまらなそうな雰囲気から一変し、楽しげな雰囲気をまとわせながら質問した。


「誰か一人と仲良くするとかは可能だと思うぞ。だが、人間という種と仲良くなりたいと思うならそれは難しいことだ。元々人間と魔物は長年争い続けている上にお前の種族は人間との仲の悪さは筋金入りだからな」


人間からの返答に仮面を被った存在は困ったように返答した。


「そうなんだよ。そこが問題なんだよね。俺たちの種族は基本的に人間に害しか与えていないから嫌われることには困らないんだけれど好かれることは難しすぎるんだよ。なんとか人間と暮らしてみたいんだけどな~」


「そういじけるな。お前レベルまで進化しているなら、お前だけなら人間に紛れることは難しくないが、お前の種族達までとなるとやはり難しいぞ」


「えっ、僕が人間の中に紛れることはできるの?てっきり正体がすぐにばれちゃうから無理かと思っていたんだけれど」


目の前の人間から告げられた言葉に仮面を被った存在は驚きの声を上げながら聞き返した。魔物と人間の争いは魔物達の間でも有名であり、だからこその共存の難しさを仮面の存在は理解していた。そのため、これまでに何度も相談所を訪れそのたびに人間との共存を行いたいということ話すとしていたが、一方でなかなか話を切り出すことができずにいた。しかし、たまたま今回声に出した願望に対し、可能であるとの返事が来ないと思っていたため、明確に質問しか事はなく、この返事が来ただけでも今日この場所に来たかいがあったと思えるほどの収穫であった。


「多少手間がかかるが不可能ではない。まあ、協力者が必要になる上に準備が必要だから今すぐにとは行かないがな。それに行動に制限を設けなくてはならないがそれでも問題ないようなら準備を進めておくぞ?」


「もちろんだよ。準備を進めてよ。協力が必要ならいくらでも協力するしね。じゃあ俺帰るから~」


そうして、仮面を被った存在は軽い足取りでそのまま相談所を出て行くのだった。

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