青春と記憶

木風 詩

第1話 きっかけ

 友達と会った帰りに電車から見える景色の懐かしさに、昔住んでいた浦和駅でつい下車をしてしまった。


  平日の午後3時過ぎ、知っている人に会うことは無いだろうな…そのほうがいいけど。駅を降りて周りを見渡すと景色が結構変わってしまっていた。

 バイトをしていたDVDレンタルのお店は飲食店になっていた。住んでいた家の近くのファミレスがまだあるのか、少しドキドキしながら歩いて行くと看板が見えた…。

「無くなってなかったんだ。」

 さらに歩くと昔住んでいたマンションも変わらない姿で残っていた「屋上に上がれるかな?」最近はオートロックが普通なので無理かも知れないと思いながらも入り口のドアを押してみた…入れる…昔と変わっていない。エレベーターで6階まで上がりそこから階段で屋上に向かった。色は白から赤に塗り替えられていたがその他は変わっていなかった。ゆっくりとドアノブを回してみる…開いた!屋上からの爽やかな風がドアの隙間から流れ込んでくる。外に出るとほぼ昔のままの変わらない景色が広がる。懐かしさに胸が熱くなってきた…いつも座っていた場所に腰を下ろすと雲のないきれいな空を見上げた。


 高校生の時にバンドを組もうと思っていた。モテたいからとかバンドやったら少しは出会いがあるかなーなんてそんな気持ちではなく、純粋に仲間と演奏をやってみたかった。大好きなアーティストがコンサートで楽しそうにやっているのをみて、自分もその世界を体験してみたくなり、女友達三人でベース、ギター、キーボードとパートを分け買いに行った。私はもともと家にクラッシックギターがあって少し弾いたことがあったのでギターを担当する事にした。メンバーは三人しかいなかったが、後で集めようと話し合い、今人気のバンドの曲をやってみることにした。さてボーカル、ドラムをどうするか…って考えてるうちに結局なにもせずバンドは夢に消えギターは家で眠っていた。


 高校を卒業してから久しぶりに中学時代のクラスメイトの聖香に誘われて、中学のメンバーが大勢通っていた章南高校の文化祭に行くことになった。校門の前で待ち合わせをして立っていると、自転車で聖香がニコニコしながら向かってきた。

「柚!久しぶり」

「聖香!元気だった。懐かしいねー。突然誘われたからびっくりしたよ。」

 久しぶりにあった聖香はお化粧のせいもあるが可愛くなっていた。

「希に誘われてさー。なんか平中のメンバーとしゃべってたら柚と聖香どうしてるかねー。って話になったみたいで、仲良しでさ、違う学校に行ったの私と柚だけじゃない。だから私も懐かしくなって〜。柚とも久しぶりに会いたかったし、来てくれてうれしいよー。」

「私も〜嬉しい。」

「早くみんなに会いに行こ〜。」

 パンフレットを受付で受取り校内に入って行くと、よくあるお化け屋敷や駄菓子屋、色々飾り付けがしてあり自分の時を思い出しそれだけでもちょっとワクワクした。

「希たち体育館にいるみたい。行ってみようよ」聖香がメールでやり取りをしていた。」

「うん。行こう」渡り廊下をぬけると体育館がある。バンドだろうかドラムの音が外まで響いている。バンドかーいいなぁ…音が止まったタイミングで中に入り見渡すと大勢の人がいる…一番前の方に希たちがいた。


「希!」後ろを振り向き

「きゃあ〜。聖香〜、柚〜来たー」走って来て抱きつき、一緒にいた元クラスメイトの花と紗南も走って来た。

「元気だった〜。来てくれて嬉しい」希が笑顔で言った。

 私も嬉しくて抱きつき返した。体育館の照明が暗くなり次のバンドが始まった。手を引っ張られ一番前に連れて行かれた。

「このバンドすごくカッコいいんだよ。ぜったいいいから見ていって!去年もかっこよくてさ、また見たくなっちゃって」

 希が興奮してぴょんぴょん跳ねている。

「そうなんだ。楽しみだね」演奏が始まる。コピーバンドだったので知っている曲もありノリが良く結構楽しめた。演奏が終わり外に出ると、どうだった?と感想を聞かれた。

「かっこよかった」そうでもなかったがどうやらボーカルが希の彼氏らしい…褒めておこう。バンドはやっぱり楽しそうでいい…自分もまたやりたくなった。

「バンドやりたいな」聖香がぼそっと呟いた。

「えっ!私もそう思った。」

「柚、バンド一緒にやろうよ。私ボーカルやってみたい!」

「私、キーボードやりたい」あまり自信はなかったが小さい頃にピアノをならっていたのでキーボードなら出来るかも。ギターは結局挫折した。。文化祭の帰りに聖香とファミレスに入って今後どうするか話した。

「二人じゃしょうがないよね。メンバー募集する?」前回の二の舞にはなりたくない。

「そうだね。そうした方がいいよね。男?女?どっち募集する?」

「こだわらなくてもいいかもね。来た人で合いそうな人とやるのはどう?」

「いいかもね。バンドメンバー募集のサイトあるからそこに出そうよ。」

「そうしよう。私やっておくよ。とりあえずギターとベースとドラムでいいよね」と聖香が募集をしてくれることになった。

文化祭をキッカケにまたバンドを組むことになった。嬉しい…今度こそちゃんとやりたいな。いい人来るといいけど…まだ何も決まっていないが、とりあえずキーボードだけは買った。今度こそ絶対諦めない。

 久しぶりに弾いてみると全然手が動かないが不思議なことに昔ピアノ教室で習った曲は今もスムーズに弾けたる…まいった…練習しないといけない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る