無神論者の花だより

橘木葉

X   プロローグ

神様ってヒドイことするなあ。

若葉色の森を眺めながら、旅人は一人歩を進める。

さわさわと揺れる木々。僅かに触れる風は、少しだけ冷たい。

これなら、もうすぐ外套もいらなくなるかな。

なんて考えていると、足取りも軽くなる。

白い白い世界の中、切り取られたようにそこは存在していた。

町外れの小さな教会。

周りを囲む背の高い林檎の木には、雪がぽつりぽつりと積もっている。

「——……」

静かに息を吞んで、旅人は足を踏み出した。

一定のリズムで足音が聞こえる。

そして雪の積もった木陰に腰を下ろすと、旅人はそっと、歪んだ視界を閉じた。







「————ねえ、」







声がして、はっと目を開く。

見ると、修道服を着た黒髪の少女が、旅人の顔を覗き込んでいた。

「貴方、また来たの?」

「まあね」

いつものように答えると、少女は大きなため息をつく。

何処からか冷たい風が吹いて、すっかり赤く色づいた森をざわつかせた。

「……寒っ。そろそろ外套を出した方がいいかも」

「最近冷えるね。きっと、雪が降るのもすぐだよ」

「雪は早すぎるんじゃない?」

「ふふっ。さあ、どうかな」

くすくすと笑う旅人に、少女は訝しげに眉を寄せる。

この教会で過ごす最初の冬は、一体どんなことになるのやら。

少女のため息がもう一つ、冷たい空気の中に溶けた。

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