第八話 デート
去年の7月頃から詩織さんが女子水泳部の特別コーチとして招かれていた。
彼女だって大学で忙しいはずなのに週に三回も聖陵高校に来てくれていました。
詩織さんと一緒に部活の帰りが遅くなり貴斗さんのバイトがない時は必ずと言ってお迎えに来てくれていた。
詩織さんがコーチに来てくれる様になって貴斗さんと接する機会が多くなっていた。
彼と一緒にいる時間が多くなれば、なるほど私は貴斗さんに対する甘えの強さが大きくなっていた。
その所為で、私の想いも増して行ってしまう。
~ 2004年2月7日、土曜日 ~
部活の練習も終わって弥生と一緒に部室にいた。
そうそう、弥生は去年から新しい部長として夏美先輩からその任を譲り受けていた。
本当は私がなる筈だったんだけど、私の柄じゃないからって断りました。
弥生に悪いと思っているけど彼女の方が向いていると思って部長を決めるとき先輩たちに彼女を推薦していたんです。
と言うか、押し付けてしまったと言った方が正しい。
弥生も人が善く断りきれなかったようで現在に至る・・・。
でも、副部長は部長が強制的に決めるっていう仕来りがあったらしく弥生が私なんかを指定してくれたから有無なしに決定されてしまった。
今、二人して部長、副部長としての仕事をしていた。
「あぁぁあぁ、めんどくさぁ~~~、なんで私がこんな事をやんなくちゃいけないのよ?後は弥生ちゃんにおぉっまかせぇ~」
「みぃちゃんそんなこと、言わないでちゃんと手伝ってよぉっ!」
ぶつくさと弥生に文句を吐きながら女子部員のトレーニン・グメニューや大会記録などの整理をしていた。
なんでこんなのを部長や副部長がやらなければいけないのか?と思いながら手を動かしていた。
飽きてくると途中何度か弥生に悪戯な事を言いって、また仕事を再開する。そんな繰り返し。
全てが終わって時間を確認したら午後8時30分を過ぎていた。
「あぁ~~~、終わった終わった、さぁかえろぉ~~~」
「そうだネェ、アッ、今日は将臣お兄ちゃんが迎えに来てくれるの一緒に帰りましょっ!」
「あれぇ、弥生ちゃんいつ将臣なんかに連絡したの?」
「学校、来る前に今日は遅くなるから8時半に迎えにきてねっって言っておいた」
「別にいいよ、今から貴斗さんに連絡して迎えに来てもらっちゃうから」
「アッ、いいなぁ、弥生も一緒に送ってもらっちゃおうかなぁ?」
そんなことを言っている弥生を無視して、携帯電話をカバンから取り出して彼に連絡を取った。
「もしもし、貴斗さんですかぁ?」
「あぁ、俺だ、どうした?」
「部活の後、友達とお喋りしていたらこんな時間になってしまいましたぁ。お外暗くて怖くて帰れませぇ~ん」
〈さてさて、貴斗さんはなんて答えてくれるかなぁ?〉
「それで」
〈ハゥ~~~、そっけない対応ですネェ~~~、わかっていたけど悲しいです〉
「貴斗さん、お迎えに来てくっ」
『ブチッ、ツゥー、ツゥー、ツゥー』
「もしもしィ?もしもぉ~~~しっ。ありゃりゃぁ?切れちゃった」
もう一度電話を掛けなおそうと思ったけどバッテリー切れになっていてそれは不可能だった。
貴斗さんにはちゃんと私の意思が伝わったと勝手に思い込み、呑気に弥生ちゃんと部室から出て屋内プール上の玄関に向かった。
玄関前の階段に座ると弥生ちゃんの方から声をかけてきた。
「もう一度電話、掛け直さなくていいの?弥生の携帯貸してもいいよ」
「大丈夫、貴斗さん見かけあんなだけどとっても鋭敏だから」
「あぁ、なんだかみぃちゃん、貴斗さんに失礼なこと言ってるぅ」
「そんなことないもん、貴斗さんのコトを良く知っているからそう言えるんだよ」
何時の頃からか弥生のやつも彼の事を苗字じゃなくて名の方で呼んでいた。
お迎えが来るまで彼女と貴斗さんのことを話題にお喋りをしていた。
先に迎えが来たのは将臣の方だった時間にして8時50分。
「ねえ、みぃちゃん、一緒に貴斗さんを待ってあげようか?」
「貴斗さんと話したいだけでしょ、お邪魔虫しないでさっさと帰っちゃいなさい」
「うぅぅぅ、みぃちゃんまた酷いこと言う、もう知らない。暴漢に襲われちゃっても知らないんだからねっ、ふんっ」
彼女はそう言って迎えに来た将臣と一緒に帰って行く。その時、将臣が私へ何かを言いたそうだったけど、追い払う様に別れの挨拶をしてしまった。
それから十分くらいが経ってタイヤの音を軋ませ、若しヘッドライトが点いてなかったら暗がりでは何所にその存在があるのか分かりにくいガンメタリックの車が登場し、その中から走ってくる存在があった。
その人がここに来ると私の方から声をかけた。
「アッ、お兄ちゃん、迎えに来てくれたんですねぇ」
いつも二人の時だけ甘える様に貴斗さんをお兄ちゃんって呼ばせてもらっている。
「・・・」
「あれっ、お兄ちゃんどうしたんですかぁ~~~?」
〈どうしちゃんたのかなぁ?貴斗お兄ちゃん黙ってしまいました〉
「・・・」
「ねぇ、オニぃーちゃんってばぁ」
「みぃー・どぉー・りっ、 説明しロッ、なぜ途中で電話を切った!」
〈あれぇ?貴斗さん表情とは裏腹に声が怒っちゃっています〉
「切ったんじゃなく、携帯のバッテリーが切れたんでぇすぅ~」
口を尖らせて彼にそう答えました。
「・・・」
「お兄ちゃん?」
「心配したんだからな」
「お兄ちゃん?若しかして私の事を心配してくれたんですかぁ?」
表情を変え本当に私を心配したんだって顔を貴斗さんは見せてくれました。
そんな彼の顔を見てしまったから私の悪戯っぽい行動に申し訳なくなって謝るような口調で彼にそう尋ねていました。
「そうだ、悪いか?」
「貴斗お兄ちゃん!」
照れながらそんな風に言葉にして返してくれる貴斗さんを見られるのが嬉しくて、私の事を心配してくれた貴斗さんの心が嬉しくて思わず抱き付いていた。
「オッ、おい、何スンダ放せっ!」
「嬉しいんだもん、いやぁ~~~」
貴斗さんはうろたえながらそう言ってきたけど、私は直ぐに離れる積りはないの。
だって誰の目も気にする事もないし、こわぁ~~~い目で詩織さんに睨まれる事もないからそんな言葉を言いながら暫く彼に抱き付いていた。
少しの時間が経つといつの間にか貴斗さんは冷静になっていた。そして、声をかけてくる。
「いつまで、抱きついている?迎えに来たんだから帰るぞ」
「はぁ~~~いですぅ」
そろそろ、彼のいう事を聞かないと嫌われちゃいそうだからそう返事をして彼の車へと向かった。
車の助手席に座ると直ぐにシートベルトを締めた。
だって貴斗さんこういうことは凄く厳しいからですよ。
車が走り出して大きな道路に出た頃、私の方から彼にお話をかけた。
「お兄ちゃん、明日お暇ですかぁ?」
貴斗さん、明日バイトがないことは彼の家のカレンダーを見て覚えていたんです。
貴斗さんって几帳面にも仕事スケジュールとかカレンダーに記入するようですよ。
若し、詩織さんと何も予定が入っていなかったら貴斗さんは明日暇なはず。
「あぁん?明日?・・・・・・・・、予定なし」
「やったぁ~~~、それじゃ、明日一緒にお買い物しましょぉ!」
〈後は上手く貴斗さんを誤魔化して・・・〉
「何で翠ちゃんの買い物に俺が付き合わなければならない?」
「一人で行くには遠すぎますぅ。だからお兄ちゃんと一緒に車で行けたら良いなァッて」
「どぉ~~~すっかなぁ?」
「ぶぅ~、お兄ちゃんいつでも甘えて良いって私に言ってくれたじゃないですかぁ。嘘だったんですかぁ?」
貴斗さんが焦らすような事を言うから不満そうな声で彼にそう言っていた。
「悪い、記憶喪失なんでな、昔言った事は覚えてない」
ハァ~、そうなんだよね、貴斗さんって今でも記憶喪失なままなんだよね。
でも、そんな事を言い訳に使う貴斗さんズルイちょっと許せないです。
さっきより顔を膨らませて見せしょうがなく最終手段を口にすることにしました。
「若し、一緒に行ってくれないんなら、ウッシッシッ!」
別に何も悪戯な事する積りないけど思いっきり悪戯な笑みを作りながらそんな笑い声を貴斗さんに聞かせて上げた。
「あぁ、判ったよ。一緒に行ってやる」
貴斗さんは慌てた様にそういってきた。作戦成功ですね。
「お兄ちゃん、ホントォ?」
「本当だ、詩織も一緒に誘おう」
「詩織お姉さまですか?駄目ですぅ」
〈ハァ、ヤッパリ、言うと思っていたけど〉
「なんだ?」
「どうしてもですぅ、ムゥ~~~」
〈デートなんだもん。詩織さんには申し訳ないけどお邪魔です〉
「ハイ、ハイ、判ったからそんな顔しないでくれ」
「ヤリィ~~~」
膨れた顔を見せると呆れた感じでそう言ってくるけど嬉しいから私はそんな事を口にしていた。
家の前に到着すると貴斗さんに明日の予定の時間をお知らせしてお別れしました。
~ 2004年2月8日、日曜日 ~
「みどりぃ~~~~~~、何時まで寝ているつもりですかぁ~~~、今日は貴斗さんとお出かけするんでしょぉーーーっ?」
ドア越しに葵ママの声が聞こえてきた。
「ふにゅぅ~~~」
そんな変な言葉を出して目を摩りながら身体をベッドから起こして時間を確認した・・・?
「はウゥ~~~、もうこんな時間ですぅ」
目覚まし時計の針は既に9時12分を指していた。
私は慌てて洗面所へ駆け込み、身嗜みを即行でする。
「ハァ~~~、寝癖が凄いですぅ、ちゃんと直るかなぁ?」
鏡台を見ながら必死になって変に寝癖が付いてしまった髪をスチーム・ドライヤーで整えていた。
それから部屋に戻り身動きし易い様な服を選びそれに着替えた。
それが終わると一階へ飛ぶ様に降りて行く。
「翠、オハヨウ。今日はいつもと違いましてお寝坊さんでしたね」
「ママ、なんでもっと早く起こしてくれなかったのぉ」
「起こしましたよ、それでも貴女がもう少しって言うから・・・、そうでした先ほど貴斗さんから連絡ありましてもう直ぐここへ付くそうです」
「それじゃ、早くご飯食べないと」
そう言って直ぐにママが用意してくれていた朝食にありついた。
それが丁度食べ終わって歯を磨き終わった頃、貴斗さんがこのお家に私を迎えに来てくれたんです。
先に玄関に出ていたママが貴斗さんに挨拶をしていた。
「貴斗さん、娘が我侭を申して済みませんでしたね」
「いいんですよ、妹のように思っていますから」
〈本当はそれ以上に思って欲しいんだけどなぁ~~~〉
「良かったわね、翠。貴斗さんにご迷惑をお掛けしてはいけませんよ」
「ハッハァーイ、それじゃ行ってきまぁ~~~すぅっ」
見送ってくれたママに元気よく挨拶をして貴斗さんの車に乗り込んだ。
「翠ちゃん、処で今からどこへ行くんだ?」
車が動き出してから暫くして貴斗さんはそう聞いて来ました。
「私がナヴィするからお兄ちゃんはその通り車を運転してねぇ」
「任務了解!出る」
「お兄ちゃん、なんか軍人さんみたいですぅ、クスッ」
本当にそんな感じがしたから私はそう言葉にして笑ってしまいまいした。
私の顔を見た貴斗さんがにやける様に笑っていたからどうしてそんな風に笑ったのか聞いてみた。
「何で、お兄ちゃんそこで変に笑うんですかぁ?」
「気にするな」
「気になりますぅ、ムッ」
〈気にするなって言われたら余計に気になっちゃいます〉
「それよりナヴィ、頼む。目的地につけない」
「そうでしたぁ!」
貴斗さんに話をそらされそう聞かれてしまったから仕様がなくそう返事して道案内を始めた。
携帯電話のiーmodeの道路交通情報サービスを見ながら的確に彼に道順を教えていた。
一時間ぐらいしてその目的に到着して貴斗さんと一緒に車を降りました。
彼は周りを確認して不思議そうな表情をしていた。
「・・・、翠ちゃんここは?」
「見てわからないんですかぁ?」
貴斗さんを連れてきたこの場所はシーサイド・フロート・アイランドと言う海沿いにある遊園地だった。
「ここでいったい何を買い物するんだ?」
「だって、そうでも言わないとお兄ちゃん、絶対一緒に来てくれると思わなかったんだもん」
「俺をだましたのか?」
〈ふぇえぇ~~~ん、貴斗さんが睨んでますぅ〉
「だってぇ・・・」
騙す積りはなかったけど結果的にはそうなってしまった。
私は悄気た表情を作って貴斗さんの前で淋しそうに俯いてみせていた。
「ハァ~、しょうがないな、コイツ。部活いつも一生懸命だから、たまに息抜きも良いかも」
そんな表情の私を見た所為なのか貴斗さんは優しい口調と穏やかな笑みでそう返してくれたんですよ。
「ほんと、お兄ちゃん?」
「ここまで来て引き揚げるほど俺の懐は狭くない。安心しろ、本当だ!」
「やったぁ~~~、お兄ちゃんとデート、デートッ♪」
嬉しくなってウキウキ気分で貴斗さんに私の本心を言ってしまいました。
それを聞いたお兄ちゃんは愕然とした面白い表情を見せてくれていた。
「行くか?」
何かを確認してから貴斗さんはそう私に言ってくれる。
「行こぉ~、行こぉ~、お兄ちゃん」
ニコニコ顔で返し、貴斗さんの大きな手を引っ張って園内に入場した。
* * *
さすがに日曜日だけあって園内は沢山の人達で混雑していた。
この遊園地は数多くあるジェットコースターや絶叫マシンがメインで若者たちに人気がある場所。
ジェットコースターの方は沢山の人達で列が作られていた。
でも、絶叫マシンの方はそれに比べると人の数が少なかったから、それらを重視して園内を貴斗お兄ちゃんと回る事にしたの。
私や他の乗客たちは絶叫しているのに貴斗さんは声一つ上げていなかった・・・、けどすっごぉーーーく、顔を引きつらせていた。
絶叫マシンばかり乗せていたせいか?貴斗お兄ちゃんはとても疲れているご様子だった。
「貴斗お兄ちゃん、お疲れのようですネェ、少し休みましょうか?」
「そうさせてくれると有り難い」
「それじゃァ~~~、あそこで休みましょぉ~~~」
近くにあった休憩所を指差してそう言った。
その場所に到着すると貴斗お兄ちゃんはグデェ~~~ッとへばる様にパラソル付きテーブルの椅子に座りこんだ。
「翠ちゃん、なんか飲み物、買って来てくれると嬉しい」
お兄ちゃんはそうってお財布から五千円札を取り出して渡してくれた。
「ハァ~~~イ、どんな飲み物がいいですかぁ?」
「炭酸系ならなんでもいい。あぁ、それと翠ちゃんの好きな物なんでも買って来て良いぞ」
お兄ちゃんから渡されたお金を持って目の前の売店に向かう。そして・・・、
「わぁ~~~~イッ、美味しそうなのがいっぱいあるぅぅぅ、何たべよっかなぁ~~~」
さっきお昼を食べたばかりなのにいっぱい動いたからまだお腹が空いてきちゃった。
遠慮しないで好きなものを注文して、貴斗お兄ちゃんにはスプライトLLサイズを買って戻って行った。
「あぁ、すまん」
ジュースを渡すと疲れている声でそう言ってきた。
そしてそれを飲みながらテーブルの上に置いたトレーを確認して、不思議そうな声を上げる。
「俺、頼んだ覚えないぞ、ソレ」
「ゼェ~~~んぶ、私が食べるんですよぉ~、お兄ちゃんも一緒に食べますぅ~~~?」
陽気な顔でそう答えると貴斗お兄ちゃんは大げさに頭を横に振っていらないって言ってきました。
「翠ちゃん、ソレ一人で食べるのか、いや、一人で食べられるのか?」
「この位〝ぺロット〟平気です!」
お兄ちゃんは不思議そうな表情でそう言ってきたから平然とした顔でそう答えました。
さっそく『頂きますぅ』って言ってからそれらを食べ始めまいした。
貴斗お兄ちゃんはそんなに私の食べっぷりが凄かったのかマジマジと私の事を眺めていた。
〈恥ずかしいですぅ、貴斗お兄ちゃんそんな見詰めちゃ嫌ァ〉
そんな事を心の中で思っていましたけど私の口は動きを止めず、どんどん買った物を平らげて行った。
全部が食べ終わってお口の周りをナプキンでフキフキすると、
「お兄ちゃんっ、ご馳走様でしたぁ」
って言って貴斗お兄ちゃんに感謝して満面の笑みを見せた。
「ヨク、食ったな!」
「だって、折角、買ったんだもん。ちゃんと、食べないと勿体無いでしょ」
〈貴斗お兄ちゃんから買ってもらった物無駄にする訳ないですよぉ〉
「ハハッ、そうだな」
私の言葉にお兄ちゃんは優しい笑顔で笑ってそう返してくれました。
何時からか私は貴斗お兄ちゃんのそんな笑顔が見られる様になった事をとても嬉しく思っていた。
だって始めてお会いした頃は本と表情に乏しかったんだもん。
それから少し休んでから園内で最も人気の有るジェットコースターに乗ってその後はショッピング店をぐるぐる見回って、貴斗お兄ちゃんに甘えて欲しい物を買ってもらっちゃった。
貴斗お兄ちゃんはこんなに優しくしてくれる。
そんな優しい貴斗お兄ちゃんに詩織お姉ちゃんは私なんかより多くの時間を過ごしている。
そんな彼女がとても羨ましく思えた。
そんな事を思いながら、沈む夕陽を貴斗お兄ちゃんの車のボンネットの前に座り、お兄ちゃんと一緒に眺めていた。
「おにぃ~~~チャン。暗くなって来たから、かえロッ!」
「そうだな」
完全に陽が沈んでから貴斗お兄ちゃんにそう呼びかけていた。
お兄ちゃんはそう簡単に答え、車の中に乗り込んだんですよ。
* * *
しばらく貴斗さんの運転する車の中で眠らせてもらいお家に到着した時に起こしてもらいました。そして、今は玄関前にいます。
「お兄ちゃん、今日はとっても楽しかった、有難う」
〈貴斗お兄ちゃん、今日は無理、我侭、言ってごめんなさいでしたぁ〉
「あぁ、それは良かったな、俺も楽しかったよ」
「お兄ちゃん、またデートしてねぇ」
貴斗さんは嬉しそうな顔でそう言ってくれたから次の機会も期待してそう言葉にしたけど、
「否っ!」と言ってあっさりと否定してくれました。
「お兄ちゃん、即答で拒否なんて酷いよぉ」
半泣きでそう言葉にすると貴斗さんは私の頭に手を乗せ優しく撫でてくれた。
初めて彼は私にそうしてくれた。
それがたまらなく嬉しくて・・・、私の中にある貴斗さんへの想いが一層強くなってしまっていた。
家に上がってから今の時間を確認した。
まだ、春香お姉ちゃんのお見舞いに行くのに十分な時間があった。
一日だって、春香お姉ちゃんのお見舞いを忘れたことはなかった。だからそこに行く事にした。
* * *
「へぇ~~~ん、お姉ちゃん、今日、私ねぇ、良い事あったんだぁっ聞いて驚くなかれぇ!お兄ちゃんとデートしちゃった・・・・・・・・・。なぁ~~~んてねぇ、私が一方的に貴斗さんを連れ回しただけだからデートって訳じゃないよ?でも、詩織先輩、今日のこと知ったらどんな風に思うのかな・・・。だって、先輩って貴斗さんのことになると性格が怖いくらいに全然変っちゃうんだもん」
その後は暫く、黙って春香お姉ちゃんの体の掃除をしていた。
貴斗さんの事だけを考えていたら急に気分が昂ぶってしまっていた。
「お姉ちゃん、オネガイだから早く目を覚まして、早く目を覚ましてよ。春香お姉ちゃん目を覚ましてくれないと。私、貴斗さんを想うことで詩織先輩との関係が狂っちゃう、可笑しくなっちゃうかもしれないよぉ。お姉ちゃんが目を覚ましてくれないと。どんどん・・・、どんどん貴斗さんの事を好きになっちゃう、私、押さえられなくなる、この気持ち止められなくなっちゃうよ」
今の正直な気持ちを何も答えてくれない春香お姉ちゃんに訴えていた。
春香お姉ちゃんが目覚めてくれないと詩織さん以上に貴斗さんに甘えてしまいそうで、彼を独り占めにしたい気分に駆られてしまいそうで。
そんな事をしてしまったら、あの人だけじゃなく、尊敬する詩織さんとの関係までもが駄目になってしまうかもしれない。
そんな風にだけはなりたくなかった。
だから、そうなる前に、想いが強くなる前に春香お姉ちゃんには目を覚まして欲しかった。
こんな想いのままずっといるのは辛いよ・・・。
これじゃあの人と同じになっちゃうよ・・・・・・。
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