第三話 初めての大会

 今日は高校生になってからの始めての地方大会。

 陽子部長に渡された特別メニューをサボらないでちゃんとやっていたからそれなりの自信がついちゃっていた。

 緊張しないで上手く実力を発揮できれば結構良い成績を修められるかも知れないなんって思ってみちゃったりなんかしていた。

「翠さん、そろそろ400m自由形の予選が始まりますよ。準備は出来ましたか?」

「ばっちりですぅ」

「涼崎さん、頑張ってくださいね」

「翠ちゃんっ、私達の分まで頑張ってネェ~~~」

「みぃ~ちゃん、ガンバっ!・・・でも、試合中にいつもの癖ださない様にネェ」

「えっとぉ~~~、それは、ですネェ、アハッハハァッ」

「みぃちゃんって大会の予選で・・・」

 笑って誤魔化しちゃおうとしたら弥生が勝手にその私の癖と言うのをご説明しちゃってくれる。

 その癖っていうのは・・・、余り褒められたことじゃないけど、本選まで実力を隠して予選の時は手を抜いちゃう事があるの。

 しかも無意識で。

 中学の時はそれでも勝ち続ける事が出来ちゃっていたけど、流石にねぇ~、高校の大会でその癖が出ちゃうと・・・、アッハッハッハって笑い事じゃないんだよね。

「そうだったんですか。翠さんって面白い特技をお持ちですね」

「涼崎さん、予選でも気を抜いちゃ駄目だからね」

「ハッハァ~~~イッ、頑張ってみまぁ~~~っす」

 その場にいる先輩たちや応援に来てくれた一年の部員達に元気良く返事をして予選控え室へと向かった。




            *   *   *




 自分でも吃驚しちゃったけど今回出場していた三人の先輩たちを差し置いて本選で一着を取っちゃいました。

 予選の時もかなり厳しかったけど決勝戦なんって一位から六位までタッチの差は時間にしてコンマ零幾つってところ。

 高校の世界の実力の程を知らされちゃった。

 全国レベルになればもっと早く泳ぐ子がいると思うとなんだかワクワクしてきちゃう。

 それに、高校に上がる前まではいつか、尊敬する二人の先輩と同じ舞台に立って、勝負出来る事を夢見ていたのに・・・。

「涼崎さん、本選優勝おめでとぉ~~~っ!」

「流石は詩織先輩が太鼓判を押していただけのことはある。翠さん、良く頑張りましたね」

「夏美先輩、陽子部長さん、有難う御座いますっ。・・・、それと二人の先輩とも優勝おめでとうございますですぅ」

「みぃちゃん、すっごぉ~~~、おめでとうね」

 陽子部長、夏美先輩、他の部員たち、それと弥生から祝福の言葉を貰っちゃった。

 今回の聖陵高校の水泳部の成績、女子は陽子部長が個人メドレー、夏美先輩が200mフリース・タイル、そして、私が400m自由形で優勝を修めました。

 男子部員の方はと言うと・・・、凄すぎます。

 全種目優勝で、優勝できなかった先輩たちも殆どが上位に食い込んじゃっていました。

 貴斗さんと詩織さんのお陰で何とか期末テストを乗り越え、今日も必死になって次の部活の大会に向けてトレーニングをしちゃっていました。

 高校生になってからも時間の都合さえ、あえば二人に勉強を教えてもらっちゃっていたの。

 二人とも聖陵の先輩だからテスト対策もばっちりだったから学業より部活の練習に専念する事が出来た。


        ~ 2002年7月29日、月曜日 ~


 当然、夏休みに入ってからも部活があるから学校に登校しちゃっていた。

 勿論、弥生も一緒だったよ。

 将臣の方は練習が午後からみたいだったから夏休みまでまた顔を合わすなって嫌な事はなくて清々しちゃった。

 今は午前中の練習を終了して、弥生と一緒にお昼を食べようとしている所だった。

「みぃ~~~ちゃん、一緒にお昼しよっ」

「うん、そうしよっか・・・、何所で食べようか弥生ちゃん?」

「へっへぇ~~~、最近、いいとこ、見つけちゃったんだぁ、そこで食べよう」

 弥生に連れられて到着した場所は屋内プールの裏にある旧校舎より更に奥の場所だった。

 その場所は三戸の駅近辺が一望できる眺めの良い場所だった。

「みぃちゃん、あそこの大きな木陰、風が吹くと、とっても気持ちいいんだよ」

 弥生はそう口を動かしながら青々とした大樹をさしていた。

 私と弥生は歩みを止めないでその場に辿り着くと既に先客がいちゃいました。

「あらっ、翠さんに弥生さん、お二人ともここでお食事?」

「涼崎さんに結城さんもここにきたんだ」

「ハァ~~~イッ、お邪魔させてもらいまぁ~~~~スッ」

「河野部長さん、桜木先輩ご一緒させてください」

 弥生と私がそう言うと二人の先輩はニッコリと微笑んで手招きをしてくれた。

 どちらの先輩が持ってきたのか分からないけど木の下には大きな茣蓙が綺麗に敷かれちゃっていました。

 二人の先輩はそこに靴を脱いで座っていたから私も弥生も同じようにして座らせてもらうことになった。

「あれっ、弥生ちゃん今日はお弁当作ってきたんだ」

「うん、今日はね、たまたま早く起きれたから作ってみちゃった。みぃちゃん私の作った物食べて見る?」

「良いの弥生ちゃん?」

「だって今までお昼のとき、弥生にみぃちゃんのお弁当のオカズ御裾分けしてくれてたじゃない」

「それは将臣が弥生ちゃんに変なものばっかり買ってくるからだよ」

「なにその変なものって?」

「陽子部長、あれじゃない、購買部の激不味調理パン」

「ははっ、あれですね」

「先輩、良くそれだって分かりましたね」

「この学校で変な食べ物って言ったら購買部で売っている調理パンくらいなもんよ」

「生徒達はそれしか残ってないって分かると学食に移動するから余計に学食の方が込んでしまうのよ」

 陽子部長の話でどうして学食が混雑しているか初めて分かっちゃった。

 それと学生食堂を経営しているのは夏美先輩の親戚ということも知っちゃった。

 先輩の家って駅の近くで大きな喫茶店をやっているのは知っていたけど親戚まで同じ様な事をこの学校でしているなんって吃驚。

 それからはこの学校の面白いお話をその二人の先輩達は聞かせてくれちゃいました。

 だから、陽子部長、夏美先輩と弥生を囲んで楽しくおしゃべりをしながらお昼を取ることが出来たの。




            *   *   *




 午後の練習も終わり弥生と一緒に帰ろうとしているとき・・・、嫌なヤツが忍び寄ってきてくれちゃいました。

「ヨオッ、ちっこいのとおまけの弥生、いま帰りか?」

「みぃちゃん、あんなのほっといて帰りましょ」

「そうね、あんな歩く犯罪者と一緒にいたら警察に捕まっちゃうもんネェ」

「ひっでぇなァ~~~、お兄ちゃんの僕に向かってアンなのはないだろ。それに誰が歩く犯罪者だってチビ」

「弥生ちゃん、無視して行こう」

「お兄ちゃんなんって無視、無視」

 将臣を無視して二人して歩く速度を上げた。

 しかし、弥生の双子の兄も私達と同じように歩くのを早くしてきちゃいました。

「あぁ~~~、僕が悪かったから二人とも無視しないでくれぇ」

 彼はそんなことを言葉にして言うけど私と弥生は無視を続けちゃっている。

 さすがの将臣も少しは参ったのか、謝ってきた。

「マジで悪かったって、二人ともいい加減、僕を無視しないでくれ、なんか奢るからさ」

 そして、私と弥生は将臣の言葉に急に立ち止まって、返事を返してあげる事にしちゃうの。

「エッ、お兄ちゃん何か奢ってくれるの?変なものじゃないよねぇ?」

「へぇ~~~、将臣がそんな事してくれるなんって思ってもみなかった」

 弥生は嬉しそうな顔で、私は悪戯っぽく彼にそう言っちゃっていた。

 美味しい物を食べることは親友との共通の趣味の一つ。

 だから、将臣がそういったから態度を急転して上げちゃったの。

「奢ってやるけど遠慮はしろよ」

「どうしようかなぁ~~~、いつもお兄ちゃん私のこと、苛めるしぃ~」

「アンタの態度しだいねぇ~~~」

 将臣は私達の言葉に余計な事を言うんじゃなかったって感じに顔を引きつらせていた。

 それから、彼がそう口にしたから弥生と一緒に喫茶店トマトへと向かった。

 その場所に到着すると私達より早く学校を出ていた夏美先輩が家の手伝いをしちゃっているようだった。

 先輩は私達が来た事を理解すると混んでいるのにも関わらず優先して席に案内してくれちゃいました。

 席に座って注文したとき将臣の奴に遠慮して上げてケーキセット一つで我慢して上げたけど・・・。

「おっ、オイ、弥生っ!そんなに何皿も甘いもの食べるとぶくぶく太るぞぉ~~~」

「良いもん、太ったらお兄ちゃんの所為にするから」

「アハハァ、弥生ちゃん、なんか凄い責任転嫁の仕方だねぇ」

 彼女の口にしちゃった言葉に苦笑いを浮かべながらそういって返しちゃっていた。

 将臣は苦悩するポーズを取り、大きな溜息をついちゃっていた。

 喫茶店内でお喋りした内容と言えば夏休み前にあった学校のテストのことだった。

 弥生は頭が良いの知っていたからテストの結果が良くても驚くことないけど・・・、将臣、彼だって弥生と同じで成績悪くないって思っちゃったりなんか、したんだけど今回は専門教科で何枚か赤点を取ってしまった見たいね。

 私と弥生は普通科だけど将臣のヤツは確か化学科だったんだっけ?ッてそんな話題を喫茶店内で話していた。


        ~ 2002年8月6日、火曜日 ~


 地方大会で選出された幾つかの地元の学校の生徒達と関東大会に出場しちゃっていた。

 今日ななんと尊敬すべき詩織お姉さまが応援に来てくれていた。

 詩織さんが応援に来てくれたことに夏美先輩も陽子部長も驚いて喜んじゃっていた。

「詩織センパァ~~~イ、応援に来てくれたんですネェ」

 そう声に出しながら観戦席に座っている詩織さんの所に駆け寄っちゃった。

「翠ちゃん、体調は万全かしら?」

「ハイッ、勿論です!詩織先輩の為に優勝、狙っちゃいますよっ!」

 尊敬しちゃっている詩織さんが応援に来てくれたことが嬉しくなっちゃってついそう言ってしまいました。

 その私の言葉で先輩は笑顔を向けながら、ハッパをかけてくれちゃうの。

「嬉しい事を言ってくれますわね、頑張ってください」

「そう言えば、貴斗さんは来てくれないんですか?」

「貴斗君、今日のバイト、外せないから無理だって申しておりました」

「残念ですぅ」

 夏休みだから貴斗さんも一緒だと思ったんだけど、考えは甘かったみたいですねぇ。

 詩織さんが来てくれたからその人も一緒に来ているんだって思っちゃったからとても残念。

 でも、詩織さんはそんな私に気をつかってくれる言葉をかけてくれちゃいました。

「そんなお顔しないでください。貴斗君が、ですね、もし、翠ちゃんが〝優勝したら何かご褒美やる〟と言っていましたわ」

 まだまだ、貴斗さんの性格なんか理解していない私はその詩織さんの言葉が嬉しくて、表情にその気持ちをいっぱい乗せながら

「ホントですかぁ?」

と聞き返しちゃいました。私のその言いに詩織さんも

「エェ、本当ですとも!」

 やさしい笑みで答えてくれちゃったのです。

 だから、私のやる気バロメーターはもうMAXを超えちゃいまして、ビッグ・マウスちゃんになっていたのです。

「先輩見ていてくださいね、ぜぇ~ッたい、優勝して見せますから」

 貴斗さんは来てくれてなくてもちゃんと私を応援してくれているんだって思って、それが嬉しくなっちゃったから詩織さんの前で強気にガッツポーズを見せて上げちゃいました。

 しばらくの間、詩織さんとお喋りをしていると夏美先輩と陽子部長がこの場所へとやってきた。

「あっ、藤宮先輩、お久しぶりです」

「詩織元部長、応援にきてくださって有難う御座います」

「もぉ、陽子ちゃんたらその元部長って言い方、やめてくださいって申したはずですよ」

「先輩が応援に来てくれるとは思いませんでした」

「詩織お姉様は私の為に応援しに来てくれたんですよぉ、羨ましいですかぁ~」

「翠ちゃん、その様なことを口にしたらお二人に失礼ですよ」

「詩織先輩、良いですよ。気にしなくても実際羨ましいって思っているし」

「良いなぁ~~~、涼崎さん。藤宮先輩に期待されているようで」

「翠ちゃんの事もありますけど夏美ちゃんの事も陽子ちゃんの事も忘れてはいませんでしたよ」

「有難う御座います先輩」

「それより香澄先輩は来てくれなかったんですか?」

「あんな人、来なくて良いです」

 誰にも聞かれない様に小さくそう呟いちゃっていた。

 隼瀬香澄、私の水泳の目標だった人。

 その期待を裏切り、そして、春香お姉ちゃんまで裏切った人に応援なんてされたら出せる力も出せなくなっちゃう。

 その人の名前を耳にしてしまったから憂さ晴らしのため破竹の勢いで予選を通過し決勝戦へと出場する事が出来ちゃった。

 今は午後の決勝戦前のお昼休み。詩織さんと一緒にお話をしながら、お昼を摂っちゃっていた。

 陽子部長も夏美先輩も詩織さんとお話したかったと思うんだけど私に気を遣ってくれたのかここにはいないの。

「翠ちゃん、そのお弁当ご自分で作ったのかしら?」

「ハイッ、そうです。先輩ほど上手くないけど」

 広げた包みの中をにこやかな表情で確認しながら詩織さんはそう言ってきた。

 だから私も笑顔でそう答えちゃいました。

「そのような事ないと思いますけど、バランスよく見えますわ」

「先輩には敵わないですぅ、あぁ~一度でいいですから詩織先輩が作ってくれるお弁当食べてみたいなぁ」

 私が作ったお弁当はサンドイッチと細かく刻んだサラダ。

 それとカロリー・メイトを粉々にしてプレーン・ヨーグルトとちょっとしたフルーツ混ぜたデザート。

 どれも直ぐ消化できてエネルギーになる様に作ったつもりだった。

 詩織さんだったらどんな風にこういった大会のとき食事を取るのか興味あったからそう言って見たんだけど・・・、貴斗さんのお惚気のような物を聞かされちゃった。

「フフッ、そうして差し上げたいのは山々ですけど、貴斗君の許可を戴かない事には」

「ハイ、ハイ、ご馳走様ですぅ」

〈ハァ~~~、なんでそこで貴斗さんの事が出てくるかなぁ呆れちゃう〉

「フフッ、ご冗談ですよ、次の機会にでも作って差し上げますわよ」

 呆れた表情を見せると可笑しそうに笑いながらそう言葉にしてきてくれちゃった。

「それじゃっ、全国大会に出られたら私の為に作ってくださいですぅ」

「ハイ、心得ました」

 それからは食事をしながら詩織さんをからかう様に悪戯なことを沢山言っちゃっていた。




            *   *   *




 午後の決勝戦も無事に終わり、今日の大会の結果報告を春香お姉ちゃんに報せたくて病院へと来ちゃっていた。

「春香お姉ちゃんやったよぉ~~~、全国大会、出場、決定しましたぁ。凄いでしょぉ、ヴュイ、ヴュイッ!お姉ちゃん、私の事いっぱい褒めてぇ・・・」

 でも、私のその言葉に春香お姉ちゃんは何も答えてくれなんってしなかった。

 本当は嬉しいはずなのに悲しみがこみ上げてきちゃう。

 そんな気分を吹き飛ばすため陽気になって春香お姉ちゃんの体の掃除と間接ストレッチを始めた。

 もう、今月が終われば春香お姉ちゃんがこうなっちゃってから一年が経っちゃうんだよね。

 本当にどうしてお姉ちゃんは目覚めてくれないんだろう。

 春香お姉ちゃんが知らないうちに色々なことが変って行っちゃうというのに・・・・・・、私のお姉ちゃんは何も知らないで涼しい顔をして眠っちゃっているの。

 春香お姉ちゃんのそんな姿を見ていると辛くなっちゃうから必要なことをやり終えると直ぐにこの場を去っちゃっていた。

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