第二話 聖稜学園、新しいスタートライン

       ~ 2002年4月3日、水曜日 ~


 今日から私も高校一年生。新しい心持で頼れる先輩と尊敬できる先輩達が通っていた聖陵高校の正門を潜り抜ける。

 早起きが得意だったから寝坊して遅刻する事なんてなかった。

 だから、慌ててクラス別けが表示されている掲示板を見る必要もなかった・・・って言うか人が多すぎて合格発表の時と同じように背の低い私にそこに表示されている内容を確認出来なかっただけなんだけど。

 時間もあったし仕様がないからしばらく掲示板に群がっちゃっている新入生が少なくなるのを待っていた。

 それまで何もする事がなかったからねぇ、晴天の空に浮かぶゆっくりと流れる雲を眺めていた。

 そんな事をしていると聞き覚えのある声で私の名前を呼ぶ人が近づいてきた。

「みぃ~~~ちゃん、おはよぉ~~~っ!」

 私の事を〝みぃちゃん〟なんてお子様な愛称で呼ぶその人は唯一人、中学校からずっとクラスが一緒で部活も同じ水泳部だったお友達。

 しかも、私の性格をある程度かな?

 かなりかな?

 知ってくれちゃって、ここに入学する様に仕向けた張本人。結城弥生だった。

「ああぁあ、朝から嫌な友達に会っちゃったよぉ~~~、おはよぉ、弥生ちゃん」

「何ヨッ、その嫌そうな顔は親友に対して失礼じゃないの」

「ゴメンしてネェ、悪気があって顔にでちゃったぁ」

「もぉ~~~、みぃちゃんたら朝から意地悪なこと言うんだから」

 聖陵高校に通うことに決定したのは春香お姉ちゃんや詩織さんの事もあったけど、最初にそれを仕向けられちゃったのはこの弥生だった。

 頭良くて大抵どこの高校を選んでも受験で合格出来たのに私の体育推薦を羨んでいた。そして、その時、弥生がいった言葉は・・・。

『いいなぁ~~~、みぃちゃん、体育推薦で弥生が受けようと思っている聖陵にも簡単に入れちゃうんだからぁ』

とこんな感じで本当に羨ましそうに言ってきちゃって呉れました。

 この時まで聖陵のことなんて、全然頭に入っていなかったけど、その返し言葉は・・・。

『何よ、弥生ちゃん、その私がずるしちゃってるって訴える目はっ!だったら弥生ちゃんと一緒で受験して、どの学校も合格しちゃうんだからぁっ!』

『ほんとぉ~~に?本当に何所でもなの?だったら弥生と同じ聖陵高校に受験しようよっ!』

 そんなんして、現在この学校に入学。

 一度買っちゃった勝負から逃げないのは、私の性格上どうしようもなく、後になってから、やっぱ嫌だって口に出せなかった。

 だから、詩織さんや貴斗さんがいてくれなかったと思っちゃうと・・・、とんでもない博打事を口にしちゃってた訳です。

「ネェ~~~、ところで弥生ちゃんはどこのクラスになったの?」

「ホラッ、掲示板の周りはあれだから弥生もまだ確認出来ていないんだ」

 彼女はそれを言いながらその掲示板の方に目を向けていた。

 そして、更に言葉を続けちゃっている。

「でもね、将臣お兄ちゃんが見に行ってくれてるからもう少し立てば判ると思うの」

 彼女が口にしてくれちゃう将臣っていうのは彼女の双子のお兄さんで・・・・・・、私の天敵!

 ちょっとした間、弥生ちゃんとこれからの事について話しているとその天敵がご登場してくれちゃいました。

「よぉ~~~、チビドリ、お前も来てたのか?って言うか合格できたわけ?クククッ」

「誰がちび翠だっ!馬鹿マサッ!」

「お前以外に誰がいる?クックックッ、それに馬鹿じゃこの学校に入れないぜぇ」

「ホントォーーーっに馬鹿マサって嫌な性格!どっかいちゃえぇっ!」

「もぉ~、お兄ちゃん止めてよ・・・。それより私のクラス確認出来たの?」

「ああ、そうだったな。僕も弥生もE組・・・。弥生が言うからついでお前のクラスも確認して来てやったから有難く聞けよ」

 将臣のヤツはムカつく表情を向けながらその私のクラスってやつを教えてくれた。

「・・・、マジィ・・・・・・、ハァ~~~、最悪、弥生ちゃんと一緒なのは良いけど、なぁ~~~んでぇアンタとも一緒っての・・・、最悪な一年になりそう」

「はっはっはっハァ、翠、一年間たっぷりとからかわしてもらうぜ」

「将臣お兄ちゃん、いい加減にしてよ。みぃちゃんに酷いことしたらもうご飯作って上げないんだから」

「それを言うのは反則だぞ、弥生」

「何が反則なのよっ!!!」

 なぜかそのお二人さんは兄妹喧嘩を始めてくれちゃっていた。

 しばらくちょっとねぇ、それを観戦してから私がその二人を小馬鹿にしてそれを終了させてあげちゃいました、っと。

        ~ 2002年4月5日、金曜日 ~


 聖陵高校の生徒会が主催してくれた部活紹介のあった放課後、既に決定していた部活の部室に向かっていた。

「みぃちゃぁ~ん、まだぁ部室、見えてこないネェ」

「あぁ~~~ン、部室はどこまで歩けばいいのよぉ~~~、この学校、おおき過ぎますぅ~~~」

 私と弥生は愚痴をこぼしながら水泳部の部室がある屋内プール場に移動していた。

 流石は私立高校、部活専用のプールと一般生徒が授業に使うプールが分けられちゃっています。

 その場所に到着してから二人で待たされること三〇分。

 在籍部員と新入部員が集まるとそれぞれ自己紹介を始めていた。

 何でかな弥生以外そこにいる人達ミンナ、私の事を見て驚いちゃってくれていました。

「どうして皆さん、そんなに驚いているんですかぁ~~~?」

「エッ、だって涼崎翠さんって言ったらリトル・ドルフィンの異名を持っている関東圏内でも有数の実力者でしょ?てっきり常双とか桐華に行くんだと思っていたから。エッ、とそれとさっきも紹介したけど家政科二年G組の桜木夏美、涼崎さん宜しくね」

「ネェ、弥生ちゃん、私ってあんな風に呼ばれてたんだ?知ってた?」

「エッ、みぃちゃん自分で知らなかったの?」

〈へぇ~~~、私ってそんな風に呼ばれちゃっていたんだぁ・・・、初めてそんなこと、知っちゃったし、今まで全然気にもとめてなかった〉

 心の中でそんな感じに思ってから、ここへ来た理由の一端、弥生を見てから先輩に教えていた。


「夏美先輩でしたよね。ここに入学した理由は色々と有りますけどぉ~、一つはここの卒業生に私のとっても尊敬できちゃう先輩がいた事ですぅ~~~、それにその先輩は水泳部所属でしたよぉ」

 私の口にした言葉に弥生は苦笑いを浮かべちゃっていた。

 私が言うその先輩とはもちろん詩織さんのこと、香澄さんもそうなんだけど・・・、今は色々と訳があってその人の事を毛嫌いしてしまっている。

 その人は私の水泳選手としての目標だったのにそれを裏切ってくれちゃって今は・・・。

「涼崎さん?どうしちゃったの」

「エッ、いえ、何でもないですよぉ~~~、夏美先輩、気にしないでください」

 何かを考え込んじゃっていた私を見たその先輩はそう聞いてきた。

 だけどその真意を知られたくなんかなかったのでそう言葉を誤魔化して更に口を動かす事を続けてちゃいます。

「えぇ~~~っとですねぇ、私の尊敬する先輩って言うのは藤宮詩織さんって方です」

「藤宮先輩の事?それって元部長じゃない・・・、あっ、そう言えば藤宮先輩、『今年は凄い選手が入部してくるかもしれませんよ』って言っていたけど・・・、それって翠さんの事だったのね」

 そう話しかけてきた別の先輩、現在この女子水泳部の部長さんをしていて、体育科三年F組の河野陽子さんだった。

「翠さんって藤宮先輩とはどんな関係なの?」

「私がスイミングスクールに通っていた時からずっとお世話になっている方です」

「あら、だったら副部長だった香澄先輩ともお知り合いってことよね?」

「はぁ~、そうですけどぉ・・・」

 耳に入れたくない人の名前だったけど、返事をしない訳にはいかなかった。

 だから嫌だったけど夏美さんにそう返事を返していた。

「ハイッ、それじゃ自己紹介も終わりましたから新入部員のミンナにはこの屋内プールの中を案内して、それからその使い方の注意をお話させてもらうわね。他のミンナは各自のトレーニングメニューを始めてください。それでは解散!」

 陽子さんはそう言うと私、弥生と他の新入部員に手招きをして歩き始めちゃった。

 私と弥生を含めて新しく水泳部員になった一年生は二十四人。

 それと二年生十五人、三年生十二人の合計四十一人。

 これは女子部だけの数で男子部員も含めたら90人以上になるんじゃないかって陽子さんは言っちゃってました。

 男の部員は別の場所でオリエンテーションをしているみたいだったからどれだけの人数が入部して来たのか今は判らなかったけど中学の時に比べると全然部員の数が何倍も違うことに驚いちゃっていた。

 なんたって中学の時は弥生と私、三学年女子男子含めて十二人しか居なかったからねぇ。


        ~ 2002年5月13日、月曜日 ~


 弥生ちゃんと一緒に学校へ通う為に立教台駅の改札口で彼女を待ってあげちゃっていた。

 そこについて数分も経たない内に彼女とそのおまけが現れてくれちゃいました。

「ヨッ、チビドリ、おはっ、って何すんだよ!いきなりって言っても翠の蹴りなんて当たらないけどね」

「馬鹿マサが私のことチビなんて言うからでしょっ!!」

「だって事実だろ!」

「お兄ちゃん!もおぉ~~~、朝から騒がないでよぉ~~~・・・、オハヨウみぃちゃん」

「弥生ちゃんオハヨウ・・・、まだ眠そうだね」

「ハゥ~~~、だって弥生、みぃちゃんと違って早起き苦手なんだもん」

「そうそう、コイツは僕が起こさないと何時まで経っても起きねえしなぇ。あっ・・・、それより、さっきの蹴りで見えちまったけど、翠、弥生と一緒でプリパン穿いてんのかと思ったら純白じぇねか。似合わねぇ~~~」

 将臣のやつはそう言っては憎たらしいくらい私を小馬鹿にした顔を見せてくれちゃって・・・。

「むっかつくぅ黙れ、馬鹿マサぁーーーーーーーっ!!」

「将臣お兄ちゃん、なぁんか、嬉しそうな顔して変なこと言わないでよぉ」

 弥生のおまけがどう仕様もないことを言うからドタマにきて其奴に殴りかかったけど空振りするばかりで全然当たってくれなかった。

 将臣の奴を凄いって思いたくないんだけどボクシング、やっているからフットワークは上手かった。

 弥生は弥生で将臣の口走っていたことが恥ずかしかったらしくて涙目になって顔を赤くしちゃっていた。

 こうして毎朝のたびに将臣の顔見て三年間も登校しなくちゃいけないなんって憂鬱ぅ。

 登校中、電車の中で眠そうにしちゃってる弥生と昨日見たバラエティー番組やアニメの話題でお喋りをしちゃっていた。

 将臣はと言うとHDM(ハイ・デジタル・ミュージック)プレイヤーで何かの音楽を聞いていた・・・。多分、クラシック。

 将臣って顔に似合わずジャズやクラシック、それと歌なしロックなんかを聞いてくれちゃうんだったけ?

 それにそれを聞いているとき邪魔すると異様なくらい目つきが怖くなるんだよね。

 だから、学校に到着するまでそんな状態だと私も弥生もとても助かっちゃうんだ。

 だってその間は将臣、一言も喋らないから口げんかすること無いからね。


         ~ 三時間目の後の昼食時 ~


「みぃ~~~ちゃん、一緒にお昼食べヨッ」

「いいよぉ~~~って弥生ちゃん、お昼持ってないじゃない」

「今、将臣お兄ちゃんが購買部に行ってるからもう直ぐ待てば何か買って戻ってくると思うよ」

 弥生ちゃんと将臣はいつも購買部で売っている調理品でお昼を食べちゃっていた。

 学食もあるんだけど混雑し過ぎて二人ともまだ一度も利用していないみたいだった。

 二人しておしゃべりをしながら将臣を待ってあげちゃってると其奴は手にいくつかの調理パンとおにぎりを持って戻ってきた。

「弥生、ほら買ってきたぞぉ~~~、受け取れ」

「ありが・・・、また将臣お兄ちゃん、弥生に変なの買ってきたぁ~グスンッ」

「まともなもん食べたいと思うなら早起きして弁当作ればぁ~、アッとそれと飲み物はこれっ!」

 弥生の馬鹿兄貴はそう意地悪なことを言うと、この学校危険物指定されている三つの飲み物の一つロイヤル・チェリーを彼女に渡しちゃっていた。

 名前はスッごく美味しそうに聞こえちゃうんだけど全然そんなことないの。

 それを飲めば咽ちゃうくらい酸っぱくて全部飲み干すのはかなり辛いですねぇ。

 次はココア・コーヒー・・・、これも美味しそうに聞こえちゃうんだけど美味しいのか、美味しくないのか判定出来ない不可思議な飲み物って水泳部の先輩が教えてくれちゃいました。

 そして、最後に濃縮青汁ミルク。

 名前から、して美味しそうじゃないよね。これを平気で飲める人は凄いと思うよ。はいっ解説終わりぃ。

「おにいちゃぁ~~~ン、酷いよぉ、弥生が酸っぱい物駄目って知っているのにぃ~~~」

「ワリイナ、流石にロイヤルチェリーは冗談だよ。ホラッ、お前の好きなイチゴ・オレ・・・、だ・け・ど・その調理パンはちゃんと食えよ」

 弥生はそんな馬鹿兄貴の仕打ちに半泣き状態に突入しちゃっていた。

「あのさ、将臣、そんなに自分の妹からかって面白い?」

「あぁ、面白いね、こいつからかっていると飽きないから」

「弥生ちゃん、かわいそぉ~~~、何でこんなのが弥生ちゃんの兄貴なんだか?」

「そうだよぉ~、もっと弥生に優しくしてよぉ~~~」

「それはないネェ~~~、だってお前を甘やかすとつけ上がるからなぁ」

「ハァ~~~、これ以上こんな会話してたらお昼食べられそうにないわぁ、サックッとお昼にしましょぉ」

 そう口から出して、二人の些細な兄妹喧嘩に終止符を打って上げちゃいました。

 誰も座っていない窓際の机を向かい合わせにして将臣をホッポリ出して弥生と食事を開始しようとしたけど・・・。

「弥生ちゃん、私のお弁当のオカズそれ程、上手くないけど食べても良いよぉ」

「ありがとう、みぃちゃん・・・、そんな事ないよ、美味しい」

 弥生はそう言って私の作った物を褒めてくれちゃった。

「どれどれ、僕も一つ。弥生より下手くそだと思うけど・・・」

「誰があんた何なんか上げるって言ったのよぉ・・・、っていうかぁ?それになんで女の子同士の昼食なのに将臣がいるわけぇ?シッシッ、あっちにいっちゃぇ」

「そうだよぉ、何でお兄ちゃんが私達といつも一緒にいるのよ、お昼の時くらいほっといてぇ」

「一応、僕って弥生の保護者だからな、変な虫がつかない様にって感じだ」

「そうやって変なときだけお兄ちゃんぶるんだからぁ」

「ホントォ、将臣ってさいてぇ~~~、貴斗お兄ちゃんとは大違い」

「誰だよ、そいつ?」

「あれ、あれっ?みぃちゃんにお兄ちゃんっていたっけ?春香お姉ちゃんのことなら私も知っているけどぉ」

「秘密だよぉ~~~、教えて上げないんだからぁ~~~」

 笑顔でその双子の兄妹にその真相を隠しちゃった。

 でも、食事中将臣のヤツが何度も探りを入れてきたけど上手く回避してその場を何とか逃げ切ることに成功。


        ~ 2002年6月15日、土曜日 ~


 土曜日でも部活の練習があるから学校の屋内プール場に来ちゃっていた。

 勿論、弥生と一緒に・・・、嫌だけど将臣の奴も部活があるらしくて一緒に登校して来ていた。

 一週間の内、あの馬鹿と顔を合わさなくて済むのは日曜日だけなんて酷すぎぃ。

 でも、弥生はアンなのと毎日一緒に生活してんのよネェ。

 ご愁傷様、って感じかな。

「ハァ、ハァ、ハァ、ネェ~~~、みぃちゃんトレーニングメニュー、もう終わったァ?」

「私はまだもう少し残ってるかなぁ」

 息を整えないでロード・ワークから帰ってきた弥生にそう返答してあげた。

 ここの部員全員、何と個別にトレーニングメニューが用意されちゃっているの。

 ここの水泳部に所属した次に日、新人部員は全員、特別な計測器や機械を使って体力測定と身体測定をして、そのデータに基づいて各々のトレーニング種別を決定してくれちゃっていた。

 私はより早く泳げるように体の柔軟性と筋力増強を図るのが中心で、弥生は体力作りと瞬発力の強化が中心だった。

 それで、トレーニングメニューが違っちゃっているから泳ぐとき以外は一緒にいられることがそれ程多くなかった。

 それから、弥生が帰ってきてから十数分してから私も与えられたメニューを終えて、彼女と一緒に水着に着替えてプールへと向かった。

「ネェ、みぃちゃん、泳ぎ、勝負しヨッ」

「何メートルで?」

「みぃちゃん、そんなの決まってるじゃない100m」

「絶対、いやァ~~~、それって弥生ちゃんの得意な距離じゃないぃ」

 今までほとんど彼女にその距離で勝てたことがないんだよね。

 だって私、中距離選手だもん。

 だから短い距離だと、どうしても私の力を発揮できずに終わっちゃう。

「それじゃ、みぃちゃんの得意な400mと弥生の得意な100mの間の200mで勝負しよっ」

「それなら良いよぉ・・・。そうだ、負けた方はジュース奢りって賭けしない」

「うん、それで良いよ、それじゃ三回勝負って事でさっそく始めましょう」

 私達はそう言い合って空いているレーンを使い勝負を始めちゃいました。そして、その結果は?

「やったぁ~~~、二対一でわちしのかちぃーーーっ!」

「グスンッ、背泳ぎなら絶対勝てたのにぃ~~~」

「負け犬の遠吠えぇ~~~、約束ちゃんと守ってネェ~っ、弥生ちゃん」

 彼女は私と違うバック・ストローク100mが得意な子。

 私はフリー・スタイル400m。

 だから、本当の意味での真剣勝負っての出来ないんだけどね。

 それから、それが終わってからは私も弥生ちゃんも与えられているメニューにそって泳ぎの練習をしていた。

 泳ぎの練習が終わった頃、私の所に陽子部長が顔を見せてくれちゃいました。

「翠さん、練習頑張っているようですね」

「ハイ、頑張っちゃっていますぅ・・・って所でどうしたんですかぁ?陽子先輩」

「あのです、再来月にある地方大会に貴女に出て欲しくてお願いに来ました」

「ぇえぇぇ、一年生の私がですか?」

「翠さんの得意種目、400mの自由形でしたよね・・・、あいにく女子部はその400m自由形をやる選手が貴女を含めて五人しかいないの」

 陽子先輩の言葉に私は、謙虚に答えちゃっていたようです。

 だって大抵の場合、初めてのことってどうしてか、自信が持てなんだよねぇ。

 だから、不安げな声で、先輩に答えちゃっていました。

「でっ、でもぉ~~~、私じゃ役不足ですよぉ~~~」

「あらっ、中学大会の記録保持者の言葉ではありませんね」

「たっ、確かにそうですけどぉ・・・、だって、それでもその記録は中学の物で高校では通用しないと思いますぅ」

 陽子部長にいきなりレギュラーに成れって言われちゃったけど本当に自信がなかったから私はそう答えていた。

 でも、最後には部長に頭まで下げられちゃったから断る事が出来なかった。

「陽子先輩、でも顧問の戸城先生に聞かないで勝手にそんなこと決めちゃって良いんですかぁ」

「聖陵では部活の顧問の先生は監督だけで、そういった大会の選手選抜はその部の部長と副部長で決めれるの」

「ふぅ~~~ん、そうなんだぁ」

 そんな話をしてから部長から大会のための私専用のメニューを手渡された・・・。

 そんな物が既に用意されていたなんって陽子部長は端から私を正選手にしてくれちゃう積りだったようです。

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