Guardian
口羽龍
第1話 侵略者
西暦5034年、環境破壊の末、地球は荒廃しきっていた。今からおよそ100年前に世界の覇権を決めるために星戦(せいせん)が行われた。世界中の人々は各国の政府の命令で全員参加の戦争を余儀なくされた。それまで戦争以外で使われていた乗り物は戦争のための兵器に改造された。人々はこの世界を自分の国にしようと思い、他の国と戦った。
50年後、ようやく戦争は終わり、世界は1つの国に統一された。しかし、戦争によって世界経済は崩壊し、地球環境は著しく悪化した。最盛期には100億人いた人口は10万人以下となった。
戦火の中で、多くの動物が絶滅した。北極や南極の氷は溶け、海面の水位は上昇した。海は汚染され、有毒物質が混ざってしまった。そのため、世界中の海は遊泳禁止になってしまった。大地の多くは砂漠となっていた。人々はわずかに残った草原で暮らしていた。しかし、作物はあまり育たず、貧しい生活が続いていた。人々は先の見えない世界の中で、希望を失いながらも何とか生き延びていた。
人々はそんな中でわずかに生き残り、苦しみながらも懸命に生き延びていた。だが、それもいつまで続くのか。誰もが不安になっていた。だが、決して希望は捨てなかった。いつの日か、地球は再び元の姿に戻る。様々な動物が生きる、自然豊かな地球に戻る。その時までは絶滅できない。
工業の発達や戦争の影響で大気汚染が進んだものの、徐々に改善された。ひどい時にはガスマスクが手放せなくなったり、大気汚染が原因で病気になり、死ぬ人も多かった。世界の人口がこれだけ減ったのは、戦争もそうだが、大気汚染も原因だ。
そんな地球の近くを、巨大な宇宙戦艦が飛んでいる。その宇宙戦艦は銀色の車体で、全長は10㎞ぐらいだ。
「隊長、ついに来ましたね」
「あぁ、懐かしいな。10万年前と大陸が変わってるな」
隊長は冷静だ。隊長の名はアルス。獣人団の隊長だ。獣人団は地球制服を企んでいた。しかし、地球の守り神、銀龍王に敗れ、10万年間封印された。封印されている間、彼には征服できなかったむなしさや恨みが蓄積されていた。封印が説かれた今、それを晴らす時が来た。
獣人団は世界を闇に戻そうとする獣人族の精鋭部隊で、彼らは数多くの星を征服してきた。そして、地球も狙っていた。しかし、銀龍王に敗れ、10万年封印された。今度こそ地球を征服して、世界を闇に閉ざそうと目論んでいた。地球さえ征服すれば、世界を闇に閉ざすことができる。誰もがそう思っていた。
「今度こそ、世界を闇に戻してやる!」
アルスは復讐に燃えていた。10万年の恨みを晴らすために、今再びここに来た。必ず地球を征服して世界を闇に閉ざす。
ここは日本という国で、かつて山形だった所。かつて日本は自然が豊かで、人口は1億人を超えていた。各地に交通機関が発達していた。しかし、戦争によって鉄が供出されたことにより、交通機関は全て廃止された。その後の環境破壊で、関東平野や濃尾平野など、都市部は海に沈み、高層ビルや電波塔は全て海中に没した。もはやただの海になっていた。わずかに残った人々は何とか生き延びていた。しかし、それもどれぐらい続くのかと思う人も少なくない。海も大地も荒廃しきっている。どんなに頑張っても元の美しい海には戻らない。
ローズはここで暮らしていた。ローズはアメリカ大陸の生まれだ。しかし、両親を失い、この家に引き取られた。両親が、この人と親交が深かったためだ。両親のことは全く覚えていない。ただ、父の形見だというペンダントだけが父のことを伝える物だった。ローズはそのペンダントを大切にしていた。しかし、誰にも見せたことがなかった。
ローズの家は茅葺き屋根の、いわゆる『日本式』の家だ。日本の田舎ではよく見られた家だ。
ローズは起きた。今日も同じ夢を見た。ここ最近、ペンダントを持った男の夢を見る。おそらく父だと思う。ペンダントを頼む、世界を救え。それが男の言葉だった。ローズはその意味がわからなかった。
「どうしたの? 考え事をして」
ローズは現実に引き戻された。朝食の時に夢のことを考えていた。育ての母、康子(やすこ)はそれを心配していた。
「いや、何でもないよ。考え事をしていただけさ」
ローズは夢のことを話せずにいた。ペンダントのことなど、父の夢のことなど、誰にも言えない。それに、ペンダントなんて誰にも見せられない。
「最近、何か騒がしいわね」
康子は外を見ていた。ここ最近、ずっと大きな轟音が響いていた。宇宙からだが、何かわからなかった。康子はその時知らなかった。それが獣人団の宇宙戦艦船だということを。
「ローズ、農作業してくるわね」
「はーい」
康子は農作業に向かった。この村の人はみんな農業を営んでいた。利益はそんなになく、ただ食いつないでいくぐらいの野菜を作っていた。ずっと昔はもっと利益があり、いい野菜が育った。しかし、環境破壊で、いい野菜が育たなくなり、収穫量が減り、彼らが食べていくだけの野菜でいっぱいいっぱいだった。
突然、轟音とともに巨大な宇宙戦艦がやってきた。獣人団の宇宙戦艦だった。地球の人々は、獣人団のことをほぼ完全に忘れていた。もう10万年も前のことで、文明を開き、国を作る中で、ほぼ完全に忘れていた。
近くにいた人々は驚き、巨大な宇宙戦艦を見ていた。こんな巨大な乗り物を見たことがなかった。
「何だありゃ」
「こんなでっかい船、見たことないよ」
宇宙船の操縦室から、アルスは驚く地球人を見ていた。アルスは笑みを浮かべていた。これから彼らをこき使い、地獄へ落そうとたくらんでいた。
「ふっふっふ、帰ってきたぞ」
アルスは侵略のことを考えていた。彼らが奴隷となり、世界が闇に閉ざされるまで地獄のように働かされることを夢見ていた。
人々が宇宙船の周りに集まってきた。宇宙船を見るのは何千年ぶりだろう。文明が発達していたころは飛行船や宇宙船を見ることができたらしい。実際に見たことはないが、学校の世界史で知った。まさか、まだあったとは。人々は驚いていた。
宇宙船からタラップが出てきた。人々は誰が出てくるんだろうと興味津々に見ていた。ひょっとして、宇宙人?交流しにきたんだろうか? 侵略しにきたんだろうか? 期待と不安が交錯していた。
「な、何だこいつら」
「オオカミか? それとも人間か?」
「うわーっ!」
人々は集まって驚いていた。今まで見たことのない種族だったからだ。
「我々はこの世界を支配する獣人族。愚かな人間どもよ。我々にひれ伏すがよい」
アルスが言うと、次々と兵士が出てきた。兵士は銃を連射し、周りの人間を驚かせた。人間は抵抗することができなかった。長年戦争をやっていなかった。平和な世界の中で過ごしていた。そのため、戦いに慣れていなかった。
「助けてー!」
人間は驚き、逃げ回っていた。しかし、その後ろに回り込んだ兵士に捕まった。泣いている子供もいた。泣いている子供の親はただ見ることしかできなかった。兵士にとらえられ、何もできなかった。
兵士は捕まえた人間の両手をロープで縛りつけていた。人間は抵抗したが、なすすべがなかった。戦う力を失った人間と戦いに慣れている獣人との差は歴然だった。
「もうだめだ」
老人は絶望していた。まだ世界の終わりが来てないのに。
「なんだなんだ」
「なんだありゃ」
その声に反応して、多くの人が集まってきた。彼らに気づき、兵士が捕らえに来た。やってきた人々も抵抗することができずに捕まってしまった。
兵士は人間をみんな捕まえて、宇宙船に乗せた。
捕まえられた人間は、宇宙船の檻にすし詰めのように入れられた。入りたくないと抵抗したが、無理やり入れられた。
「助けて!」
「誰か助けて!」
「もう終わりだ、この世界は」
その頃、ローズは近くの川で釣りをしていた。この辺りはきれいな水が流れている。だが、海に行けば、毒になってしまう。
「なんだなんだ」
物音に気付き、ローズは見に来た。すると、宇宙船がやってきて、村の人を捕まえていた。捕まった人々は手を縛り付けられ、宇宙船に乗せられている。
ローズは怯えた。自分もそうなるんじゃないかと思った。ローズは逃げようと振り向いた。しかしそこには兵士がいた。人影に気づいた兵士が先回りしていた。
「だ、誰だ!」
ローズは叫んだ。しかし、兵士は後ろにもいた。後ろの兵士はローズの両手を握り、ロープで縛りつけた。あっという間にローズは捕まってしまった。
「隊長、こちらにも虫けらが残っておりました!」
「よろしい、牢屋に入れろ!」
兵士はローズを超満員の牢屋にぶち込んだ。ローズは檻を両手で握りながら兵士の様子を見ていた。
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