第八話 大人の仲間入り
~ 2003年1月13日、月曜の成人式の日 ~
やっと今年で私も法律上の一般社会適合者。
今、私は区主催の成人式パーティーに出席するため芸術館ホールと呼ばれる場所に宏之と向かっていた。
私は社会人だったのでいつもスーツを着ていた。だから、今日は久しぶりに振袖を着て出ていたわ。
それ着る私を初めて見た宏之はとても嬉しそうな表情でその姿を褒めてくれた。
当然それを聞かされた私は極上な気分になる事が出来た。
久しぶりにそれを着たもんだから移動中歩きにくかったわ。でも、宏之が腕組してくれたから転ぶ事はなかった。
* * *
それで、今しがた目的地の場所に到着。
宏之と私はいつものメンバーを探すように辺りに目をやっていたわ。
「香澄、あそこにいるの慎治や藤宮さんじゃないのか?」
彼が口にした方向に体を反転させる。そこにいる者達の名前を呼びながら小走りで駆け寄った。
「しおりぃ~~ン、綾ッちぃ~~~、おっはよぉ~~~、それとついでに慎治もねぇ」
「香澄、おはよう御座います、それとその格好でお急ぎしますと転びますわよ」
「何だぁ、俺はついでか隼瀬ぇ?アッと、それと宏之元気そうだな」
「香澄様おはよう御座いますですの」
詩織は私と同じ振袖、綾はなんていうか巫女服みたいな緋袴?でも、妙に似合っている。
慎治は紋付袴に扇子の様な物を持っていた。ついでに言うと宏之は背広。
「まあねぇ、香澄のお陰、自分を取り戻せたよ・・・。それより貴斗のヤツはどうした?」
宏之は手陽射し姿で、辺りを見回していた。
そんな彼の仕草を見ながら、私も言葉を出していた。
「あれっ、そう言えば貴斗の姿、見えないけど来てないの?」
「あらぁ~、おかしいわ、さきほどまで私の隣に居たのですけど、どこへ行ってしまわれたのでしょうか・・・」
「ッたくぅ、アイツも仕様がねぇヤツだな。ここまで露骨に態度とりやがって、・・・、おいっ、隼瀬。最近、貴斗お前に冷たくないか?」
小声で私には声を掛けてきたわ。
慎治が何故そのことを知っていたのか判らないから、驚いて答を返してしまっていた。
「なっ、何で慎治、あんたがそんな事を知ってんのよ!」
「まあぁ、ちょいとばっかし事情があってな。藤宮さん、宏之、それと瀬能さんちょっと席を外してくんないか?アッ、とついでに貴斗のヤツも探して置いてくれ」
慎治がそう言うと三人は散り散りになっていった。
それから彼に貴斗が私を冷たくする理由を聞かされた。
「慎治ィ・・・、それ本当なの」
「あぁ、間違いないヤツのあの堅い口から吐かせた事だ」
「・・・・・・、そうなんだ」
「そう、落ち込むなって。ヤツだってその内お前の事を理解してくれるさ。いつになるかは保障しないけどね。それは貴斗が記憶を取り戻してからかもしれないがな・・・」
貴斗が私に冷たい理由。それは私と宏之の関係にあった。
彼の目に映る私は惨事につけこんだ火事場泥棒。
貴斗には横恋慕に映るみたいだった。
幼馴染みにそんな目で見られるなんって、悲しいくらい心が痛い。
それに、その所為で親友であり、幼馴染でもある詩織。貴斗が彼女を見る目が変わってしまい、二人の関係がまずくなってしまっているのではと思っちゃったけど、そっちの方はそうでもないみたい・・・。
私は無視され、詩織だけは大切にされている。
同じ幼馴染だったのに、今のこの違いになんだか複雑な気分。
そんな気分を顔に出さない様に何とか勤めようとしたけど、慎治には簡単に見破られちゃったわ。
「無理すんなってな、隼瀬。今はお前と宏之の幸せのことだけ考えろよ。さっきも言ったけどさ、いつか貴斗だって分かってくれるさ。知っているんだろ?あいつの性根」
彼のその言葉にため息を小さく吐き、軽く頭を上下に振って答えていた。
最後頭を上げたとき、いつもの明るい表情へと戻していた。それから、暫くして先に宏之と詩織がここへ戻り最後に綾が貴斗を見つけここへ連れ戻してきた。
詩織、恋人を探し当てたのが彼女でなく綾だったのが不満だった様子。
そのせいで詩織は普通の人から分からないだろうけど不機嫌になっていた。
「しおりン、アンタ本当に貴斗に甘えすぎよ。少し自粛しなさい。でないと嫌われちゃうわよ」
彼女の隣に立ち耳元でそう囁いてあげた。
「そんな事・・・・・・、ないもん」
ためらいがちな口調でそう返してきたけど、詩織のその答えは私の思っていた通りの物だった。
ここまで詩織の自我が強いと手の施しようがないわね。
〈ホンと、何が愛は奪うものじゃなくて与えるものだか?全然言葉、通りの行動してないじゃん、アンタ〉と心でそう思いながら幼馴染みを小突いていた。
「いったぁ~~~い、香澄、急に何するのよ!」
「アンタがあんまし甘っちょろい事を言っているから天誅よ、てんちゅぅうっ!しおりン、貴斗の事を想うならあんまし彼に負担、掛けるの褒められた事じゃないと思うわよ」
「アッ・・・、うん有難う、香澄」
彼女に私の意思が通じたみたい。
今は私、貴斗に嫌われている様だけど詩織と彼の関係が崩れて欲しくないから彼女にそう助言していた。
私がそんな風に思うのはエゴって奴なのかな?
そんな風に一人の幼馴染みと話していると宏之と他の男二人は綾の着ているものを食い入るように見ながら談話していた。
「こらっ、宏之、鼻の下伸ばしながら綾を見てんじゃないわよっ!『ゲシッ☆』」
持っている巾着袋で思いっきり彼の後頭部をひっぱたいてやった。
「どわぁっ、いってぇ~~~、香澄、男はスケベで当たり前なんだ。別にこのくらい良いだろ」
「アンタ、よっくもまぁ~~~、そんな事を平気で言えるわね。呆れちゃうわよ、まったくぅ」
「ああ、言えるぜ、隠したって意味ないからな」
「あぁ~~~、ハイ、はい、そうですか、私は寛大だから許してあげるわよ」
「それで殴ったくせに説得力ないぜ、香澄」
宏之は私が持っている物に視線を落としながら苦笑混じりな表情でそんな風に返してきた。
「ニャハハハッ」
私の方は彼の言葉に反省する様子も見せず、猫笑いをしていた。
こんな私と宏之のやり取りを見ていた綾は静かに〝クスクス〟笑い、慎治は面白いモノでも見ているかの様に〝ゲラゲラ〟と笑っていた。
詩織はと言うと私の事なんか無視して貴斗の背中にベッタリとくっ付いて何か話しかけている様だった。
羽織の袖に両手を隠す様に入れている仕草で貴斗はそれを聞いていてたまに何かに頷いている。
私達が好き勝ってやっているといつの間にか舞台の上に立っていた区長や来賓の祝辞も終わり昼食会になっていた。
その昼食会の間、宏之は嬉しい事を言ってくれたわ。
『パク、パク、モグ、モグ、ウッグゥ、ゴクンッ』
「まぁまぁ、美味しいけど香澄が俺に作ってくれる物に比べたらたいした事ないぜ」
「宏之、ホントにそう思ってくれてんの?」
「こんなこと嘘言ってどうするんだ?香澄、知らなかったか?俺、お世辞とか言葉にするの嫌いなんだぜ」
宏之が私に言ってくれたその言葉に、こんな所で意地を張っても意味がないとおもったから素直に、
「嬉しいぃ~~~、これからはもっと頑張って料理するわね」と笑顔で答えていた。
「ああ、期待してるぜっ!」
「しおりンなんかに負けてらんないわねっ!」
「何だ?そんなに息巻いて、そんなに藤宮さんの料理って凄いのか?」
「味で言ったら五つ星よ!作るレパートリーだって和洋折衷何でも御座れ、ってな感じ・・・、でもね、今はしおりン凄いけど昔は酷かったのよ?」
女の子は生理や日々の体の調子で、舌の感覚が均一に保てないの。だから、いつも同じに作っているつもりでも、鋭敏な舌を持つ人には味の違いが判ってしまうらしいわ。
料理人に男の人が多いのは病気以外で味覚の変化がないからだって、翔子お姉さんが教えてくれたことが有る・・・。でも、詩織は違った・・・、あの事件が起きてから。
女の子で有る以上、詩織にだって生理は有るし、日々の体調の変化で味覚が変わるのは他の女の子と変わらないけど、弛まない努力とアイツへの想いで才能以上の腕を見につけたの。だから、生まれた時から、色々なことで張り合っている詩織に、誰かを好きになる想いでは負けなくなかった・・・。
「何でも出来そうな藤宮さんを見ているとなんか想像つかねぇな」
「まぁ、そこら辺は恋する乙女はなんとかって奴よ。あんな風に見えても、あの子だって昔からなんだって出来たわけじゃないんだよ」
「ふぅ~~~ン。貴斗、ヤツの為に努力したって事か」
「そう言う事、だから私もしおりンには負けていられないの」
「だったら俺の為に頑張ってくれよ、期待してるからさ」
「ばっちり期待していてね」
こんな感じに誰にも邪魔されないで宏之とパーティーを楽しんでいた。
後から聞いた事なんだけど詩織も貴斗から宏之と同じように彼女の作る料理を褒められていて、もっと頑張る、ってな事を言っていた。
〈それ以上頑張られたら私なんか太刀打ち出来ないわよ。まったく少しは手加減せぇ〉とそう心の中で舌打ちをした。
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