第3話 アップルパイ

このスライムの応用可能性はいかほどなのだろうか。


そういえば賢者の知恵を継承しているのだから、さっそくスライムに関する項目を開いてみよう。

俺がスライムに関する知識を思い出そうとすると脳内に情報がスッと現れる。


なるほど、スライムはどうやらかなり有望な研究対象になりそうだ。

ばらばらの研究はあるが体系的な研究はまだまだのようだ。

ただし、スライム自体は非常に種類が多くその理由は多様な進化経路を持つからのようだ。それこそ、与えるえさによって進化を方向付けることは可能なようだから、長年やりたかったスライム研究を存分に楽しむことができるぞ。


俺はにやにやしながらスライムを見つめていた。

もう一度頬ですりすりしようとしたところでアップルパイと紅茶を盆にのせてミユが持ってきてくれたのでひとまずお預けだ。


「ヨウイチロウ様アップルパイと紅茶をお持ちしました。」

「ありがとう、おいしそうだね。じゃあ、スライムはとりあえずこっちに置いておいて、さっそくいただこう。そうだ、ミユも一緒に食べないかい?ちょっと話し相手が欲しいんだ」

「ではお言葉に甘えて、私も一緒にいただきますわ。」

「では、いただきます。うん、これはおいしい。甘さと酸味、シナモンの香りが絶秒だね。」

「ありがとうございます。お口にあったようで幸いです。」


「材料はどうやってそろえているんだい?」

「食材は地下2階で手に入ります。2階は非常に広い食糧生産区画になっておりまして、農園や製粉所などがあります。魔法による全自動収穫システムが構築してあって小麦などの生産・収穫・製粉は自動でなされるようになっています。」


「それは、すごいね。賢者の知恵を継承したとはいえ、まだこういう知識をすらすら呼び起こすのが大変だからつまらないことを尋ねることがあると思うが、今みたいに答えてくれると嬉しいのでこれからもよろしく頼むよ。」

「かしこまりました。」


「ところで屋敷のスライムはこの子だけかな?他にはいないのかな?」

「ほかにはごみ処理用のスカベンジャースライムがいるくらいですかね。先代様もスライム研究にはそれほど熱心ではいらっしゃらなかったですから。」


「そうか、ということはさっそくスライム研究室を作らねばならないな。地下にあいている研究室はあるかな?」

「はい、いくつかございます。」


「では、これを食べ終わったら案内してもらえるかな?早くスライム研究を始めたくてうずうずしてしまうよ。」

「ヨウイチロウ様はスライムがよほどお好きなのですね。でも、今は私のアップルパイを味わってくださいね。」

「そうだね、今はこのアップルパイに集中することにしよう。」

とは言ったものの、床に転がっているスライムのことが気になる。

そう、早く、早くスライム研究を始めねば!

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