第15話 少年たちのように-15
「ユキ、それってエンコーじゃないの?」涼子
「それが、どうしたのよ。昨日、あざみだって、イズミだってやってたわよ」ユキ
「ホント?」涼子
涼子の驚いた顔にあざみは怯んだ。
「ち、違うわ。昨日は、テレクラに電話しただけだよ」あざみ
「リョーコ、そんなことくらいみんなやってるわよ」イズミ
「そんなことって、エンコー?イズミも、やってるの」涼子
「バカな男相手してると面白いもん」イズミ
「なによ、リョーコ。セッキョーする気?ごめんよ。あんただって、ホントは欲しいんでしょ、お金。バッグもネックレスも」ユキ
「相手は、リーマン?」涼子
「たいしたことないよ。ちょっと、話し相手して、カラオケ行って、食事して、それだけでお小遣いくれるだけなんだから。男なんてバカなもんよ」ユキ
「でも、あたしは、電話して、ちょっとだけ話しただけだよ。そんな、後はなんにも…」あざみ
きっとユキを睨む涼子にあざみは取り繕うように言った。
「あざみ、ケッコー、楽しんで話してたじゃない」ユキ
「ユキ、そんな…」あざみ
あざみは慌てふためいてもう言葉も出なかった。
「ユキ、ただのテレクラのカレシが、プラダなんてくれるの?」涼子
そんなあざみに気を向けることもなく続けられた涼子の詰問にユキはたじろきながら答えた。
「リョーコは、欲しくないの」ユキ
「そんなこと、訊いてるんじゃないわ。誰、どんなヤツなの?」涼子
「リョーコも欲しいんじゃないの?だったら、紹介してあげてもいいわよ」ユキ
「ウリ?」涼子
一瞬沈黙が襲った。全員の視線がユキに集まった。ユキは口ごもりながら、意を決したように言った。
「そうよ。それが、どうしたの。悪い?」ユキ
潮が引くようにユキの周りの空気が虚ろになった。
「ユキ、バカなマネやめな」涼子
「なに言ってるのよ。たいしたことじゃないよ。ちょっとガマンしてればいいだけじゃない。バカね、リョーコ」ユキ
「なんで、ガマンなんてしなきゃいけないの」涼子
「え?」ユキ
「ガマンしなきゃいけないんなら、ガッコも一緒じゃない」涼子
「バ、バカじゃない。ガッコでガマンしてて、お金貰えるの?プラダも貰えないのよ。全然違うわ」ユキ
「アタシにはそんなガマンなんてできない。やりたくないことなんてやりたくない。エンコーなんて、そんなバカなことはやらない。アタシは、アタシが楽しいと思うことしかやりたくない」涼子
一瞬の沈黙の後、ユキは憎々しげに涼子に言った。
「あんた、バカじゃないの。お金が貰えりゃ、こんないいことになるのに」ユキ
「アタシは、いいとは思わない」涼子
「お金よ、ブランドよ。親だって買えないわ。それが貰えるのよ」ユキ
「それがどうしたの。そんなもの、どうでもいいわ」涼子
「それ以外に、なにか、いいものでもあるって言うの?」ユキ
「アタシには、わからない。だけど、少なくとも、お金以外に価値のあるものをわかってる、そういう人をアタシは知ってる」涼子
「そんなの、嘘よ」ユキ
「嘘じゃないわ。ホントよ。それは、男よ。あんたが、バカだって言い切った。そういう連中の方が、ユキよりカッコいいよ」涼子
涼子はくるりと背を向け、
「じゃあね」と言いながら後ろ向きに手を振ってその場を立ち去った。ユキの罵声は、涼子の耳に入らなかった。涼子は、ひとり、家までの道を歩いた。
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