第10話 少年たちのように-10

 辛うじてホームルームに間に合ったあざみが見たのは、机にうつ伏せになっている涼子の姿だった。あざみは重い身体を引きずって涼子に近づいた。

「おはよ。リョーコ、元気?」あざみ

その声を聞いて、ぴくりと反応した涼子だったが、すぐには返事がなかった。どうしたのかと思って見ていると、首だけ回転させて涼子はあざみを認めた。

「あ、おはよ」涼子

あざみは、ほっとして、涼子に話し掛けた。

「どうしたの、リョーコ?」あざみ

「どうしたのって、あざみ、ダルくない?」涼子

「ダルイわよ。やっと、間に合った、ってカンジ。こんなにガッコが遠いなんて感じたことなかったわ」あざみ

「アタシも、さっき、来たとこ。疲れた……」涼子

「でも、よかったよね、ライブ」あざみ

「うん…」涼子

 涼子は力なく応えた。確かに昨日の流のライブは楽しかった。ついこの間まで一緒に遊び歩いていたとは思えない流の雄姿だった。以前から、パーティで見掛けても、割合クールに付き合っていた印象があったが、昨夜の流はすでに大人の雰囲気を醸し出していた。プロのミュージシャンかと思うような雰囲気で、ソロの演奏を始めたのだった。涼子も、いつになく興奮して絶叫していた。完全に流の演奏に没入していた。そして、流の出番が終わると興奮を抱いたまま、帰宅へのバスに駆け込んだ。夜遅い静かなバスの中で、三人は興奮を抑えきれずに喋り続け、バスを降りてからも興奮は冷めず、帰宅してもずっと流の雄姿が輝いていた。

「あたし、昨日、眠れなかったんだ」あざみ

「アタシも」涼子

 二人は互いの顔を見合わせながら、ふふ、と笑った。そのあざみの笑顔に、涼子はいつになく満足していた。


 騒がしい昼休みの教室の中を、走り回る少年たちの間で涼子は机に伏したまま寝ていた。今日はほとんどの授業を眠りこけてしまったが、まだ、眠り足りなかった。ずっと頭にもやがかかったような感じだった。さらに四時間目に体育があったせいで、弁当を食べるとまた眠気が襲ってきた。そしてそのまま伏してしまった。

 ばたばたと駆け回る男子の一人が涼子の机にぶつかった。涼子は顔を上げると、ぐっとにらんだ、つもりだったが、対象の男子はもうその場にはいなかった。涼子はまた伏して眠った。

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