終 話 新しき世界 Invitation For The New World
今、貴斗のマンションに隼瀬と共に来ていた。
完全に酔いを醒まさせるために歩いてここまで来ていた。だからここまで来るのに結構な時間が掛かった。
俺も隼瀬に呼び出される前までチョックラ大学のダチと飲んでいたからな。
俺って酒を飲む時は必ず車とは違う交通手段を使っている・・・、話がそれた。
貴斗の家の扉に手を掛けると鍵はあいていた。
ヤツが言っていた通り中には藤宮がいた。
「しっ、しおりん?」
「チぃッ、やっぱ藤宮。やっぱ来てたんだな」
「どうして、二人が」
まだ完全に酔いが醒めていないのだろう、藤宮はそう言ってから隼瀬と俺を中に通してくれ更に気が利いている彼女は水をくれた。
彼女の気遣いが今は痛く感じる。だって、そうだろう?貴斗の頼みとは言え・・・。
それを飲み干してから藤宮に言葉をかける。
「サンキューっ、藤宮」
「しおりンっ、さんくちゅぅ~~~っ!」
隼瀬はしゃべりながら、藤宮に抱きつき、幼馴染の頬と自分のそれをじゃれる様に摺り合わせながら、最後に悪戯っぽく、頬に、キスをしていた。
「もぉ、香澄ったら、まだ酔いがお醒めていませんようですね・・・」
優しく、肩を撫で隼瀬に語り掛ける藤宮。
ハァ~~~・・・こんな気の利いた藤宮を追い返すのは辛いが、男と男の約束は守らにゃならん。
「藤宮、黙って聞け」
「ハイっ、どのようなご用件でしょうか?」
「今すぐ帰れっ!」
「どうして、その様な事を八神君に命令されないといけないのですか?貴斗が帰ってくるまでお待ちします」
冷静に、しかも強情に藤宮はそれに返してきた。
「駄目だっ。さっさと帰るんだ、藤宮っ!」
「お嫌ですっ!」
言った事を聞いてくれない様だ・・・。しかも涙目になりやがった。
貴斗はこの彼女の涙にだまされどれだけ心を痛めたのだろうか・・・・・・。でも、やっぱ女の、この涙は嘘でも堪えるよ。
あんな表情されちまったらな。だが、それにも耐え、損な役回りだと思い、分かっていつつ言葉を藤宮に言い渡す。
「チぃッ、貴斗のやつ、その涙に何回だまされたんだろうな。なぁ、藤宮?だが、俺は騙せないぜ。嘘泣きしても駄目だ。ここから今すぐ帰れ!これは貴斗から命令されたことなんだ」
「どうして?どうして貴斗がその様な事を言うのですか?」
「さぁ~~~なぁっ、俺も今、ヤツが何を考えてんのかさっぱりわかんねぇ」
正直に今の気持ちを彼女に伝えてやった。だが、ここへヤツが帰ってきたらそれを聞き出してやる・・・。覚悟しておけ、貴斗。
「でも、頼むヨ藤宮。帰って呉れ・・・こんな事いいたくねぇけど。藤宮、本当に貴斗の事、信じてンなら、大切に思ってんなら・・・この場は俺に免じて帰ってくれ。なぁっ、マジで頼むよ」
「お分かりしました。そこまで八神君が言うのでしたら・・・、帰ります」
「わりぃな、藤宮」
「最後に一つお聞かせくれないでしょうか?」
「なにをだ?」
「貴斗、私のこと何かお言いになっていませんでしたか?」
「いや、特に何も、藤宮が居たら帰ってもらえと、しか」
貴斗は追い返せと言っていた。まるで藤宮を拒絶するかのように。でも、そんな事を言える訳ない。だから、それを悟られない様に冷静に言った積りだった。
それを聞いた彼女は表現できないくらいの切なげな顔をしてここを去ろうとした。
もう深夜だ、帰り道で何か危険な目にあったら大変だと思い、ここから直接帰す事の出来る手段を藤宮にいってやる。
「もう時間も遅い、危険だからタクシーで帰れよ」
そう言ってからタクシー会社に連絡を入れここまで来てもらう。
その間、隼瀬も、藤宮も、そして、俺も一言も喋らなかった。重い沈黙が辺りを包んでいた。
タクシーが来ると料金前払いで俺が全額払ってやった。
藤宮の所までの大体の値段は知っているからな。
多めに払っていたから心配ないだろう。
「八神君、その様にしていただいて申し訳に御座いません」
「藤宮を追い返してしまうからな、せめてもの、その償いとして・・・」
そう口にしてからドライヴァーに発進する様にお願いした・・・。
今は俺が前払いしてやったけどきっちりその料金は貴斗から請求してやる・・・。事はない。
藤宮を送ってから貴斗の部屋に戻った時、酔いも完全に醒めて冷静に物事を考えられる様に成ってから不意に怪我人であるはずのヤツのことが酷く心配になった。
ヤツの戻りが遅すぎる。
言い知れない不安を感じてしまった俺はヤツの所へ急ぎ戻ろうと閉めかけた扉を再び開け、玄関を飛び出そうとした。
「何処へいく積もりだ?俺はここで待って置けと言ったはずだが?」
「なに、強がってんだよ、大丈夫なのか?」
少なからず創痍になって帰ってきた貴斗に向かってそう言葉にしていた。
「大丈夫だ、死にはしない」
「テメェ、笑えネェ・・・、笑えねぇっ冗談、言ってんじゃネェよっ!一度死んだくせにぃっ」
そう罵ってやるとヤツの胸倉を掴み涙していた。
今まで色々な心配をしていたからつい、コイツの前で、野郎の前で、涙しちまったよ、情けねえぇ。
「若しかして慎治、泣いているのか?俺の為に・・・」
「ウッセェ、そんな事、聞くな。この碌でなしの女甲斐性なしがっ!」
「ハハッ、酷い言われ様だ、俺!・・・ところで詩織は?」
藤宮の事を聞かれたから嫌味たっぷりにいって答えて聞かせてやる。
「お前の頼みだからすっげぇ~~~いやだったけど藤宮、彼女は帰らせた。ハァーーーーーっ、あん時の藤宮の顔、思い出すだけで心が痛くなる」
「心配、要らない。詩織の気持ち・・・・・・・・・・・・・・応えるつもりだから」
〈なぁっ、何ぃーーーッ、今何って言ったんだ?藤宮の気持ちに応えるだって?〉
「何だぁ?その言い方、少し可笑しいぞ。まあいいや、お前と藤宮が元の鞘に納まるなら」
心の中で驚き酷く動揺を見せたが言葉では冷静に返した積りだった。
聞きたい事が山ほどあった。
何から聞き出そうか考え始めたときヤツの方から言葉を出してきた。
「慎治、香澄と話したい。彼女を呼んできてくれ」
ヤツは俺と話す事より隼瀬と会話を交える事を選びやがった。 しかし、今は従ってやる。それが終われば・・・覚悟しろ、貴斗。
隼瀬を呼びに行こうとすると心配になったんだろか?彼女の方から玄関まで現れた。するとヤツは『部屋の中で待て』と俺に言って彼女を連れてどこかへ行こうとした。だが、それを聞き入れはしなかった。貴斗のヤツに分からない様に尾行してやったのさ。
ヤツを追って来たらマンションの屋上に出ていた。
二人の会話を気付かれない様に聞いていた。
全部が全部聞えた訳じゃない。
完全に記憶喪失から立ち直ってもヤツは涼崎の事故を自分のせいだと言っていた事。
隼瀬は俺以上に貴斗の事を理解していた様だった。
やっぱりトータル的に付き合いの長い彼女の方が俺なんかより、藤宮なんかよりも、ヤツの事を分かっていた様だった。
貴斗の事を一番理解できていたと思っていたのに、その気持ちが隼瀬に負けて・・・、親友としての敗北みたいなものを感じちまった。だが、藤宮と隼瀬、同じ貴斗の幼馴染みなのに何故、あそこまでヤツの心の理解度に違いが出てきてしまったのであろうか?まったく、人間関係って難しいよな・・・。
それと・・・・・・。
やばっ、会話が終わりを告げたようだ。
こちらに向かってくる。
早く戻って平然としていなければ。
貴斗達より、早く部屋に戻ってきた俺は演技でボーっとして何にも考えていない面をしていた。
「慎治、待たせたな・・・。もう遅い。香澄、家に帰らず奥の部屋で寝ろ。俺はまだこいつと話しがある」
「・・・分かったわ、お休み二人とも・・・」
隼瀬が奥の部屋に行って、それを確認してからヤツの方から言葉を俺に向けてきた。
「・・・慎治、俺と香澄の話し聞いていただろう?」
「バッ、馬鹿言うな、俺がそんなことするはずないだろう?」
「香澄との会話中何か他の気配を感じたのは俺の気のせいだったようだな」
貴斗は冷静で淡々とそう口にしてきた。
かなり後ろめたい気分になってしまう。
「あぁああぁぁっ、きいた、聞きましたぁ~、聴かせて頂きましたよ。悪かったよ。だから、そんな蔑むような顔するな」
「流石は慎治、俺の事を判ってくれているようだ・・・。聞きたい事あるんだろ俺に?・・・、俺の過去を知っているお前なら全部、話してやる・・・、・・・、・・・。他の誰にも話してない事を」
貴斗のその言葉に一つずつ、質問して行く。そして、ヤツは淡々と語ってくれた。
淡々と語るのはたぶん感情を無理に押し殺している所為だと勝手に想像した。
ヤツの健康状態。かなり深刻な様だった。生きているのが不思議なくらいだと教えてくれた。いつ死ぬのかも分からないと・・・。それを知っているのはヤツの主治医、宏之と俺だけ。
他のやつ等には絶対口にするなと命令された。特に藤宮にはと。
それを守らなければ一緒に地獄行き片道切符の旅に出ようか、と脅された。
冷静なヤツに俺も動揺を隠し、聞き続ける。
宏之や隼瀬、涼崎の事は屋上の会話である程度、理解したから殊更に聞く必要ない。
藤宮のことも彼女の気持ちに応える、ってのを既に耳にしている。
「これから貴斗オマエはどうするんだ?」
「慎治、俺のやろうとしている事さっきも教えただろ?黙認しろっ!」
「しゃぁねぇなぁ~~~、オマエがそうしたインナラ、そうしろよ。たぶん結果は良い方に出るだろうな。だから、俺は信じてやるよ。なんたって俺は慎治だからな」
貴斗は藤宮、涼崎、宏之を呼び出してそれらの関係にすべて蹴りをつけるそうだ。
隼瀬も宏之の事を諦めるのを知った。だから、後はその四人しだいだろう。
俺が出来るのは結果が良い方に出ると信じるだけだな。
大抵の事は聞きつくした。貴斗の過去をほじくりたくなかったけど確かめてみたい事が一つ。
「貴斗、シフォニー、ってどういう女の人だったんだ?それの所為で記憶喪失の時のお前が藤宮に対して一線置いていたんだろう?ククッ、だから、エッチしたくなかったんだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
声は出さなかったがコイツは本当の驚いた顔を見せてくれた。
今まで一度も見たことがないくらい・・・、面白い。
「答えてくないんだな・・・・・・、だったら良い、もうここまでにしよう」
「わかった・・・、慎治にだけは言って置く。その代わり何かあったとき手助けしろ」
「俺の出来る事ならな」
貴斗は再び、淡々と感情を押し殺しながら、辛そうな表情で語ってくれる。
聞いている俺も辛くなって来るくらいにな・・・。
辛い・・・、辛すぎる。聞くべきではなかった。
さっきコイツを笑っちまった事が悔やまれる。
その時、同時に今コイツがどう藤宮を想っているのかも聞かせてもらった。
心底藤宮は貴斗に大切にされているんだ、ってのも知った。
最後まで言い切ったコイツは部屋の中をうろつき何かを持って俺の所へ再び、帰って来た。そして、一枚の写真を見せてくれた。
「おぉおおぉおぉおぉおっ、おい、これどう見ても藤宮だぞっ!」
「バッ、馬鹿声がでかい香澄が起きる!」
「あぅ、あぁ~っ、わりいな」
コイツが見せてくれたシフォニーって女の子の写真。今の藤宮と瓜二つ?そっくりさん?いや違う遺伝子操作を受けたクローンの様だった。
何でそう思うかって?美しく透き通るようで白銀な髪の色と青く澄んだ日本人では持ちえない瞳の色、そして、年齢が違う以外どこを見ても今の藤宮、彼女その物だった。
ヤツの記憶によると身長は百七十を少し超えた位、体重は身長分が増えた程度で、スリーサイズのほとんど相違ないって事らしい。
でっ、でもこれは・・・、何って言葉にしていいか分からない。
人の世界の奇妙さと言うのを感じた。否むしろ何らかの作為と疑ってもおかしくない話だった。
「貴斗、オマエの気持ちは十分理解した。だが、隼瀬が言っていた様に一人で悩むな。自虐的になるな。自己犠牲になるな・・・そして、この俺様に頼れっ!」
「ああ、わかった慎治、お前を頼りにさせてもらう・・・。だから、約束させられたが、香澄のこと・・・・・・、俺じゃ何もしてやれない。だから・・・・・・・・・、も頼んだぞ」
「俺が隼瀬のこと好きだって知っていたのか?」
「気付かない方が可笑しい。慎治がその事で無理していたのは知っていた」
「ハァ、そっか。だけど、隼瀬はオマエに頼んだんだ。その彼女にオマエ自身が気持ち、汲んでやんなきゃなぁ~~~~俺も手助けは出来ないな」
「努力する」
「ぷっ、それしかいえないのかよ、オマエは・・・、かわらねぇなぁ~~~っ!」
それから、二人して笑っちまった。
なんだか、そんなヤツを見ていたら眠気がさしてきやがった。そして、そのまま俺は眠っちまった様だ。
翌日、隼瀬と一緒に貴斗に家まで送ってもらっていた。
先に彼女の所へ向かい、次に俺。
隼瀬の家に着いた時、彼女を下ろした瞬間、挨拶を交わす事無く、ヤツは直ぐに車を走らせていた。
家が隼瀬の隣の藤宮、ひょっこり現れて彼女に見付かるのを恐れてだろう。
多分、まだ面と向かって藤宮と話す勇気、心の整理が出来ていないんだろうな、貴斗は、とそう思った。
俺の家に着いた時、帰り際、ヤツの身体と藤宮の事を心配して言葉をかけてやった。
「藤宮の為にも無理をするなよな。体大事にしろよ」
「フッ、慎治に言われなくとも分かっている」
貴斗は鼻で笑い返して、そう言って来た。その後、俺が軽く手を振るとヤツは車を発進させ帰ってゆく。
それから数ヶ月、俺は貴斗と一緒に献身的に隼瀬を支え続けた。
自分自身にも心の整理をつけやっとの事で隼瀬に告白する事に決めた。
今、仕事帰りの隼瀬と一緒に歩いている。
「隼瀬・・・、俺と正式に付き合ってくれ・・・・・・・・・、ないか?」
「またまた、ごじょうだんをぉ~~~。・・・あっ、若しかして?四月バカ、ってアタシの事からカッテンデショぉーーーっ!・・・・・・慎治、本当にアタシでいいの?アタシ、はねっかえりヨ?擦れてもいるわよ。負けん気、意地っ張りよ・・・。それに・・・・・・、それに・・・・・・」
「それ以上いうな、しってるよ!そんなこたぁ」
「何か酷い返し方ぁ~~~」
「それ以上に俺は隼瀬が女らしい処を、すっげえぇ良い女だって事を知ってもいる」
「あっ」
隼瀬の頬が上気しているのが目でも分かる。
情に脆いくせにいつも強がっている隼瀬。
人一倍女心を持っているくせに、普段はそれを見せようとしない反発的なところ。
そんな隼瀬の、彼女のそのすべてが好きだ。
愛しい。
愛している。
俺はそんな彼女を強く抱き締めていた。
「こんなアタシでも受け入れてくれるのね」
「アァ、当然だ!」
抱きながら少し距離を取り彼女を見詰める。
隼瀬も俺を見詰めてくれていた。
瞳を閉じた彼女の唇を覆うようにキスを優しくそして強く彼女のすべてを求めるよう。
今日初めて俺は本当の気持ちが通じ合ったキスを交わす。
その後場所を移し流れに乗る様に彼女のすべてを受け入れ、また彼女も俺のすべてお受け入れてくれた。
貴斗の甲斐性なしはプラトニックな付き合いだなんて青く陳腐な言葉を言っていた。だが、俺は人間だ。
心も体もすべて受け入れたい。
これが正直な気持ちだ。そして、今、彼女に愛を注ぎ込んでいる所・・・。
* * *
すべての事が解決してから既に五年の歳月が流れていた。
「香澄ぃ~、ただいまぁ~~~っ!」
「シンちゃんお帰りぃなさぁぁ~~~いっ」
「その呼び方、止めてくれないのか」
そんな風に呼ばれると、何だか母さんに呼ばれているようでコソバユイ・・・。
「ダぁ・メぇ・ヨっ。だってアタシこの呼び方以外したくないもんね」
「ヘイ、ヘイ、分かりました。アッ、それとやっと決まったぜ」
「えっ、本当にシンちゃん?」
「本当だっ!」
「オメデトォ~~~」
「有難う、だけど、香澄お前はどうする?」
「なぁ~~~に言ってんのシンちゃん?一緒に着いて行くに決まってんでしょっ」
「大学は?貴斗達とは暫くあえなくなるが、其れでもいいだな?」
「うん、平気よ。今は院生だから、勉強は日本に居なくたって出来るし、淋しくなったら、皆に来てもらうもん」
「ってっ、おいっ!逆だろう、逆。俺達が奴等のところへ戻ってくるだろう?」
「にゃはぁっ」
海外人事が決まった、栄転ってヤツ。
初めての事だから色々と心配あるだろうけど何とかやってみせる。
今の俺には香澄がいるどんな事だってやっていけるさ。今、彼女と同棲していた。まだ、籍は入れていない。
えっ、どうしてかって?それはコイツの幼馴染みと合同結婚式をしてから入れたいと言っているからだ。
先方の方は大忙しで何かと都合がつかず延々とその予定が先延ばしされてしまっていると藤宮から連絡を受けていた。
現在、貴斗はヤツの祖父の事業を任され、それに勤しんでいる。そして、恋人の藤宮はヤツをサポートする有能な秘書を努めていると言っていた。
俺は貴斗に内緒でヤツの会社に入社した。それを知った時のヤツの顔っていったら可笑しくて、可笑しくて、思い出すだけでも腹が捩れてしまう。それから、今日その会社の人事局長から出張を言い渡されていた。
俺の事を手元に置いておきたかったんだろうか?ヤツはかなり渋がっていた。
宏之と涼崎は何だかんだあったけど、どういう経緯でその道を選んだのか知らないが現在、二人+一人で大学院一年目を送っている専攻は二人とも医学。
奴らは凄い、涼崎が退院したその年の受験で二人とも一発志望校に合格した。
ラヴ・パワー全開と言うやつだろうか?まあ、それだけじゃない事は知ってるんだけどな。
貴斗の言っていた通りやっぱ、宏之と涼崎はお互いを必要としていた事を再確認する事件だった。月に何回か宏之と涼崎と会って飲んだりする。
涼崎が目覚めてから厄介ごとが多かったけど今ではそんな事でさえ昔の思い出として酒の肴にしちまっていた。
香澄は俺の告白を受けてくれた時に働いているのをやめて涼崎達と大学に行きたいって言いだし、それが今現実となっている。学部は何と宏之達と一緒で医学部だった。
医者に成るのは俺達と出会う前からの夢だったから宏之達が進むなら、自身も叶えたいって・・・。
香澄がそれを望むなら、俺はそれを拒んだりしない。香澄のやりたいようにやらせ、それを支えるのが男ってもんだろう?だけど、香澄は一人っ子で彼女ん処の親御さん、母親からすれば自分の店を継いでもらいたいな事を相談された。しかし、俺ははっきりとその答えを出しきれていない。何せ、それは俺の親父も似たような思いでいるからだ・・・。
俺ん処も香澄ん処も家を継ぐ、継がないは直ぐに決断できそうもないから後回しにしちゃいそうだな。でも香澄が医者ねぇ・・・、・・・。
それと同じ会社なのに貴斗と藤宮の方は月に二、三回会えれば良い方それくらい今の二人は忙しい。
二人の体が心配で在る。
特に貴斗の方は・・・・・・。
クライフは大学卒業後、仕事の関係で本国と日本を行ったり来たりしている。
実はアイツ米国車産業界の一つフォードグループの人間であった事を知った。ッて言うより別れの際にやつに教えられた。
ユナイテッド・ステーツに来る時はいつでも手を貸してやる、とも約束された。
俺が海外人事でそちらの方面へ行く事があれば頼る積もりだ。
そして、それも現実の物となる時が来る。
翠ちゃん、それ程多く彼女とは会う機会ってのは無かったが今、彼女は大学を卒業し、水泳のトレーナーの仕事をしていると言うのを香澄から聞いた。
今では昔みたいに彼女と香澄の間にギクシャクとした雰囲気の感じは無くなっていた。
今、俺の大切に思う人々は着実に明日へと漸進している。
まだまだ、人生を振り返る年齢でないんだがフッと振り返ってしまう。
俺の近しい人達はみんな波乱万丈な人生を過ごしてきたように思えた。
貴斗、宏之、そして俺にはそれぞれの人生のパートナーがいる。だからこれからどんなに辛い事があっても彼女達のために頑張っていけるだろう・・・・・・・・・、多分な。
時の流れとは人の流れに翻弄される事なく勝手に進んでいく。
人の周りの関係、環境はそれに呼応するかのように絶えず進み良くも悪くも進化していく。そして、俺達は今と言う時間に生きている。
これからも楽しい事、辛い事、嬉しい事、悲しい事、その多くを体験するだろう。
その中で幾度となく挫ける事もあるだろうな。だが、しかし、俺達はもう立ち止まったりしない、永遠という言葉が無意味である事を肝に銘じ、絶えず進み続けるだろう。
そばに大切な仲間と守るべき愛しい人がいる限り・・・。
*
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カッチョエエェーーーっ、決め台詞だっ・・・・・・。フッ、決まったな、俺。
慎治編 END
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