第 二 章 虚構と言う名の現実

第六話 新しい風

~ 2002年4月22日、金曜日 ~


 無事、聖陵高等部を卒業し、何とか聖陵大学、国際経済学部に受験で合格した。

 貴斗、藤宮さんも同様にこの大学に道を進めていた。

 隼瀬は4月ギリギリ前に就職が決まり今はOLそれともライター?をしているようだな。

 宏之は彼女のおかげで何とか自分を取り戻し始めて居た。

 卒業はと言うと・・・、どういうわけか知らないけど翔子先生の計らいで仮卒業となっていた。

 今日、貴斗、藤宮さんと共にどのサークルに入るか見学していた。


~ 大学内の小さな公園施設 ~

「ねぇ、八神君?何処のサークルにお入りになるのかお決めになられたのですか」

「テニスサークル、ほぼそれに決定かな?」

「慎治、テニス出来るのか?」

「そうでした。そういえば、八神君、高校二年生の時までテニス部でしたのですよね」

「あぁあ、そんなだったなぁ」

 高校二の夏合宿が終わるまで聖陵のテニス部に在籍していた。

 合宿の最後の日ある事件を境にして俺を含む何人かのテニス部員は自ら退部する事を決意したのだ。

 今となっては如何でも良い過去なのでお話しする気にはならない。

「そう言う、藤宮さん水泳、続けるのかい?」

 ライバルだった隼瀬が辞めたんだ・・・、たぶん藤宮さんも続けないとは思う。

 とりあえず聞いてみた。

 返ってくる答えは予想的中、正解ってやつだな。

 ただ、最後の言葉かなり切なげだったな。でも、貴斗はそれを読み取っていないのかそれとも知らない振りをしているだけなのか、どこか別の場所を見ている。

「エぇッ、ワタクシですか?私は貴斗君とモットご一緒に居たいですから貴斗君と一緒のサークルにしようと思っています。それに香澄が居ないなら私も競泳を続ける理由は・・・、続ける必要はありませんから」

 彼女はそう言うとヤツの方を振り向いた。

「貴斗、妬けるねぇ!ククッ」

 遠くを見ている貴斗を小馬鹿にする様に言ってからヤツを笑ってやった。

「わっ、笑うな、慎治」

 こっちに振り向きヤツは照れを隠す様にそう口にした。

 コイツの表情もずいぶんと柔らかくなって来ている。

 藤宮さんの御陰なのか?それでもそんな表情を見せるのは俺達にだけである。

「それより貴斗。サークル、決めたのか?」

「バイトある。入るつもりはない」

「それではワタクシも貴斗君のお店でご一緒に働かせていただきたいと思います」

「駄目に決まってる」

 藤宮さん、結構本気っぽい発言だけど、貴斗は淡々と返していた。

「酷いです・・・貴斗君。私とご一緒にお働きする事がお嫌なのですね?私のことお嫌いなのですね。うくっ、ひくっ・・・」

 彼女、マジなのかそうでないのか悲しそうな表情で少しなみだ目になっていた。

 ここは彼女を支援して貴斗に言ってやろう。

「おい、貴斗、ちゃんと藤宮さんに駄目な理由を説明してから断れよな」

「教えない・・・・・・」

 ヤツのその言葉で彼女、一層悲しそうな顔を作っていた。

 さて、どうしたもんだろう?

 藤宮さんのために吐かせるべきか、そうじゃないか・・・

 藤宮さんのあの悲しげな顔を見て、何もしてやれないなんて、男じゃないな。

 こうなったら俺の言葉巧みな話術で聴きだしてくれよう。

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                ・

                ・

・・・・・・・・・十数分の言葉攻めの結果ヤツは口を割った。

 貴斗の手前勝手な藤宮さんの理想像、その理由はこれからも彼女には優秀であり続けて欲しいからだそうだ。

 要するにいくら藤宮さんが頭脳明晰だからってバイトとかすれば少なからず勉強がおろそかになるって事。・・・だが、絶対貴斗は何かを隠している、と感じた。

 それは男としての勘ってやつ。

 まあヤツのその理由で彼女が嬉しそうな表情で納得すればそれでいいけどな。

 それと、貴斗はサークルに入らない本当の理由を教えてくれた。

「何処へも入らない、多分、お前たち以外の連中とは上手くやって行けそうにないから」

 コイツの友達をやっている俺としては嬉しい言葉なんだけど、もっと前向きになって欲しいから。

「オイ、自閉的になるなよ。そんなの、やって見なきゃわかんねぇだロッ」

 言って差し上げました・・・・・・・・・、やばっ、藤宮さんの口調がうつってしまった。

「イイ、少なくても深く付き合えるお前等さえいれば」

 ヤツが俺達にそう言うと再び、藤宮さんの表情が一瞬だけ曇って見えた。

 そんな彼女に振り返り小声で尋ねた。

「なぁ、ヤツってガキん頃もあんな感じの性格だったのか?」

 彼女は俺の言葉を聞くと刻みよく顔を横に振ってから小声で返して来た。

「いつも笑顔でしてどなたとでもお仲が良よろしかったのですよ」

「ソッカ、なら良い、いつかそうなるといいな」

 俺の言葉の返しに彼女はにっこりしながら頷いて来た。

「こんな可愛い彼女を泣かすなよ、貴斗!」

 俺と藤宮さんの小さな会話を上の空でどっかを見ていた貴斗のヤツに口に出して言ってやった。

「何だ、急に!」

 ヤツは少なからず俺の言葉に動揺したようだった。

 藤宮さん、彼女は頬をホンノリ紅く染めながら口を動かしてくる。

「へっ、変な事を申さないでください、八神君」

「藤宮さんが可愛いのは誰から見ても分かる事だろ、ナッ、お前も思うよな」

 貴斗にその言葉を送ってみた。

 ヤツのそれの返事は恥ずかしがっているのかそれとも捻くれているんか?

「慎治の言う事は・・・、正しいと思う」といってきやがった、真顔で。

「そんな、変に遠まわしな言葉、使うなっ!ストレートに言ってやれよな、まったく」

「きっ、綺麗で可愛いと思う・・・、くっ、恥ずかしい事を言わせるな」

 貴斗、最後に何か呟いていた様だけどその言葉を聞いた藤宮さんは余計に表情を紅くし両手で顔を隠してしまった。

 案外この二人をからかって見るのも一興かも・・・、面白い。

 藤宮さんにあんな風に言って見たものの、笑うと言う事を過去の置き忘れてしまった貴斗。

 これから先、果たして貴斗のヤツは本当に心から笑えるって事がありえるのだろうか?

 それはヤツ次第なのか?

 周りの者次第なのか?

 後者なら俺も手伝ってやりたいと心から思った。

 涼崎さんの事故、宏之なんかに比べれば貴斗の方が断然、悲惨な過去を背負っている。

 宏之に貴斗の過去を言ったらどうなるだろう・・・、ヤメ、止め、せっかく今、奴と隼瀬は何とか軌道を修正し始めているのにそれをぶち壊すのは俺の意に反する事。・・・、意に反する事・・・?

「慎治、なに一人百面相をしている?ソロソロ飯にしないか?」

 ヤツの言葉で思考は強制中断を余儀なくされた。

「いつも、八神君にはご迷惑をおかけしていますから、今日は、貴方の分もお作りしてきましたよ。ご一緒にいかがですか?」

 藤宮さんの言葉でその考えを脳内の奥へと押しやった。

「モチロンご一緒させていただきますよ、若奥さん!なんたって、若奥さんの作るそれは極上物ですからねぇ」

「八神君、変な事を言わないで」

 藤宮さんは可愛く苦笑しながら訴えてきた。

 腕は絶品、彼女の作る料理は一流シェフと並ぶと思わせるくらい上出来なんだな、これが。いつもそんな食を口に出来る貴斗は羨ましい限りだ。

「慎治、有料だぞ!」

「若奥さん、旦那があんな事を言ってます、勘弁してくださいよ」

「貴斗君!!」

 藤宮さんの表情はにこやかな物だけど、彼女の手は貴斗の頬をおもいっきり抓っていた。

「アタタタタッ、痛い!俺が悪かった、詩織、放してくれ」

「分かればよろしい!」

「ハハッハッハ!」

「ウフフフッ」

 それを見てヤツを笑ってやった。

 藤宮さんもつられて笑っていた。ヤツだけは苦笑していた。そして、昼食中、二人をからかいながら楽しく彼女の作ってくれた昼食をいただいた。

 今は総ての講義が終わった大学の放課後すでに決定していたテニスサークルの部室へと向かっていた。

 大学側のサークル紹介の時のイベントでテニスサークルはそれなりにまともだった。

 入部しても大丈夫だろう。

 大学のサークルは健全な物から異色極まりない物まで幅が広い。

 ここら辺が高校と違うところだ。

 やっとの事でサークルの部室があるテニスコートに辿り着いた・・・。

 キャンパス、でかすぎ。

 校内は快適に移動できる乗り物が要りそうだ。

「入部に来ましたぁ~~~!誰かいませんかぁ?」

 そう言いながらテニスサークルの部室と思われる部屋に侵入して行った。

 部屋の中を目だけを動かし確認する。

 結構片付いている。

 清潔なイメージをそれなりに感じる。

「一年の子ね、テニスサークルに入部希望?」と背後から声が聞こえて来た。

「それ以外に何かあるんですか?」

「それもそうねぇ!」

 ここの人のようだ。

 どこかの学部の先輩でもあると思う。性別は間違えなく女。あれで男だったら嫌だ。

「ネェ、ネェ、キミ変な事、考えていない?あのぉ~~~、それより、ボクの名前はいつ自己紹介させてくれるの?」

「しなくてもいいです、言わなくて結構です。どうせこの場、限りのキャラだろ?」

「酷いヨッ。ボク、泣いちゃうかも?」

「・・・だったら、自己紹介、はいどうぞぉ~~~」

「ボクは、欧州文芸文集科三年の荻名奈々美」

「俺は、国際経済学部の八神慎治です、入部に来ました。宜しく御願いします」

 荻名先輩にそう言ってやっと挨拶を交わした。

「ボクは女子部の部長だけど、了承でぇ~~~すっ!」

「ハイ、ご苦労様でした。それではご退場ください。文字の無駄です」

「・・・シクシク、なんか酷い扱われ様ですねぇ、ぼくぅ・・・」

「オイ、オイ、勝手に了承するな」

 荻名先輩との会話が終了したところで一人の大柄の男が部室に入ってきた。

 その言葉から推測するとこの人が男子部の部長なのだろう。

「アッ、やったねぇ~~、まだ僕の出番ありそぉーーーっ!」

「奈々美君、何を一人で喜んでいるんだ?気でも違ったのかい?」

「ボクはまともだよ、それよりも先輩も早く自己紹介した方がいいですよ」

「そうだね、私は男子部の部長、草薙統也、BC学部の四年です」

 外見と声がなんだかミスマッチングな先輩だ。

 BC学部って何だ、そんなのあったか?

「八神慎治です。入部希望」

「オーケーですよ、歓迎いたします。それと内のテニスサークルは女性を引っ掛けたり、色香で男を魅惑したりする為の物ではない事を理解して置いてくださいね」

「もとより、その積もり無いです統也先輩。ところでBC学部って何すか?」

「あぁ~~~、ゴメンゴメン、私が勝手に略してそう言っているだけで、正式名は生化学部、バイオ・ケミストリーのそれぞれの頭文字を取ってBC学部と言っているのです」

 中々、カッコいいな。

 真似して見る?国際経済学部だからインターナショナル・エコノミックでIE学部・・・、何かあれっぽいのでこれは嫌だなぁ。

 インターナショナルではなくワールド・ワイド・エコノミックでWWE学部。何か言いにくいなこれも。

 あと何かあったかな?ユニバーサル?グローバル?UEにGEなんか他で使っていそうだ。

「八神くぅ~~~ん、どうしちゃったのぉ~~~?ボク、放って置かれて淋しいよ」

「慎治君、無駄な事を考えては行けませんよ。時間の無駄ですからね」

 二人の部長は現実世界へと連れ戻す言葉を掛けてきた。

「統也先輩がカッコいい、いい方していたから俺も真似してみようかなって」

「ハハッ、そうだったんですか。所で慎治君は何学部だい?」

「国際経済学部っす!」

「そうですね、でしたらIE学部ですね」

「でも何だかそれってイ○ター○ットエ○ス○ロー○ーッぽくて、嫌なんです」

「ええ?何ですかそのイン○ーネ○ト○ク○プ○ーラーと言うのは?」

「アハッ、そう言えば先輩理系なのにパソコンダメなんですよネェ。ボクは知ってるよ、それ」

「荻名先輩パソコン、やるんですか」

「それってへんけぇ~~~ん、モチ、現代っ子なら出来て当然ね。それとボク、苗字じゃなく名で呼んで欲しいなぁ」

「やはり、パソコンは出来なくてはいけないものなのでしょうか?」

「ゴメン、ゴメン、そんなつもりで言ったんじゃないの」

「そうですよ、統也先輩。誰にだって出来る事と出来ない事があるんだから気にする事、無いっすよ!まぁ、出来るに越した事無いですけどね」

「そうですね、有難う御座います」

 何故か統也先輩は頭を下げて感謝して来た。

「あぁ~、それと荻名先輩、俺は好きになった子以外は苗字で呼ぶ事にしてるんすよ」

〈例外を除いては〉と口に出さず付け加えた。

「えぇ~~~っ、そうなの別に減るもんじゃないんだからそんなの、止めたら?」

「言いたい事、言ってくれますね」

「だってボク表裏無いもん!」

「ソロソロ他の部員も来る頃ですね、他の入部希望者も来ると思いますよ」

「ボクの女子部員は可愛い子、揃っているわよ。でも、手出しチャダメだからね、アハハッ」

「だから、そんな積もり無いです」

「フフッ」

「統也先輩、何で笑ってんすか?」

〈この先輩達なら上手く、楽しくやって行けそうだ〉

 先輩二人たちと会話を交わしていて思った。

 貴斗もこういう人達だとやってイケそうだと思うんだけどなぁ?

 後で藤宮さんと貴斗一緒に誘ってみようかな?

 後日、その事を貴斗に話してみたんだが〝考えておく〟と言葉にしただけだった。

 その答えが返ってくることはこれから先ありえるんかな?

 今の貴斗を見ていると予想は出来るんだけど。

 良いほうに考えながらまた新しい日々を迎える事にするかな。

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