第26話 小さなお客様・後日談
数日後。
ミーヤの両親から、手紙と一緒に謝礼の果物が届いた。
夫婦で青果店を営んでいるそうで、『店の余り物で恐縮ですが』と文面に記されていたが、どれも色艶がよくて甘い匂いがしている。彼らの目利きの良さがうかがえる品々だ。
甘党のディルクがいればあっという間に消費してしまいそうだが、少し実家にお裾分けしようと思う。
手紙には無事に快復したことの報告や、ミーヤが世話になった感謝丁寧な文体で綴られていた他、末尾に件のバカ息子についての記述があった。
あの女性だけでなくご近所総出でこってり絞られた結果、真面目に仕事をするようになったらしい。
その殊勝さがいつまでもつやら、と大人たちは懸念しているようだが、彼が相応の罰を受けたことは確かだし、更生のきっかけにはなっただろう。
手紙の他に、封筒の中にミーヤが描いたらしい絵も同封されていた。ドラゴンに乗った時の様子を描いたもののようだが……それを見てディルクはひどく落ち込んでいた。
「俺はこんなに変な生き物に見えているのか……?」
乗っている二人の女の子は、オフィーリアとミーヤだとなんとなく認識できるが、ドラゴンの方は角と羽の生えた謎の生物にしか見えない。
とはいえ、幼児の画力ならこんなものだろうし、特徴を捉えているだけよく描けていると思う。
「子供の絵ってこんなものじゃない?」
「そうなのか? 集落のやんちゃ坊主共はじっとしてるのが苦手で、ちっともお絵描きなんかしなかったから、子供の画力はよく分からないんだが、これが普通なのか?」
「多分ね」
オフィーリアがうなずくと、ディルクはよりショックを受けた様子で、がっくりとうなだれた。
「だ、大丈夫よ。ディルクはとても素敵なドラゴンだから。銀の鱗はキラキラしててきれいだし、宝石みたいな金色の目も凛々しくて……あ、その……」
フォローしようといろいろと誉め言葉を並べるうちに恥ずかしくなり、ゴニョゴニョと言葉を濁してごまかした。
でも、おかげでディルクの機嫌はすっかり治ったようで、「君がそう言ってくれるなら問題ない」と言ってはにかんだ笑みを浮かべた。
「ところで、ミーヤで思い出したが、この間話してた“講座”はどうするんだ?」
先日の出来事をきっかけに、庶民に風邪薬や傷薬などの常備薬の作り方を教える講座を開くことを思いついた。
誰かに教えることの楽しさを知ったというのもあるが、高価なマナテリアル薬を売るよりも、安価で人々のためになるのではないかと考えたのだ。
話題が変わってほっとしつつ、オフィーリアは答えた。
「あ、うん。お母さんに相談してみたんだけど、案自体はいいけど、薬じゃなくてハーブティーにした方がいいって」
薬に使う薬草は一般の市場に出回らないことも多く、薬問屋を通して仕入れるくらいなら普通に薬を買った方が安くつく場合もある。
そのお金を出し渋って、知識のない素人が野山に入って野草摘みなどしたら、薬草と毒草と間違えて命取りになる劇薬を作りかねない。キノコ狩りと同じ理屈だ。
それに、庶民が自力で薬作れるようになったら、薬問屋の商売に差し障りがある。営業妨害だと文句をつけられることは避けた方がいい。
というベアトリクスの弁を、さもありなんとうなずきながらディルクは聞いた。
「まあ、それを差し引いても、オフィーリアは“魔女のハーブティー”で売り出し中なんだし、確かにハーブティー講座の方が知名度は上がると思うぞ」
「ふふ、お母さんにも同じことを言われたわ」
「それに、ハーブティーなら男が寄り付かなくて安心だ」
「……ロイドにも同じことを言われたわ」
女性の方が気兼ねしないとはいえ、顧客に偏りが出るのはどうだろうと思う。
異性に注目される容姿である自覚がないオフィーリアは、ロイドやディルクが彼女を案じている気持ちが理解できず首をひねった。
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