詩「秋風」

有原野分

秋風

校舎の杉の木の裏に

誰かを待たせている気がする

もう何十年も経っているのに

まだそこに行けば

誰かが私を待っているような

それは夢の中でよく見るお前だった気もする

 が

もしかしたら待っていたのは

私だったのかもしれない


呼び出したのは

いったいどっちだったのだろうか


絵画のような青空が

どこかの誰かにタバコを吹きかけられた

だからトイレから帰ってきたときに

お前は煙のように消えていた


壊したくなるほどの夕焼けに

明日への光など掠め取れない


夜が来る度に

私たちは

死を思う

だから私たちは

笑っていたのだと

秋風が思い出させる


出先のホテルの部屋が無機質に感じるのはそこに思い出がないからであって住み慣れたドアの向こう側にある懐かしいローテーブルが恋しいときそこにもう感情を捨て去ることは

 できないのだ


開けられたゴミ袋

自転車のベルの残響

捨てられた扇風機の羽

透明な外壁に朝日を貼り付けて

私は杉の木の裏で涙する

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詩「秋風」 有原野分 @yujiarihara

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