I F アナザー・インシデンツ
iF ワタシがアナタをモトメたら
「イヤ、嫌、いや、貴斗君そんな事を言わないで私が大事だっていってよ。私を必要だって言ってよぉ。ねぇってばぁ」
「同じ事は二度言わない。宏之と凍りついた時間を取り戻してくれ。奴の元へ行ってやれ、彼奴も待っているはずだから。宏之が必ず待っているはずだから」
カレの言葉に刺激されたのか胸の中にいっぱい色んな思い出が込み上げてきたの。
それは宏之君や大切な人と時間を共有したとても大事な思い出。
目を瞑り更にその思い出と私の想いを深く深く掘り下げて行く。
誰を必要とし、誰を愛し、愛されたいのか。そして、何かが一瞬見えた。
それから私の心を白く温かいモノが包んで行く。
さらに、いつのまにか口を動かし言葉を綴っていたの。
「・・・、好き、今、私が必要としているのは私が愛してしまった人は宏之君じゃない」
「エッ!!?」
「・・・・・・・・・」
詩織ちゃんは私の途中の言葉に驚き、貴斗君は静かに私を見ているだけでした。
「今、私が愛してしまった人は貴方よ、藤原貴斗君、アナタなの!」
そこまで口にすると何故か大粒の涙を流してしまっていたの。
「・・・春香・・・・・・、正気?いや違う、本気でそう想ってくれているんだな」
「今やっと判ったの。私の本当の想いが、詩織ちゃんに嫌われても・・・、いい。香澄ちゃんに・・・・・・、嫌われてもいい。二人に恨まれてもいいの。だから貴斗君、私の傍から離れないで私を支えて・・・、私を大事にして、私を好きになって、私を愛して欲しいの」
「止めてぇーーーっ、春香。私から貴斗を奪わないでぇーーーーーーーーーーッ」
彼女もまた私の言った事を聞いて大粒の涙を浮かべ悲痛の叫びを上げていた。
詩織ちゃんのその言葉にどれだけ彼女が貴斗君を必要とし、愛しているのか心に響いて来た。でも今の私の気持ちに嘘は吐きたくなかった。
「俺を必要としてくれるんだな、俺に支えて欲しいんだな、俺に愛されたいと願っているんだな、春香?」
「叶うなら・・・・・・」
「・・・詩織、ゴメン、昔の俺も、すべての記憶を取り戻した今の俺も・・・幼馴染みであるお前の気持ちに応えてやれそうにない。ゆるせ、詩織」
「嫌、いや、嫌よ、貴斗そんなことを言わないで、私、貴斗がいなかったらこれからどうすれば良いの、なにを目標にして生きて行けばいいの?」
「詩織、我侭を言わないでくれ、俺の性格を知っているならこれ以上俺を困らせないで欲しい」
彼は冷静な口調で詩織ちゃんにそう言っている。
彼女は唯、狼狽するだけでした。私はいつの間にか安堵していたの。
「たぁかとぉのばかぁーーーーーーっ」
『バシッ!!』
詩織ちゃんはそう言葉にすると涙を流し貴斗君に大きな平手打ちを差し上げてから走ってこの場所から去って行ってしまった。
「貴斗君、大丈夫?」
「詩織の心に傷を負わせたのに比べえればこの程度たいした事ない」
「そんなになってもアナタは他の子を心配するのね」
「オレの性分だ」
「私の傍にいてくれる事を決めたのは・・・、私に対する哀れみのため?」
「違う、オレの本心だ」
彼はそれを言うと私を強く抱き締めてくれたの。
「ねぇ、貴斗君、体の方は大丈夫なの?だってまだ入院中のはずでしょ」
「有難う心配してくれるんだな。昨日、仮退院をもらった」
「無理して私を困らせないでね」
「・・・、散々ミンナを困らせた春香のセリフじゃないな」
「貴斗君、ひどいよ、そんな言い方するなんて」
涙交じりで彼を見た。
「ゴメン、だから俺に春香の涙を見せないでくれ、そんなの見せられてしまっては治りかけの傷も治らなくなってしまう」
彼はそう言うと私の頬に手を当てそれを拭ってくれる。
「私、あなたを信じてもいいのかなぁ?好きになっても、愛してもいいのかな?」
「春香が望むままに」
「貴斗君・・・、もう少し気の利いた言葉を私に聞かせてくれないの?」
「悪いな、得意じゃないんだ」
「だったら態度で示してよ」
そう言って瞼を閉じた。
少し間が開いてしまったような気がするけど・・・、彼の唇が私の唇を覆い私の舌が彼の舌に絡みつく。長い抱擁と長いキス。
私の心が蕩けそうになってしまう。
私と彼の心が解け合うような感じがしたの。
いつの間にか彼と私の白昼夢のようなキスが終わりを告げていた。
キスは終わったけどまだ抱擁は続いていた。
少しの間だけ彼と私は静寂となりヤミに溶け込んでいた。やがて彼の方から言葉を掛けて来た。
「黙って聞いて欲しい」
彼がそう言ったので頭を縦に振ってそれに応えていた。
「春香が俺を強く求めてしまうのは死の淵からオレがおれの魂を使ってキミを助けてしまったからかもしれない。俺が春香に惹かれてしまうのは・・・の面影を・・・に」
「エッ、今なんていったの?」
貴斗君は小声で何かを口にしたけどよく聞き取れなかったから聞き返していたの。
でもカレはそれを曖昧にして言葉を続けていた。
「気のせいだろう・・・話し続ける。俺がお前に惹かれてしまったのはオレの魂・・・、それが春香の魂と融合し共有してしまった所為なのかもしれない。だから、お互い強く惹かれ合うのかもしれない・・・・・・。本当は、俺は生き還るべきではなかったのかもしれない」
彼のその言葉を聞いてゾッとした。声を出そうと思ったけどまだ彼の言葉が続きそうだったので何とか我慢し押し止めたの。
「だが、こうして生き還ってしまった。そして、今はすべての記憶を取り戻し完全な状態にいる。いっとき、俺は詩織に心を許してしまっていた。俺は彼女の恋人だった。そして、春香、キミは宏之の恋人。記憶を全部取り戻した時、俺は父さんがいっていた言葉について考えたんだ」
『優しさだけが本当の優しさではない』
「そして、自分なりにその意味の結論を出してみた。それは俺がキミを突き放す事で宏之との縁を取り戻せると・・・、そう思った。だが、春香、キミは俺を選んでくれた・・・。それと俺が必要としていたのは彼女ではなく春香、キミだと気付いた。春香・・・、愛している。お前を支えてやりたいオレの命がある限りずっと。俺の言葉はこれでおしまいだ」
「この気持ち、私のこの気持ちは絶対に貴方が私を死の淵から救ってくれたと言う恩としてではなく、私の本心から、そう想っています。貴斗君、私も大好き、あなたを愛したい、愛されたいの」
そう口にすると嬉し涙を流し彼の胸に顔を埋め込んだ。
「有難う、春香。俺もキミを愛したい・・・、そして、愛されたい」
そう言って再び彼は私を強く、そして優しく抱擁してくれました。
また一時が過ぎる。今度は私から彼に言葉を掛けたの。
「ねぇ、オマジナイしたいなぁ」
「お呪い?女性ってそう言うの好きなんだな。俺はどうすればいい?」
「貴斗君、両手を私の前に出して」
彼は私の言葉に従うように両手を出してくれた。それから、私は彼の両手に私の手を添え、指を絡めたの。
「永遠の約束のオマジナイ」
彼と指を絡めたまま沈黙してしまった。
私は何かを迷っているようだった。
「どうしたお呪いしないのか?」
「ウゥン、ヤッパリ貴斗君とはこのおまじないしない事にする。そんな事をしなくても貴斗君の事を信じていけるから私の魂がそう教えてくれるから」
「春香がそう決めたのならそれでいい。俺を信じてくれ」
オマジナイは漢字で書くと〝お呪い〟・・・、〝呪い〟。
そう〝おまじない〟はね、ある意味〝のろい〟なのかもしれない。だから、貴斗君とは永遠の約束のおまじないをしない事にするの。
これと同じ事を宏之君に告白した時お願いしてやって貰いました。
若しかして、その所為で私は事故に遭遇し三年間も眠らされてしまったのかもしれない。
本当に何もかも変わらず約束が永遠に続くか試されたのかもしれないの。でも、現実はそうじゃなかった。
三年間と言う時の流れは私の周りの大切な人を大きく変えてしまっていた。だから、変わってしまったこの現実を受け入れるために新しい道を私は選ぶ事にしたの。
貴斗君と歩んで行く道を・・・、私は彼を信じている。
だからね、永遠の約束のお呪いをしない事にしました。
それと貴斗君が言っていた〝優しさだけが本当の優しさではない〟と言う言葉の本意は人を甘えさせるだけでは駄目だと言う事。
時には厳しく当たり突き放さないと堕落してしまう。
もしくは本当の道から踏み外してしまう。
そう言う事を改める意味だと彼そう結論を出したと言っていました。
* * *
あれから約六年の歳月が流れようとしていました。
私は貴斗君のサポートを受け2005年の秋から大学へ入学する事が出来ました。
私が専攻した学部は経営学部、それと彼の精神的なサポートもしたかったので幾つかサイコロジー関係の単位も修得しました。
2009年に大学を卒業しその年に、貴斗君が直に経営する企業に入社しました。
今年、色々な研修を受けた私は企業経営のカウンセラーとして彼の傍にいます。
今、私は新しいプロジェクトのデモンストレーションが行われていた会議室に資料の片付けのため残っていました。
現在、取締役である貴斗君。そんな重役の彼が一緒に残って手伝ってくれています。
それともう一人・・・、現在、彼の秘書をしている詩織がいます。
「ねぇ、貴斗、こっち向いて」
「何だ?」
彼は詩織の言葉に誘われ彼女の方向に振り向きました・・・。
とその瞬間、私は精神的なダメージを受けてしまいました。
私の見ている前で彼女は私の貴斗君に堂々とキスをしてくれました。
「イヤァ~~~ん、私の貴斗クンに何するのよぉ~~~詩織ィ~~~っ!」
「アハハハッ、残念ねぇ春香。私、貴斗の事、まだ諦め切れていないの。だから、私に隙を見せたらいつでも貴斗を奪い返して差し上げますわよ。ウフフフッ」
彼女は悪戯な笑みを浮かべ、貴斗君に抱きつきながらそう言ってきました。
「駄目、駄目ぇーーーっ、貴斗君は絶対渡さないんだからぁ。それに何くっついてんの」
彼は詩織のキス硬直していました。
「貴斗君、少しは嫌がる素振りくらい見せてよぉ」
「アハハハッハ、ゴメン、詩織が急にあんな事するから驚いてしまって」
「アハハ、じゃないよぉもおぉ~~~、貴斗君ったらぁ。これで何度目なの?私の目の前で彼女とキスをしてくれるのは?詩織が一緒の時は彼女をもっと警戒してって言っているでしょうよぉ」
「努力する」
「無理よ、貴斗がどんなに頑張っても私は強引にあ・な・た・の唇を奪うんだからッ」
「もぉ、いい加減にして詩織ぃ!」
「私が貴斗以上の気持ちにさせてくれる人を見つけるまではイやよぉ~~~」
彼女はニッコリ微笑みながらそう口にしてきました。
貴斗君のこの会社に来てからこのような奇妙な三角関係?がずっと続いています。
正式に私が貴斗君とお付き合いするようになってから私と詩織の関係が不味くなる事はなかった。
むしろ彼女ともっと打ち解けて付き合えるようになっていました。
今、他のミンナがどうしているのか、私には分かりません。でも、それぞれの道を進んでいるのでしょう。
貴斗君が後何年生きる事が出来るのか私にも彼にも判りません。でも、彼が傍にいる限り頑張って生きて行きたいと思います。だけど、私は信じています。
彼と私は一緒に同じ年を向かえ同じように歳を取って老いてくれる事を。そして、ずっと私の傍にいてくれる事を。どんなにトキが過ぎ去っても。
春香 編 IF END 1
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