第31話

四人の僧侶と一人の尼僧がそれを取り囲む。

そして手にした棒で一斉にそいつを叩きはじめた。

化け物の顔に明らかな苦悩の色が浮かぶ。

野上一人でも嫌がっていたのに、今は五人もいるのだ。

すると滝田が言った。

「こいつ逃げようとしているぞ。まあやちゃん」

「はい」

するとまあやが右手で諸星の手を取り、引っ張って五人の輪の中に入っていった。

そして左手を首の女の頭に当てたのだ。

女の表情が変わった。

閉じ気味だった目を大きく見開き、ゆっくりと回ってその場にいた人を一人一人順に見た。

そして最後にまあやを見ると、狂ったように暴れ始めた。

右へ左へ、前へ後ろへ、上へ下へと激しく飛び回った。

諸星がそれを見ていると、やがて「ぎゃあっ!」と首だけなのに大きく叫び、地面に落ちた。

「今だ」

滝田の掛け声とともに、五人が持っていた棒で首を上から押さえつけた。

そして各々お経を唱え始めた。

首は小刻みに震えていたが、ただそれだけだった。

しばらくすると首はその動きを止めた。

見れば首はいつの間にか頭蓋骨になっていた。

「除霊は終わりました」

滝田がそう言うと、まあやが諸星に抱きついてきた。

「ありがとう。ありがとう」

まあやは泣いていた。


「少し休みましょう」

滝田の提案で、七人は寺の中に入った。

座布団とお茶が用意され、各々飲んだ。

その中で諸星は滝田を見ていた。

滝田が気付き、言った。

「諸星さんはなにがあったのか、よくわかっていないようですね。もちろんちゃんと説明しますよ」

「はい。それでは私には不思議な力があると言ってましたが」

「ありますねえ。会った瞬間に感じました。手をつなぐまでは明確にはわかりませんでしたが」

「手をつなぐとわかるんですか」

「はい。力が伝わります。伝えることもできます。ですから野上さんがなぜそれをやらなかったのか、不思議でしょうがないのですが。今となってはわかりませんが」

「それで、私の力とはなんですか?」

「人間は肉体と魂で成り立っています。霊能者は主に魂の霊的エネルギーを使いますが、まれに肉体の生命エネルギーを使う人もいます。さあやちゃんがそうですね。そこにいるまあやちゃんもそうですが」

まあやが口をはさんだ。

「そして霊的エネルギーも生命エネルギーも波動があるんですが、特別な波動を持つ者がいます。霊能者は本物ならみんなそうですが。そして諸星さんも特別な波動の持ち主です」

「私が、ですか」

「そうです。そしてその波動は、人の顔のようにそれぞれ個性があります。私とお姉ちゃんは姉妹なのでその波動がかなり似ていました。しかし諸星さん。あなたの波動は妹である私よりもお姉ちゃんに近かったんです。ほぼ同じ、同一人物と言っていいくらいに。ですから諸星さんの手をつかんだ時、私はそこにお姉ちゃんを感じました」

滝田が言った。

「他人が似るというのは偶然です。もちろんめったにあることではないのですが。そのめったにないことが、あったのです。あの化け物が諸星さんを襲わないと言ったのは、諸星さんと同じ波動が自分の中にもあるので、襲いたくても襲うことができなかったんですね」

「そうですか。それであの時まあやちゃんが私の手をつなぎ、もう一方の手であの化け物を触りましたが、あれは何だったんですか?」

「あれは伝えたんです。あいつの中にお姉ちゃんはいましたが、ほとんど意識がないような状態でした。だから諸星さんのお姉ちゃんとそっくりな波動を私の体を通してあいつの中に送り込んだんです。それによってお姉ちゃんは完全に目覚めました。そしてあいつの中で暴れたんです」

諸星は首が苦しみ、暴れたことを思い出した。

滝田が言った。

「人間でも外から殴られるより、同じ力なら腹や頭の中で暴れられた方がこたえるでしょうから。それと同じです」

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