第17話

「除霊は主に、成仏させる、封印する、消滅させるの三つがあるのですが、さあやはその中でも一番珍しい消滅させるという方法を行っていました。その上に、かなり変わったやり方をしていたんです」

「と、言いいますと」

「悪霊を自らの肉体に取り込み、生命エネルギーで囲んで閉じ込めて、徐々に力を弱らせて消滅させるという方法で除霊していました。弱い霊だとわりと短い時間で除霊できるのですが、強い霊だと結構時間がかかってしまいます。それなのに、あんなことが起きるなんて」

「あんなこと、とは?」

「ある日、さあやはめったにいないような強い悪霊を数日かけてなんとか自分の体に取り込んだんです。ところがその翌日、さあやは死んでしまったんです」

「えっ、どうして」

「それはバイクで走っている時、すぐ前を走っていたトラックの荷台から薄い鉄板が飛んできて、その鉄板がさあやの首に当たり、首を切断してしまったんです」

「あっ、それニュースで見ました」

「全国ニュースになっていましたからね。とても珍しい悲惨な事故ということで。だから私たちはさあやの首が必要だったんです」

「どうして首が必要だったんですか?」

「悪霊を肉体に閉じ込める人は少ないですが、悪霊を閉じ込める場所もまちまちでした。さあやの場合は頭の中に閉じ込めていたんです。だからさあやが死んだ時点では、悪霊はさあやの頭の中にいたはずです。ですからきっちりと除霊をする必要がありました。しかしさあやの首はいくら探しても見つかりませんでした。もとろん警察が主に探したんですが。結論として、道のすぐ横を流れる川の中に落ちたのではないかということになりました」

「川にですか」

「そうです。大雨で増水して濁流となっていた川です。おまけにあそこだと海にも近いです。ですからそのまま海まで流されたんだろうということになりました」

「もしかしてそれがあの化け物に」

「そうです。悪霊がさあやの首から出ることなく、そのまま乗っ取ってしまったんですね。五人も殺した強い悪霊でしたし。あなたが言ったような化け物になっても不思議じゃないですね」

「五人も殺したんですか」

「そうです。警察は全て事故と自殺ということで処理しましたが。本当はあの悪霊に殺されたんです。前は人の首を喰うなんてわかりやすいことはしてませんし。あのときは警察も騙されてましたね」

「でも、前は人の頭を喰うなんてことしてなかったのに。なんでですか」

「前はさあやの首といった肉体を持っていませんでしたし。それに一度捕らわれた悪霊がなんだかの理由で解放された時は、前よりもさらに質が悪くなるものなんです。目に見えて狂暴になるんですね。そういった例がいくつかあります。その二つの相乗効果でそうなってしまったのではないかと思われます」

「そうですか」

「とにかく首切り殺人犯の犯人は、さあやの首とそれに取り付いている悪霊と言うことがわかりました。さっきも言いましたが、あなたのおかげでわかったんです。ありがとうございます」

「いえいえ、そんな。それでこれからどうするんですか?」

「そんなこと、決まってます。除霊するんです」

「どうやって?」

「呼び寄せて、無理やり除霊するしかないでしょうね」

「それって、大丈夫なんですか?」

「いろいろと準備が必要にはなりますが」

そう言うと野上は諸星をじっと見た。

そして言った。

「最初から思っていましたが、あなたは本当に不思議な人ですね」

「そうですか」

「そうです。たとえ化け物になったさあやを見たとしても、普通の人はそれを霊能者に相談しようとは思いませんね。見なかったことにするでしょう。ほとんどの人がそうですね。それにあなたからは、何だか不思議で特別な力を感じます。それもどこかで覚えがあるようなないような」

「特別な力ですか?」

「そうです。特別ななにかと言った方がいいかもしれませんが。それが何なのかはわたしにはよくわからないですね。私は生きている人間の能力を見ることは、あまり得意ではないですから」

「そうですか」

いきなり不思議だの特別な力だの言われても、諸星にはまるでピンとこなかった。

変わっているねとは、これまでに散々言われてきたが。

「それでお願いしたいんですが、さあやの除霊にあなたも同行してもらえませんか」

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