第3話

邪悪だが、根の部分は善ということか。

いやいやそんなものではない。

この二つは完全に別のものだ。

小さな善が大きな邪悪にとらわれている、あるいはおおいつくされている。

そういう感じだ。

そこまではなんとなくわかったが、それ以上はなにもわからなかった。

ずっと探り続けたが、やはりわからない。

しかしこいつは基本的には邪悪なるものだ。

無視していい相手ではない。

――何なんだ、どこにいる?

野上は粘ったが、ここからそう遠くはない場所にいるということはつかんだが、それがどこかはわからなかった。

そして邪悪なるものは、次第に感じなくなっていき、薄く小さくなった。

――これ以上は無理か。

野上はようやく諦めた。


女は歩いていた。

自宅近くの裏路地。

街燈がないわけではないが、数が少なく少し暗い。

こんな時間に女が一人で出歩くものではないが、この辺りは普段近所の人しか通らないため、夜はほとんど人がいない。

そして自宅はもうすぐそこだ。

ただ女には少し気になるところがあった。

それは数日前にあった猟奇殺人。

男が首を切られて殺されたあの事件だ。

路上で首無し死体が見つかるなんて、少なくとも女は聞いたことがなかった。

それにあの事件があったのはすぐ隣の町なのだ。

ここから距離はさほど離れていない。

そんなわけでひょっとしたら自分が襲われるのではないか。

その考えが女の脳裏に浮かんできたのだ。

――いやいや、まさかね。

あんな事件、そうそうあるものではない。

それに怨恨による殺人かもしれない。

そうなれば自分は全くの無関係だ。

とにかくそう思うことにして、女は足早に歩いていた。

その時、前方に何かが見えた。

長い黒髪の女。

なかなかの美人だが、その顔には表情というものがまるでなかった。

顔色も大丈夫かと思いたくなるほどに悪い。

顔を一応女の方に向けてはいるが、女を見ているわけではなく、どこを見ているのかまるでわからない。

光があったっていないのか、首から下はよく見えなかった。

――なんか変な人。

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