さまよう首
ツヨシ
第1話
バイクで走っていた。
今日は少し急でいる。
約束の時間に遅れそうだ。
スピードは警察がいれば捕まるレベル。
でも晴れてよかった。
前日よりほんの少し前までものすごい豪雨だった。
それが嘘のように日がさしている。
道路のすぐ横の細い川は増水し、濁流となってもう少しで道路にあふれそうだ。
雨がやんでからそんなに時間が経っていないので、この後本当にあふれるかもしれない。
でも少なくともしばらくは大丈夫そうだ。
とにかく安全運転をしないといけない。
思いっきりスピード違反はしているけど。
今は事故るわけにはいかないのだ。
常に事故はだめなのだが、今日は特にいけない。
走る車を慎重に左から抜いていたが、先が少し開けた。
さっき抜いた老人の運転する車が遅いのだろう。
前にはトラックが見えた。
遅くはないが、速いとも言えないスピードで走っている。
トラックも抜こうと思った。
左がやや狭いが抜けないことはない。
そう考えていると、トラックの荷台から何かが私に向かって飛んできた。
夜に男が一人歩いていた。
仕事がようやく終わって家に帰るためだ。
駅から十分ほど歩く。
それにしてもこの辺りは結構人が住んでいるのに、夜はほとんど人と会わない。
住人しか使わない道のうえに、住人のほとんどが夜は出歩かないからなのだろう。
まあ若い女性というわけでもないので、夜のさびしい道もさして怖くもないのだが。
歩いていると、ふと何かが見えた。
――女?
女だった。
こんな時間に女一人とは珍しい。
街燈のかげんなのか首から上しか見えないが、若い女だ。
こっちを向いているその顔の色は不自然なほどに悪いが、長い黒髪でかなりの美人だ。
女は動かない。
男との距離が縮まってゆく。
男は無視して通り過ぎることにした。
こんなところでこんな時間にへたに女にかかわったら、犯罪者扱いされるかもしれないと思ったからだ。
それにしても女は男のほうに顔を向けてはいるが、男を見ているわけではない。
どこか遠くを見ているような。
心ここにあらずといった感じだ。
男はすぐ近くまで来た。
そして気づいた。
今まで街燈のかげんか何かで、女の顔しか見えなかったのではないということに。
その女には、首から下がなかったのだ。
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