第35章 DNA③
真実を知ったジュンは、動揺したまま立ち尽くしていた。その眼は遥か遠くを見ているようだ。おそらくは、ゲバラの行方を探しているのだろう。
「おまえの父さんは、おまえたち家族を顧みなかったわけではない。むしろ逆だ。恵美とおまえを深く愛していた。だから、おまえたちを守ろうと、戦っていたのだ」
俺は、説明を続けた。
ジュンの父親、マサルは実直で子煩悩な優しい男だった。だが狂った社会が家族の生活を狂わせてしまった。強欲な権力者、資本家たちが世界を破壊さえしなければ、親子3人仲睦まじく暮らしていただろう。
マサルが選択したのは、家族が安心して暮らせる、平和な社会を取り戻すため、悪魔と変わらぬ権力者たちから愛する家族を守るために戦うことだった。
そのため、自分が殺されたとき、妻と息子が悲しみから早く立ち直れるよう、家族との関係をあえて疎遠にしていた。妻と息子を思う、マサルの悲しい決断だった。その意思をゲバラが引き継ぎ、ジュンたちを守る一方で、ガイガーたちを倒そうと戦い続けていた。
「竜司が、おまえと、おまえの母さんに真相を話さなかったのは、おまえたちを傷つけると思って言えなかったようだ」
俺は吐息を吐くような声で説明した。
「ゲバラ……。父さん……」
ぽつりとつぶやくように声を落とすと、ジュンは両拳を握りしめ、潤んだ眼を合わせてきた。
「僕は、ゲバラを捜しに行きます」
目尻を拭い、声を返してきた。
「ゲバラがなぜ? おまえを連れていかなかったか、わかるか? おまえを守るためだ。AIの戦いに人間が出る幕はない。それはおまえもわかっているだろう。おまえが一緒にいれば、ゲバラはおまえを守るためなら、命を捨てるだろう」
俺は強い口調で制止した。
ジュンと俺は、自分たちに出来ることをやらねばならない。まだ地上に生き残っている人たちを助けることだ。そして、火星の人々も。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます