第27話、澤井悠二は叫びたい

「‥‥ユウジ‥‥、‥きてください」

「んっ?‥‥」


 後頭部に柔らかい感触。‥‥ 過去に堪能した事のある、天上のものとすら思えるこの感触は‥‥‥膝枕‥‥だとすると俺にそれする人は‥‥一人しかいない。ここは是非とも寝起き(気絶起き?)の甘い雰囲気を堪能せねば‥‥


「んぅ‥‥」


 寝返りを打つ。そしてゆっくりと目を開けると視界を塞ぐのは豊かな膨ら‥‥ゲフンゲフン‥アルテアの綺麗な顔‥‥じゃなくてドアップのブラッド君の顔だった。


「アニキ起きましたね!」


 ブラッド君が尚も顔を近づけてくる。ブラッド君の顔は急接近、俺のSAN値は急減少。そして


「あぎゃァァァァ⁈」


 異世界の中心で哀を叫んだ。

慌てて体を跳ね起こし、膝枕という罠から抜け出そうとするが目の前にはドアップのブラッド君の顔がある訳で、

当然、


ゴチン


「あぎゃァァァァあぎゃまが〜!」

「ぐぉぉぉ頭が〜頭が〜」


 今度は別の事──痛みで叫ぶ。頭も痛いが心にも甚大なダメージ。ブラッド君──恐るべし。衝撃で体から力が抜け、再び後頭部に感触。頭の痛みに耐えながら感じたその感触は言われてみれば確かにアルテアの時とは違うような───

ゴロゴロと転がり罠(ブラッド君枕)から脱出する。あれに騙されたのは俺が膝枕をされるという経験が少なかった為であって俺が悪いんじゃないとい‥‥筈だ。──異世界では思わぬところに罠が張られているようだ。

心の傷を癒す為、尚もゴロゴロと転がり続ける俺に、


「目覚めましたね。まさか私に身体強化を使わせるなんて‥‥強くなりましたね」


 アルテアが一言。そちらを見ると‥‥


「羨ま‥けしからん」


 フレイが膝枕されていた。──おのれフレイ其処は俺の特等席であるぞ!──今度魔法を教えてくれたら許してあげよう。

そしてその傍らにはユーナが寝転んでいた。アルテアに頭を撫でられながら──俺だって撫でられた事ないのに。おい、そこ代われ!いや、代わってください!──どうして‥‥どうして俺は桃源郷じゃなかったんだ‥‥


「さて、そろそろ起こしますかユウジはそちらのカインさん?を回復させてあげてください」

「あ、アニキ回復魔法使えるんですか?確か教会に多額のお布施を払うかシスターになるかのどちらかでしか習得できないっていう‥‥」

「あ、あれ?でもユーナってさっきバリバリ回復魔法使ってなかったか?」

 そう尋ねると、ブラッドは


「なんかあったみたいで一度聞いたんですけど‥‥何でしたっけ?」

「いや、俺に何でしたかと聞かれても‥‥」


 そんな雑談をしながらカインに回復魔法をかける。──ちなみにカイン君は誰にも何もされる事なく草原に横たえられていた。


「ブラッド‥‥カインに膝枕しなくて良かったのか?」


 カインにしてくれればあんな悲劇は起こらなかったのに‥‥という言葉は流石に喉の奥に押し込む。


「前にやったことがあるんですけど2日、3日話しかけても返事してくれなくなりました」

「お、おう‥‥」


 どうやらカイン君は先輩(ブラッド君の膝枕被害者)だったらしい。カイン先輩と呼ぶべきか‥‥と考えていると、


「ユウジさん、もう大丈夫です」

 カインが体を起こす。そんな彼に一言


「カイン、いや、カイン先輩‥‥いろいろ大変だったな‥‥」

 そう言うと肩をポンポン叩く。


「えっ?は?何が‥‥」

 少し混乱しているようだがこれで良い。世の中には言葉にしなくても通じるものはあるのだ。例えば哀‥じゃなくて愛とか‥‥



そんなやりとりから数分後、全員が回復し街へと帰還する事になった。


道中、ユーナに回復魔法をどこで習ったのか聞いてみると、


「冒険者で回復魔法を使える人のほとんどが元教会の人で権力争いに敗れたり巻き込まれた人達なんです‥‥」

 と返ってきた。

 何と返そうか迷っていると、


「ユウジのアニキ街が見えてきたぞ」

 とブラッド君


「おぉ〜久々の街だ。あれ?フュー‥‥街の名前なんだっけ?」

「フューレンですよ」とユーナ


こうして実に数ヶ月ぶりにフューレンの街に帰還したのであった。


そこでユウジは鬼ババ‥‥じゃなくて怒れるマダムを見た‼︎

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