クマ先輩のお誘い

 クマ先輩は硬派なのだ。

 そんなにぺちゃくちゃおしゃべりはしない。かといって感じが悪いわけじゃない。


 私は偶然、人助けをしているクマ先輩を何度も見かけたの。

 信号の無い道で渡れずに困ってるおばあさんや、迷子の子、転んだおじいさん……。見捨てず助けて笑顔で接するクマ先輩は素敵だった。

 私もそんな時は何か役に立てないかなってクマ先輩に駆け寄った。


 クマ先輩って、ヒーローみたい。


 私はクマ先輩のそんなとこが、……好きになった。



 ある日、生徒会の会議が終わった帰り道。

 クマ先輩がうちまで送ってくれた。

 私のうちの玄関先で、クマ先輩は明日所沢のゆうえんちに行こうって言った。

 一瞬、私はなにがなんだか分からなかった。

 耳まで真っ赤なクマ先輩。

 声がめちゃくちゃちっちゃかった。


 か、可愛いっ。

 クマ先輩、かわいすぎ。


 私は飛び上がって喜んで、あやうく「クマ先輩大好きっ!」って先走って告白しそうになった。


 あぶない、あぶない。

 クマ先輩のお誘いはデートではなく、ただの生徒会の役員に向けた労いの気持ち、慰労会かもしれない。


 いやいやいや。

 私一人だけ?

 あっ、みんな誘ってるとか?


「二人だけでですか?」

「……」


 クマ先輩は黙ったまま、こくんと頷いた。


 きゅ――――――んっ!


 可愛すぎる。

 私はクマ先輩を見上げ過ぎて痛くなった首を支えながら、しっかり返事をした。


「行きますっ。行きます。クマ先輩となら何処までも」

「じゃあ明日10時に所沢のゆうえんちの入り口前に集合ぉぉ〜」


 クマ先輩は恥ずかしいのか、猛ダッシュで帰って行った。


 明日、急だけど。

 ……デート。

 これってデート?

 ……デートだよね?

 クマ先輩って私のこと好きなのかしら。

 私を好きってことで良いですか?

 待て待て待て待て。

 もしかして脈ありですか、いやいや、ちょっと気になるだけかもしれないわ。

 でも、でも。

 クマ先輩ったら、ちょこっとは私のこと良いなって思ってくれてるのかもよ?

 そうよ。たしかにクマ先輩ってキライな女子を誘えるほど、器用ではない気がするもん。

 絶対にそうだ。

 クマ先輩、あんなに顔が真っ赤っ赤だったもんね。茹で上がったタコみたいに。


 キャー、キャー。

 やだ、どうしよう!

 明日、洋服何着て行こう!?




 誘われた時には大喜びでハイテンションだった私。

 どん底に落ちることになる。

 なんでって?

 どうしてかって?


 哀しいかな。


 次の日、クマ先輩は約束の時間がとうに過ぎても、所沢のゆうえんちの入り口にはやって来なかったのだ。


 待てど暮らせど、クマ先輩はデートに来なかった。


 うぇ〜ん、クマ先輩、乙女の純情返してください。











 

 

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