バイナリメモリに花束を

紅葉らて

第1話 夢

 やわらかい一筋の光が胸に差してきて、わたしの心を静かに暖めている。あまい匂いが鼻をくすぐる。どこからか、子守り唄が聴こえてくるような気がする。

 まだ幼いわたしは母語の一単語でさえ理解できないままに、しかし自分が幸せだと感じている。誰かの腕の温もりの中で。おっぱいを吸いながら。

 自分が世界からいつか消えることなど、知らないままに。

 唐突に視界が真っ白になり、すぐに真っ黒になった。

 あの幸せな世界の何かがそのとき欠けた。

 リザ、リザ。声が聞こえる。インクのような暗闇の中から、誰かが呼んでいる。

「リザ、もうあなたを悲しませないからね」

 そう言っているあなたの目が、この上なんてないほど悲しげで。

 ズドン、ズドン。音が聞こえる。まるで銃声のように規則的に、電車の音が。リザ、リザ。

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