第10話 モフモフ召喚士、自己紹介する
「ようこそリーノさん、ナ・デナデへっ!」
「ナ・デナデ筆頭モフ法師、ララィラが歓迎いたしますっ!!」
青白い光に包まれ、一瞬の浮揚感。
光が消えた後、僕の目の前にいるのは両手を広げた私服姿のララ。
やっぱり実物は10倍カワイイ……まだ少し恥ずかしいのか、ピンク色に染まった頬が可愛さをより引き立てている。
「今回はいっぱいモフ力を溜めたので、半日くらいは滞在して頂けますっ!」
「ぜひぜひ、ナ・デナデを楽しんでくださいねっ!」
「ふふっ、それじゃお言葉に甘えて」
「あらためて、呼んでくれてありがとうねララ!」
「えへへ……はいっ! ララもまた会えてうれしいですっ!」
やはり初デートは第一印象が大切……。
がっつき過ぎず……それでいてさわやかに。
おおっと、頼れるランのアドバイスも参考にして……チャンスがあれば親密度を上げるのも手だろう。
ってまてよ……このお城にララが住んでいるのなら……いきなり実家ご訪問!?
むしろ最初から好感度マックスぅ!?
魅力的な優しい笑顔 (自称)を貼り付けながら、ピンクに染まった脳みそをフル回転する。
ララはえへへと笑ってくれてるが、じわじわとあふれ出す邪悪な妄想オーラを感じる子もいるようで。
「ふむ、やはりこのねっとりとしたオーラは……救世主様の煩悩なの。 童○臭丸出しなの」
「世界から救世主兼カレシ候補を召喚とか、ララ様雑な導入だにゃん……20年前のラブコメかにゃ?」
「私服を褒められただけでデレデレとは、相変わらずララ様はちょろいわん。 キャラメル一個で釣れそう……」
聞き覚えのあるこの声は、”お城”を守っていた衛兵たちだろうか。
やけに手厳しい評価に、苦笑しながら背後に向き直る。
彼女たちの背格好は様々だが、胸に肉球のエムブレムが入った衛兵装束を身に着けているのは一緒で……どうやらララの護衛らしい。
「ちょ、ちょちょちょっみんな! 助手兼護衛なのに、ララ本人にセメントすぎないっ?」
”ちょろい”、”雑”といわれたのは流石に心外だったようで、しゃ~っと髪の毛を逆立て、腕をぶんぶん振って抗議の声を上げるララ。
仕草がいちいちカワイイ。
「いえいえ、ララィラ様はナ・デナデ始まって以来の凄腕モフ法師でございますなの」
「……モフ法とかわいさ全振りでパラメーターを使い切り、生活力も女子力も知能も壊滅……私たちが支えないとクソ雑魚ダンゴムシですので、我ら”三傑衆”、全力でララィラ様を支える所存なの」
キツネ耳の少女がびしりと敬礼をする。
「ご主人への評価がひどすぎる!? ダンゴムシだって生きるのに必死なんだよっ!」
彼女のストレートな評価に、ズガーンと頭を抱えるララ。
よく見ると、キツネ耳の少女は優しい笑みを浮かべており、横のふたりも楽しそうに笑っている。
どうやらこのハードなやり取りは、彼女たちの日常であるようだ。
「はぅぅ……いくらララでもダンゴムシよりはましだもん……」
「はっ!? すいませんすいません!」
「紹介が遅れましたっ! こちらがララの研究と”生活全般”をサポートしてくれる、ナ・デナデ最強の”三傑衆”、アッカちゃん、ミドリィちゃん、キーロちゃんですっ!」
「よろしくにゃ!」
「よろわんっ!」
「……よろしくなの」
片膝をつき、僕に一礼する3人。
(一応)この城を救い、主人であるララが認めた僕に敬意を払ってくれるようだ。
ただ、キーロと呼ばれたクールなキツネ耳少女は、僕のことを警戒している。
確かに、敬愛 (?)する主人と仲良くしようとする異世界人なんて、信用できないのは当たり前だ。
だけど、今後を考えると彼女たちとも打ち解けておく必要がある……そう考えた僕は、こんなこともあろうかと準備しておいたお土産を取り出す。
「!!! こ、この芳醇な香りはっ……」
ふふふふ……これこそ僕の男子力の結晶!
女の子ならみんな大好き、クリームたっぷり、ふわふわのシュークリームであるっ!!
……10分後。
「もう一つ……もう一つくださいにゃ」
「なにをすればいいのかわん! お手か? 火の輪潜りか?」
「……ふぅ……こんなおいしいお菓子を作る人が悪者なわけないの」
3人娘はすっかり僕のシュークリームに夢中である。
ふっ……勝った。
もちろんララも例外ではなく……。
「リーノさん、あのあのっ……もう一つだけいただけませんかっ!」
ぎゅっ!
衛兵ズの餌付けを終えた僕は、ララを”おあずけ”状態にしていたことを思い出す。
「おっとごめんごめん……ララには特別な1個を作って来たんだ」
「糖度15以上の蜜たっぷりリンゴを厳選……じっくり煮込んだ珠玉のジャムをクリームにブレンドした究極のっ!」
ぱくっ!
「はううううううぅ!? 僅かに黄色がかったクリームから香り立つ甘い香り……蕩けるように甘い、それでいてしつこくない極上のっっ」
「ん~~~~~~~! ララ、ララ……とろけちゃいますっ!!」
「あああっ! 贔屓だにゃっ!!」
究極のリンゴジャムシュークリームに悶絶するララ。
こうして、彼女たちの心を奪ったのは僕の男性的魅力 (笑)ではなく、丹精込めて作ったシュークリームだった。
*** ***
「……こほんっ! ララとしたことがしたことがっ! あまりの美味しさに我を忘れていましたっ!」
「えっと、最初にお仕事を済ませちゃいましょう」
悶絶スイーツ顔を見られたことが恥ずかしかったのだろう。
真っ赤に染まった頬についたクリームをハンカチで拭うララ。
「みんなっ、ナ・デナデ秘蔵の武器と防具をここに……」
ララの指示で、木箱に入れられた剣や槍、鎧などを運んでくるアッカたち。
「どうですかどうですかっ! 我らが誇る”えくすかりばー”に”でゅらんだる”ですよっ!」
「……えっと」
軽そうな木刀に先が曲がった槍、きらりと光るロングソードかあったかと思えば木刀にペンキを塗っただけである。
鎧も似たようなもので、なめし皮の胸当てが精々……。
……この世界”ナ・デナデ”はよほど平和で、打撃能力はほとんど必要ないらしい。
一応これでも武器防具なので、”エンチャント”は有効なはず。
僕は気を取り直して、使えるようになった強化魔術を発動させる。
「エンチャント・ウェポン!」
「エンチャント・アーマー!」
キイイイイインンッ!
キラキラとした魔力粒子が発生し、木刀や胸当てを覆ってゆく。
これで攻撃力や防御力が大幅に上昇したはずだ。
……まあ、0.5が5になったくらいだろうけど。
「うおおおおおおおっ!? すごいにゃ!」
「ミドリィのでゅらんだるが究極進化したわん!!」
「……ただでさえ伝説級の攻撃力を持っているのに、概算で10倍以上のゲインがあるの」
「……やるの救世主様、女子力だけ高い○貞男子という評価は改めなくてはならないの」
強化された武器を手に取り、アッカたちが大興奮している。
「ありがとうございますっ!」
「これでリーノさんがいないときも戦えますっ……って、どうされましたか?」
「うん……”魔術”を使ったんだけど、こないだとは感触が違うんだ」
感激するララたちだが、僕は思案顔だ。
モンスターを倒すだけではなく、回復魔術や補助魔術を使ったときにも術者には経験値が入る。
ここに来る前にステータスをチェックしたのだけれど、数回補助魔法を使えばレベル31に上がる見込みだった。
経験値が、入っていない?
僕は改めて自分の呪いの事と、前回召喚された時には経験値が入り、レベルアップできたことをララに説明する。
「ふむふむ……こないだお話しした件ですねっ!」
「エンチャントも終わった事ですしっ……ララのモフ法で鑑定してみましょう」
ララは僕の言葉にうなずくと、”鑑定”を始めることを約束してくれる。
「……はうっ……リーノさん、そちらのソファに寝て頂けますか?」
「恥ずかしいのでこちらを見ないでくださいねっ」
……なぜか彼女が頬を染めている。
え、ただ鑑定魔術を掛けるだけだよね?
盛大に混乱する僕の背後で、静かに布ずれの音がした。
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