第7話 スキル辞典リーノ、再会する
「こんにちは救世主様! そちらもお昼ですかっ?」
昨日と変わらないモフモフの犬耳と、軽やかに振られるしっぽ。
彼女はニコニコと楽しそうな笑顔を浮かべている。
ああ……あの尻尾、触り心地よかったなぁ……はっ!? もしかして今、女の子と部屋でふたりっきり!?
もうすぐ成人年齢とはいえ、冒険に明け暮れた4年間である……我ながら情けないほどドキドキする心臓を気合で押さえつける。
「ふふっ……実はララ、今お城の中にいるんですよっ」
「これはモフ法で作り出した映像ですっ!」
ララィラはおかしそうに笑うと、両手を広げてクルリと一回転する。
……え、魔術で作り出した映像!?
確かに、よく見れば彼女の身体は僅かに浮いている。
「うわ……そちらの魔術って凄いんだね、ほとんど見分けがつかないや」
「”契約”した方とじゃないと写せないって制限がありますけどねっ……証となる宝玉を渡し忘れてたので、ちょっと焦ってました」
「さきほど”繋がり”が強くなったので……無事に送ることが出来ましたっ!」
えへへと笑ったララィラは、机の上に置かれた宝玉を指さす。
元気な彼女はちょっとうっかりさんらしい。
よく分からないけど、ベニート神父に呪いを”鑑定”してもらったことが幸いしたようだ。
「それで、今日はどうしたの?」
「困ったことがあったら何でも言ってね」
カワイイ笑顔を浮かべるララィラがいるだけで (映像だけど)部屋の中が鮮やかに輝いて見える。
しかも、僕の好み300万点 (前日比+50%)のプラチナブロンド美脚獣人少女である!
さらり、と前髪をかき上げ……イケボ (自称)でかっこつけたのも、仕方ないと言えよう。
「そうでしたそうでしたっ!!」
「救世主様に倒していただいたナ・デナデ始まって以来の超絶凶悪魔獣、”蒼き災厄”ですがっ!」
「この子のネスト (巣)を偵察したところ、新たなヤバヤバがいっぱい生まれていたのですっ!」
「あれだけの軍勢に攻められては……ララたちのお城が今度こそばたんきゅ~ですっ!」
「救世主様! たいへんたいへん申し訳ないのですが、もう一度力を貸していただけないでしょうかっ!」
「……それに、救世主様の世界には”えんちゃんと”なる、武器をすごすごにぱわーあっぷしてくれるモフ法があるとかっ!」
「できれば”えんちゃんと”もお願いできればっ、ララたちも戦えますっ!」
彼女の映像はそういうと、じゃき~んと剣?のようなものを構える。
……僕の目には、小さな子がチャンバラごっこで使うおもちゃに見えたけど、異世界の剣なんだ……もしかして凄い力があるのかもしれない。
相変わらず元気いっぱいなララィラの様子に、思わず頬がほころんでしまう。
「もちろん手伝わせてもらうよ……ただ」
「? どうされたのですか救世主様?」
昨日戦ったスライムくらいなら……もちろんもっと上位のモンスターが大挙出現していたとしてもレベル30になった僕のスキルを使えば対処は可能だろう。
ただ、気になることがあって……残ったままの”呪い”、明らかに”世界の理”に反した超レベルアップ。
凄腕神術師のベニート神父でも解析できなかったのだ。
僕が向こうに行くことで、ララィラたちの世界に悪影響を及ぼすことも考えられる。
僕はためらいがちにその懸念を彼女に伝えたのだけれど……。
「大丈夫ですっ!」
「えへへ、救世主様は優しいですねっ」
返されたのは、にぱっ!と音がしそうな満面の笑顔だった。
「”契約”するときにちょこっと確認しましたけどっ、そんなヤバヤバは感じませんでしたっ!」
「こちらにはすっごい解析モフ法もたくさんありますから……ララたちに救世主様の呪いの事を調べさせてくださいっ!」
「い、いいの? こちらの解析魔術でも分からなかったんだ……とんでもない”呪い”かもしれないよ?」
「任せてくださいっ! ナ・デナデのモフ法はすべてを見通すのです!」
どん、と胸を叩き自信満々なララィラ。
……確かに、現在目の前に浮かんでいる彼女の映像は世界をまたいで送られているもの。
彼女たちの魔術は、攻撃ではなく間接効果に特化しているのかもしれない。
そう思いなおした僕は、ありがたく申し出を受けることにした。
「ありがとうございます救世主様っ!」
「それでは……”召喚”のモフ力を溜めますので、たぶん明後日くらいになると思いますっ」
「こちらの宝玉にコールしますので、よろしくお願いしますっ!」
「うん、分かったよ!」
どうやら”召喚”する前に合図してくれるらしい。
トイレにこもっている最中や、ごにょごにょしている最中に呼び出さない様にという配慮だろう。
……僕も今後召喚魔術を使うときは、呼び出される側の事情を考えてあげようと心に決めるのだった。
「あと……やっぱり”救世主様”は恥ずかしいから、リーノって呼んでもらえるかな?」
「分かりましたリーノさんっ!」
「それではララィラの事は、ララって呼んでください!」
「オッケー。 それじゃララ、また明後日ね」
「はいっリーノさん! お待ちしていますっ!」
しゅんっ、と音を立て、ララの映像が消える。
彼女にまた会える……思わずガッツポーズをした僕は、今からどんな冒険着を着ていくか頭を悩ませるのだった。
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