第35話 密着取材
その取材のロケの日に、僕は常に奏佑と同行することになった。取材班は、僕らの高校まで取材に訪れた。それまで僕や奏佑を避けていたクラスメートたちが、今まで何事もなかったかのように愛想よく話しかけて来る。奏佑はそんなクラスメートたちを軽くいなし、いつものように、昼休みになると音楽室に僕を連れ出した。僕らは普段通りピアノを一緒に弾いては笑い合い、カメラがあることも忘れて楽しんだ。
その日の放課後、僕は奏佑の家に泊まりに行くことになっていた。僕らは一緒に、あのモーツァルトの『二台のピアノのためのソナタ』を演奏したり、宿題をしたり、普通の「カップル」として過ごす姿をカメラの前で披露し続けた。取材後のインタビューで、奏佑は僕をそっと抱き寄せながら僕らの関係について語った。
「週刊誌で報道されたことは全部本当です。僕が付き合っているのは、この
僕は何だか恥ずかしくて、テレビカメラの前でリンゴのように赤くなった頬を晒した。
「律くんはどうですか?」
テレビのスタッフが僕に話を振った。
「僕からはもう……。奏佑の言った通りです。僕にとっても奏佑は誇りだし、この世界で一番大切な存在だと思ってます」
僕ははにかみながらそう答えた。
番組が放送されると、その反響は予想を上回るほど大きなものだった。奏佑の元には、相変わらず冷やかしの手紙も届いたが、同時に僕らを励ますような温かい手紙も格段に増えていった。僕らの関係を相変わらず笑いものにするクラスメートもいたが、番組を経て少しずつ僕らの周囲には友達も増えていった。
校長は、自分の発言が放送で奏佑によって紹介されたこと、そして奏佑のカミングアウトに対して総じて好意的な意見が寄せられたことから、すっかり
「きみたちは一体どういうつもりなんだい? 二人は別れるとここで約束したはずだ。それなのに、私の発言まであんな風にカメラの前で話すなんて」
校長は憤慨した様子で僕らを怒った。だが、奏佑は平然と、
「インタビューで話したことが全てです」
と言い放った。悔し気に歯ぎしりをする校長に、
「校長先生、お言葉ですが、私としても二人の関係を無理矢理引き裂くのは違うのではないかと思います」
「先生?」
僕も奏佑も宮沢からのいきなりの援護射撃に驚いた。
「宮沢くん!」
と、校長が焦った顔で宮沢に叫んだ。こうなると、校長は
「二人はこれまでずっと二人三脚でやって来たんです。うちの高校から国際ピアノコンクールの優勝者やピアノの全国大会で二位に入賞する生徒が出るなんて快挙なことではないですか。その原動力となったのが、この二人の関係性なのだとしたら、それを大人である私たちが邪魔することが、果たしていいことだと言えるのでしょうか」
校長は苦虫を噛み潰したような表情をしていたが、最終的に
「わかった。だったら、二人の関係は認めよう。ただし、外で風紀を乱すような行いは慎むように」
と言った。とうとうあの校長が折れたのだ。僕はほっとしたが、奏佑はまだまだ容赦をしない。そんな校長に対し
「風紀を乱すような行いってなんですか?」
と、奏佑は追及し続ける。校長は真っ赤になって叫んだ。
「風紀を乱すような行いは行いだ!」
「僕たち、別にそんな行為は何もしてないですが」
奏佑は平然とした涼しい顔で校長に質問を続ける。校長はすっかり逆上して、
「きみは私を馬鹿にしているのかね!」
と怒鳴った。
「路上でチューしたりするなってことだ」
宮沢が校長の横からそう僕らに言ってニヤッと笑った。今度は僕の方がそれを聞いて真っ赤になってしまった。
「ああ、そういうことですね。了解です」
奏佑は
「こら、お前ら大声で笑うな。全部聞こえているぞ」
宮沢が校長室から出て来て僕らを注意した。
「聞こえてましたか?」
そんな宮沢に対し、奏佑はおどけてみせた。さすがに校長を
「すみません」
と謝った。宮沢はそんな僕らの肩を軽くポンポン叩いた。
「ま、お前たちはお前たちの信じた道をいけ。俺が言いたいのはそれだけだ」
「ありがとうございます!」
僕ら二人は揃って頭を下げた。宮沢は僕らに笑いかけると職員室へ戻って行った。
宮沢がこんなに僕らに理解があるなんて意外だったな。口うるさくて面倒な教師だと思っていたけど、実はあの人が僕らのことを誰よりも見てくれているのかもしれない。
「やったね」
「やったな」
僕と奏佑はハイタッチをして喜んだ。
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