幕間「獣魔の終、髑髏は想う①」
――それは、“魔王クゥネリア暗殺未遂事件”が解決した直後のこと。
事件の発生から魔都に滞在していた十大領主たちに召集がかかり、すぐさま緊急議会が開かれた。
そこで、真実はつまびらかにされる。
「――というわけで、愚かにも魔王暗殺を謀り、さらに過去に先代魔王とその第一皇子まで暗殺していたのは、あろうことか三賢臣のひとり、ジデルと判明。そして、
ざわめく領主たちに、ことの詳細を語る
その言動は、いつにも増して冷淡。
全身をフードとローブですっぽり隠した普段どおりの不気味な出で立ちからにじみ出る、いつも以上に厳粛とした雰囲気が、浮足立つ領主たちを黙らせる。
それについで、本議会の中心である仮面の女魔王――クゥネリアが粛々と口を開いた。
「余に刃を向けたことはもちろん、先代魔王とその皇子まで手にかけていたなど、許しがたい凶行。ゆえに、ジデルにはその罪を己の命をもってつぐなってもらった」
「それは、つまり?」
「無論、処刑したということだ……余自らの手でな」
その言葉に、議会はふたたびざわっと空気を変える。
「ヤツらに限らず、この魔王城に余を疎む意思が存在しているのは承知している。しかし、余は寛大だ。従わぬ者をむやみに手に掛けるようなマネは好まぬ……が、もし直接余に歯向かうとなれば容赦はしない。その者はただちに、ジデルと同じ道を辿ることになろう……諸君らには、それをゆめゆめ肝に銘じておいてもらう」
その空気を、魔王の冷徹な言葉がたちまち凍らせる。
理性的でありながら、その本性は冷酷非情……
名君ではあるがどこか甘さがあり、結果的にその隙をジデルに突かれて命を落とした先代魔王ディオールにはなかった恐怖の魔王たる風格が、この女魔王にはたしかにあった。
それを目の当たりにし、うつむいて沈黙する者、口を手で覆って戦慄する者、その威容に関心する者……と様々な反応を十大領主たちは見せる。
――しかし、ここに出席する何割かの者たちは知っていた。
魔王クゥネリアが自らジデルを処刑した……それが、偽りであることを。
実際に手を下したのはナーザであり、クゥネリアは一切己の手を汚してはなかった。
それでもあえて事実を偽ったのは、ひとえにクゥネリアに対する反感の根を摘むためである。
歯向かう者には容赦しない……そう印象づけることで第二、第三と続く可能性があるクゥネリアへの凶行を抑制しようというのが狙いだ。
これを提案したのはナーザだが、魔王クゥネリア――いや、ルーネはあえてそれを承諾し、ジデルの処刑という無実の業を自ら背負った。
それが自分の命を守るための最善手であり、そして……今回の事件でなにもできなかった自分に対する、彼女なりのけじめだった。
この事実を知る仮面の従者フィールゼン、魔王秘書シャロマ、
「すばらしい! 我らの頂点たる魔王にふさわしい、じつにエレガントなふるまいです!」
そんな彼らの心情などつゆしらず、大仰に彼女を称賛するのは
事件の真相と魔王の非情な態度を目の当たりにしても、彼の態度には一切の陰りもなかった。
「ただ……」
そのカイネスが、不審げに目を細める。
「ガラド殿はどうなさったのです? 直接魔王様に危害を加えなかったとはいえ、反逆行為に加担していたのは事実……あの方も処刑されてしかるべきでは?」
「……言ったはずだ、余はむやみに命を奪うのは好まぬ。そなたの言った通り、あやつは余に直接危害を加えていない。もちろん、だからと言って許す気もない……あやつには、特例のないかぎり死ぬまで牢獄に入っていてもらう。もし、いずれ心の底から余に忠誠を誓うよう心変わりするのであれば、あらためて処遇を考えるがな」
「ふっ、さようで」
冷静に切り返す魔王に対し、あくまで飄々と振る舞うカイネス。
その態度は少なからず魔王に不快感を与えるも、この程度はいつものこと……
声を荒立てて反論しようものなら、非情な選択をしてまで作ろうとした恐怖の魔王像が台無しになってしまう。
それを理解しているクゥネルは、イライラした本心を仮面の奥底にしまい込んだ。
……表情から本心がわからない者といえば、もうひとり。
「ガラドは、最後にはおとなしく投獄されたのであろう? 意固地なヤツのこと、自らの意思で牢に入ったなら、二度と出てくる気はないだろう。もはや死んだも同然……見せしめのための処刑なら、ジデル殿ひとりで十分ということだ」
そう冷静に分析するのは、穏健派筆頭としてこれまでの議会で幾度となく強硬派筆頭のガラドと舌戦を繰り返してきたリチルだ。
それは、あくまで冷静な意見を述べただけか、それともライバルの尊厳を守るための言葉か、あるいは……
いずれにせよ、一切表情を刻まないそのドクロの顔が、本心をあらわにすることはない。
「そのとおりだ。こたびの件は元・
そして、魔王のその言葉をもって、議会は解散。
魔王の意に納得いかないものもそうでない者も、一様に言葉にも顔にも出さず、粛々と部屋を後にした。
「――バカなことをしたものだな、ガラド」
リチルもまた、そんな言葉を一言吐いて、部屋を去る。
その声には侮蔑の感情はなく、張り合いのある宿敵の末路を惜しむ哀愁を多分に覗かせていた……
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